浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



断腸亭落語案内 その57 春風亭柳好 野ざらし

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落語案内。
回を重ねて、57回目。

円生、志ん生文楽に加えて、金馬まで書いてきた。

基本、音がある、今でも比較的簡単に聞くことができる
ものを挙げてきた。
やはり、音が多いのである。
昭和というのは、落語のやはり黄金期といってよかった。
この四人以外も含めて、数多くの人のレコード、カセットが
作られ、買う人がたくさんいたということである。
これに加えて、寄席のラジオ、その後のTV収録、中継。
スタジオ録音も多かった。
私の子供の頃でも、毎日どこかの局で落語の番組はあった。

そんなことで、豊富にある昭和の落語コンテンツ。

円生、志ん生、金馬に加えて聞いてほしい、知ってほしい
落語家、噺をもう少し、挙げてみよう。

三代目春風亭柳好
もちろん「野ざらし」。
全編、謳い上げる名調子。

5分ほど、釣りのことなど、枕をふって噺に入る。

(ドンドンと戸を叩く仕草。)
八「お、お、お、おはよ、隠居、隠居ぉ!
 (戸が開くいて、叩いていた手で開けた人の頭を叩く、仕草。)
清「痛いな。」
八「痛いなじゃねーや、
  人がドンドン叩いて。」
清「今開けるから。」
八「待て、っていえば待つよ。
  こうやっているところに、戸がスーッときたから、
  バーン、って。
  どうも戸にしちゃ柔らけえと思ったよ。」
清「あたり前だ。
  戸と一緒にする奴ぁあるか。
  なんだい?。」
八「なんだい、じゃねーや。
  人は見かけによるぞ。」
清「なにを言ってるんだ。人は見かけによらない。」
八「よるよ。
  あっしゃぁ、仕事から帰ってきて、横んなって、二時頃
  目が覚めると、お前さんとこでお女の声。
  はーて、隣は隠居でね、女っ気はねーんだが。
  こーなると、寝てらいねーね。
  商売道具の、あっしゃぁ、鑿(のみ)を取り出して、
  壁ぇ、穴ぁ開けて、、」
清「お前か、あれ。」
八「お前かじゃなよ。
  文金(ぶんきん)の高島田(たかしまだ)。
  (女性のゴージャスな髪型)
  年の頃、十六、八ですか。」
清「なにを?。」
八「十六、八かい。」
清「妙な数取りだね。
  なぜ、十七、八と言わない?。
  十六、八だって。
  七が抜けてら。」
八「あー、俺ぁ、七(質)はこないだ流したぁ。」
清「なーにょ。」
八「どうだい。
  隣にゃぁ、一人もんが鎮社ましましてるんだ。
  お手柔らかに願いてぇーや。」
清「おや。
  お前さん、夕べのあれ、ご覧かい?。」
八「ご覧かじぇねーや。
  ご覧すぎちゃってぇい。」
清「ご覧ならお話するが、あの話しんなると、ちょっと怪談じみた
  話しになるがなぁ。」
八「怪談抜き。
  あっしゃぁ、臆病でねー。
  自分とこの手水場(ちょうずば、便所)だって、夜中一人で行ったこと
  ねーすから。怪談抜き。」
清「抜き、てぇーが、話しの順だから聞いといで。
  
  お前も知っての通り、私ゃ釣りが好きだ。」
八「へえ。」
清「昨日今日と、向島の三囲(みめぐり、神社)あたりで
  やっていたが、どうも食いがわるいんで、段々引かされて
  鐘ヶ淵あたりまでいったがなぁ。どこ行っても食わない時は
  食わない。むろん釣れやしない。
  こういう時は、早仕舞いがよかろう、てんで、釣り竿糸を
  巻き付けていると、
  隅田多聞寺(すだたもんじ)で打ち出(い)だす、入相(いりあい、暮れ)の
  鐘が、陰にこもってものすごく、ぼーーーーーん、と、まあ、
  鳴ったねぇ。」
八「へぇ。(弱弱しく)
  鳴りまして。」
清「うん。

  四方の山々雪解け掛けて、水嵩(みずかさ)まさる大川の、
  上げ潮南で、ざぶーりざぶりと、岸部ぇ洗う水の音も
  ものすごい。」

八「へえ。」
清「風がくると、
  枯れ葦が、す~~~っと。

  そっから~、
  (手を一つ叩く。)
  パッと出た。」

  こら、こら、こら。
  どこ行くんだ、どこ行くんだ。
  (バタバタと動く仕草。)
  どこ行くんだよ。
  打っちゃっておけないよ。
  あたしの紙入れ、懐に入れやがって。」
八「めっかったか。」
清「なーにが、めっかったかだい。」
八「怖くなると、なんか懐へ入れたくなる。
  悔しいけど返そう。」
  (懐から出し、返す仕草。)
清「なーにが悔しいからだよ。」
八「なにが出たんです?」
清「くだらないもんだ、烏だ。」
八「なーにを言ってやんで。
  烏なら烏と、お手軽に言ったらどうだい。
  なにが飛び出すの、ってから、肝っ玉、上がったり下がったり
  してら。
  その烏がどうした?」
清「どうこうもない。
  ねぐらへ帰る烏にしては、ちと頃合いもおかしいと、
  なんの気もなく、あたしが、こう、葦を分けていくと、
  そこに一つの、髑髏(どくろ)があった。」
八「はー、唐傘(からかさ)の壊れたの?」
清「それはろくろだよ。」
  (ろくろは、和傘の骨の付け根部分。)
  屍(しかばね)だよ。」
八「あー、赤羽かー。」
清「人骨、野ざらし、だよー。」
八「あー、そーですかぁ!?
  ジンコツ、ノザラシーーー?、、、てな、なんだー?」
清「なーにを言ってんだよ。
  骸骨だよ。」
八「あー、ゲーコツか。」
清「ゲーコツてぇのはない。

つづく