浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



白和え


6月29日(日)夜



日曜日。



昼下がり。



天気はよいが、蒸し暑い。



ただ、開け放っていれば、しのげないほどではない。



こんな時刻には、なにか作って一杯やろうか。



なににしようか。


冷蔵庫をのぞくと数日前に買って奴で食べた豆腐が
少しあまっている。


豆腐というのは、ご案内のように、落語の「酢豆腐
ではないが、わるくなりやすい。


ん?様子をみると、まだ大丈夫、で、ある。


と、なると、この量であるし、白和えを作ろうか。


白和えというのは、酒の肴として
私などは、かなり上等なものではないかと思っている


そして、毎度書いているが池波レシピ。


作品は「鬼平」。


特別長篇「鬼火」で、ある。


長谷川平蔵の母の実家。
巣鴨村の大百姓・三沢仙右衛門(平蔵の従兄弟でもある。)に
教えられた、駒込富士前町の富士浅間神社の鳥居そばの
「権兵衛酒屋」、である。


この「権兵衛酒屋」というのは、本来は名前のない居酒屋で
名無しの権兵衛ということで「権兵衛酒屋」。


「酒は五合まで肴(さかな)は有合わせ一品のみ」と、
いう大きな木札が掛けてある。
そこへ平蔵が入って出てきたのが


『その一品は蒟蒻(こんにゃく)であった。


短冊に切った蒟蒻を空炒(からいり)にし、油揚げの千切りを加え、


豆腐をすりつぶしたもので和えたものが小鉢に盛られ、運ばれてきた。


 白胡麻の香りもする。』



いかがであろうか、この文章。


酒呑みで、これを読んで、酒の肴につまんでみたいと
思わない人は、あろうか。


私はこれを読んで白和えを作って食べるように
なった。


駒込というのは、むろん今の駒込ではない。


江戸の頃の駒込


江戸の地図


現代の地図


より大きな地図で 断腸亭料理日記・駒込 を表示
江戸の地図を見ていただければおわかりになるが、 通りの富士神社側は、百姓地、植木屋多し、などと書かれている。 江戸も郊外。 この通りは、今は本郷通りといっている。 本郷三丁目、東大の前を通って、この富士前町、六義園があって この先はJRの駒込駅になる。 昔は、日光御成道といっていた。 (将軍の日光社参の時に通った道。 今でも日光街道というくらいで、国道4号線、北千住から 草加、越谷、春日部、というルートなどだが、将軍様が 日光へ行く道はこの本街道は使わずに、ここから、 岩淵、川口、鳩ケ谷と、少し西側にそれた脇街道を 使うことになっていたのである。) そんなところにある、不愛想な居酒屋。 そこで酒の肴に出される、一品。 これがまずいはずがなかろう、と、思えてくるのは 池波先生の文章力、構成力といってよろしかろう。 蒟蒻と小松菜を買いに出て、作る。 今日は作品のイメージ通りに 蒟蒻と油揚げ、白胡麻の香りのする、白和えを目指した。 作り方は毎度書いているので、今日はやめよう。 ただ、ウイークデーではなく、時間があるので できるだけ丁寧に作ってみた。 小松菜は水気が出ぬようにごく固く茹で、 冷水で急冷。 蒟蒻と油揚げにはしっかり味をつけ、置いて味を 含ませる。 白胡麻はちゃんと炒ってからあたり鉢で あたる。 ただ、練り胡麻は芝麻醤。 これはいつも通り。 完全に作品通りであれば、蒟蒻と油揚げだけで、 青物いらないのかもしれぬ。 青物が入らぬと、文字通り色気がなくなる。 ストイックといえば、ストイック。 だが、小松菜くらいは入れたくなってしまうのは 人情、ではないか。 むろん、入った方が、料理としてうまいものになる。 これで菊正宗の冷酒を茶碗でやる。 まさに堪えられない。