浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



蒟蒻の白和え

2月24日(土)第二食


第一食は、冷蔵庫にレタスがあったので、
トマトはないが、ベーコンとトーストで、ベーコン・レタス・サンド。


今週は、家で、少し仕事。
歯医者。


夕方、白和え、が食いたくなる。
と、いうよりも、白和えで呑みたくなった、という方が、正確である。


このところ、暖かい日が続いていたが、
今日は、風も強く、寒くなった。
しかし、まあ、これで平年並、と、いうことであろう。


例によって、稽古に出ようかと思うが、
寒さで、ちょっと、おっくうになってしまった。


そんなわけで、夕方であるが、白和えで、一杯、、
に、なってしまったのである。


白和え、というと、筆者にはもともと、
池波レシピであった。


先週の、東京FMの生電話インタビューの質問にあったのだが
「なぜ、池波正太郎作品に登場する料理を再現しようと思ったのですか?」
と、いうこと。


白和え、というのは、格別、池波作品でなくとも
昔から日本中にある、一般的なメニューであるが、
やはり、筆者にとっては、池波作品の、レシピであり、料理である。


先の「なぜ再現するのか?」という問い、への解答は、
とても大きくいうと、なくなってしまった、筆者のふるさと、
江戸・東京を探すことだから、、と、いうことである。


何度も書いているが、父や爺さんが生まれ育った頃
あるいは、もう少し後、戦後、昭和30年代までは、東京にも
江戸の庶民文化、江戸の人と人のつながり、長屋、落語、江戸の町名、、
なんでもよいが、確かにあったのである。
それが東京オリンピックを境になくなっていった。
つまり、筆者が物心ついたころには、既にふるさとである
東京にいながらにして、ふるさとは、消滅していた。
そういうことなのである。
これは、悲しいことである。


司馬遼太郎鬼平や、梅安、剣客などの池波作品を評して、
「池波さんの、東京からなくなっていった、
江戸を再構築する試み」といっている。
筆者が惹かれるのは、ずばり、そこなのである。


やはり、池波作品には、なくなったしまった、
ふるさと、江戸・東京があるのである。
匂い、というのであろうか、、、。
他の時代小説、司馬先生でも、藤沢周平でも、よいのだが、
やはり、池波正太郎とは、違うのである。


池波先生は、江戸の町を、町名や町割り、その他、
地理的なことも、実名で、きちんと描かれている。
(一般には、実名で書かれていない、時代小説も多い。)


鐘淵の秋山小兵衛の隠宅から、大治郎の橋場の道場まで、
吾妻橋をまわるとどのくらい時間がかかるのか、
さらに、そこから、四谷の弥七のところまで、駕籠を飛ばせば、
どのくらいかかるのか、本所の宗哲先生までは、、
そんなことも、先生にとっては、
とても大事なことであったのだと思われる。
こういったことが、あたりまえのように、丁寧に描かれている。


それは、東京に生まれ育った者だから、なのである。
いい加減には書けない。
それが、筆者が感じる、本当の江戸・東京の匂い、なのである。


食い物も、また、然り。


池波作品に登場する料理は、八百善など、
いわゆる料亭の江戸料理ではない。


庶民の、(もっというと、池波先生が好きなもの、
と、いった方が正しい。)ものである。
作品の料理を再現したところで、それは江戸料理ではない。


しかし、筆者には、江戸東京で、庶民が普通に食べていた、
ものが大切なのである。





『その一品は蒟蒻(こんにゃく)であった。


短冊に切った蒟蒻を空炒(からいり)にし、油揚げの千切りを加え、


豆腐をすりつぶしたもので和えたものが小鉢に盛られ、運ばれてきた。


 白胡麻の香りもする。』



鬼平犯科帳(十七)特別長篇 鬼火 池波正太郎著 文春文庫



描写としてはこれだけである。


江戸郊外、駒込富士前町の、
「酒は五合まで肴(さかな)は有合わせ一品のみ」と、
いう大きな木札が掛けてある、『権兵衛居酒屋』。


これを、うまそう、だと感じるのは、
この背景から、味が想像できるからである。


むろん人によって、その味は、様々なものであろう。
(それでよいのだし、それが池波作品の本領である。)


白和え、と書かずに、「蒟蒻」と書いているところ。
この描写から、筆者は、蒟蒻は甘辛の濃い味。
ここが、この白和えの、ポイントである、と感じる。


そして、これで呑む酒は、とてつもなく、うまそうだ、
と、感じたのである。


江戸・東京の味で、酒に合う、白和えは、そのはずである、
と、いうことなのである。


まず、蒟蒻は、細く、短冊に切って、湯通しし、あく抜きする。
これを、鍋で、酒、しょうゆ、砂糖で
色が付くまで、味濃く、丁寧に、炒り煮、にする。


油揚げも同様に、細く切り、湯通しし、油抜き。
甘辛く煮る。油揚げは、蒟蒻よりも圧倒的に、味を含みやすいので
軽く煮込めばよい。(蒟蒻とは別に煮る方が、よい。)


豆腐も湯通し、裏漉しし、西京味噌を加え、
胡麻ペーストをよく合わせる。


青みが入るとよいので、今日は冷蔵庫にあった、
ブロッコリーを小さめに切り、茹でて、一緒にする。





なんども作っているので、大きな問題はない。


今日は、油揚げの味が、ちょっと、濃過ぎの感はあるが、
これは、ブロッコリーの量で調整。




ともあれ、これで呑む酒は、うまい。