引き続き、文楽師「つるつる」。
旦「さあ。かまわずな、俺がここへ、出そう。」
(財布を一八の前の畳の上に置く。)
(芸者に向かって)
八「どうです!、ね。
大将てぇものは、こういう人なんです。
中座する、幇間の前へ、
お前は今夜、身祝いがあるから、ズバリっと、ご祝儀を下さる、と。」
(一八、財布を手に取る。)
旦「お前(めえ)にやったんじゃねえや。
ただ、なんの気なしに、ここに出してみたんだ。」
八「あ、そーですか。
これ、下すったんじゃない。なんの気なしに、出しただけ。
おやおや。
そーかー、なんだー。」
(一八、放り出す。)
旦「なんだ、放り出しゃぁがって。
これでお前のもの買おう。」
八「売りますよ。なんでも。
羽織、着物、帯、みんなあなたにいただいたもの。
売るものはなし。」
旦「そんなもの買うんじゃねえ。
お前(めえ)の頭、半分買おう。」
八「え?」
旦「半分、坊主になんねぇ。二十円やるから。」
八「半分坊主ぅ~~?!
へ、へ、へ、へ~。
嫌、てぇわけじゃないんですよ~。
普段なら、飛びつくんだよ~、あーた。
今夜だけはいけないよ~。先方、行くんでしょ。
一八っさん、あなた、頭半分、どうしたの?、って。
二十円で売ってきた、って、、、。」
旦「色っぽい野郎だね、こいつぁ。
下がって十両。(円を、両という言い方があった。)
お前の目の玉に、親指突っ込もうじゃねーか。」
八「眼つぶし~?御免こうむりましょう。」
旦「下がって、五両だ。
どうだい、一つ、生爪はがそう。」
八「痛いよ、あーた。
あーたは、痛い芸が好きだねぇ。
なんか他にないすか?。」
旦「下がって、一両!。
手前(てめえ)一つ、ポカ~~ンと殴ろう!。」
八「いよっ。
うけ合いましょう。
うけ合うよ。
ポカ、ポカっとくると、二両でしょ。」
旦「そーだ。」
八「ポカ、ポカ、ポカ、っとくると三両。」
旦「そーだ。」
八「こーなると、私も商法ですから、一個でも間違うといけませんから
あたしは、算盤を持つよ。
あーたがねー、ポカ、ポカ、ポカ、ポカ、ポカ、ポカ、ポカっとくると、
あたくしは、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、っと
ポカ、ポカ、ポカ、ポカ、ポカ、ポカ、ポカ、
パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、
ってね、ぶたれ通しで、、死んでいくら。」
旦「死んじゃっちゃ、しょーがない。
こんな欲張った奴ぁねーな。」
(一八、芸者の方を向いて)
八「は~?なんすか?、はあ、はあ、はあ。あー、さいですか。ありがとう存じます。
(旦那へ)
へへ~。大将、仲間ぁありがたいですな。
はる子姐さんのご忠告。大将は、力自慢だからぶちどこをうかがえって。
どこをおぶちになります?。
仮にでも、一両でぶつんだからな。
旦「だうだい、最初、目と鼻の間、行こうじゃねーか。」
八「それじゃ、一個でまいっちゃうよ~、いけませんよ~。
五十銭でようがすがね、肩を。」
旦「按摩じゃねーや。ばーか。」
八「踵が二十五銭!」
旦「そんなのいけねえ。」
八「拳固を見ただけで、ただの五銭。」
旦「ふざけんな、こん畜生。!
このコップで一杯呑め!。一両やるから。」
八「ほーほー、一杯呑みの一円、へ?息を付かずに一杯呑みの一円いただき?
あ、はは~。
やるねー、あーた。
へ?、現金取引でしょうな~?。
いけませんよ、この前も、こんな大きな祝儀袋、いただいた。
ありがたいと思って、家ぃ帰って開けてみると、絵葉書が出たよ、
あーた。ありゃーいけないよ。
よろしゅーございます。なにごとも営業でございますから。
はる子ねーさん、お聞きの通り。
今日(こんち)はお客ですから。
(コップに注いでもらいながら)
そこんとこ、按分(あんもん)なすって、、
今日は、八分目、、、ってとこで、、、
あーーーーーーー、とっ、とっ、、、あーーーーー、
驚いたな、こりゃ、山盛んなっちゃった。
姐さん、申し上げたでしょ。
今日は、八分目でって、
(旦那に)
大将、苦情いってんじゃないですよ。
ただ、一杯になったってことを申し上げてるだけの話なんです。
もう、口からお迎えってやつで、、、。
(グビグビと呑む仕草)
フー。
いただきました。」
旦「偉いなぁ~。
やるぞ!。」
八「へい!。ありがとう存じます。
(手を出す仕草)
右まさに頂戴仕りました。受け取りは差し上げません。
へい。こんだ、てるちゃん?
てる奴さん。お酌。
姐さん、あーた、もうだめ。
近所にいますよ。お座敷い出たら、お互いに助けたり、
助けられたり。よーすか!。
あ~~~~~~~~、
あーた、押すねー、
(旦那へ)
いえ、苦情を言ってるじゃないんですよ~。
(芸者てるちゃんへ)
てるちゃん憶えといで。
どうして、そいうことすんの?。
頼んでんのに、こいうことすんの。
女の子てぇのは意地の悪いことすんだから。
どういうわけのもんなんだか。
人の困んのを喜んで。
よこざんすよ。そーいうことをするんならするで。
(んぐ、んぐ、、、、呑む。)
ふーーーー。
へ、へ、へ、、、。いただきました。」
つづく