6月4日(月)夜
夜。
例によって、オフィスから牛込神楽坂までの道を
歩きながら、なにを食べようか、考える。
このところ、少し、ダイエットを意識したメニューを
という頭がある。
そこで、思い付いたのは、白和え。
白和えというのは、和食の惣菜としては、
とても一般的なものであるが、私にとっては、
池波レシピ、で、ある。
登場するのは、鬼平、『特別長篇 鬼火』。
鬼平こと、火付盗賊改方の長官である、長谷川平蔵は
とある事件の探索中。
駒込富士前町にある富士浅間神社の鳥居そばの
「権兵衛酒屋」と、ところで呼ばれる居酒屋へ入る。
「権兵衛酒屋」と、いうのは、本来は名前のない居酒屋であるが、
名前がないので、名無しの権兵衛、と、いうこと。
「酒は五合まで肴(さかな)は有合わせ一品のみ」と、
いう大きな木札が掛けてある。
鬼平がこの「権兵衛酒屋」に入ると、出てきたのがこの一品。
『その一品は蒟蒻(こんにゃく)であった。
短冊に切った蒟蒻を空炒(からいり)にし、油揚げの千切りを加え、
豆腐をすりつぶしたもので和えたものが小鉢に盛られ、運ばれてきた。
白胡麻の香りもする。』
本文にはなぜか書かれていないが、これは、白和え、で、ある。
白和え、というのは、惣菜としては、あたり前のものだが、
私の母親なども、あまり、いや、まったく作らなかったのでは
なかろうか。
食べるようになったのは、社会人になってから。
それも、ある程度ちゃんとした和食の料理屋であったと
思われる。
改めて考えてみると、チェーンの居酒屋などでは
やはりあまり見かけない。
なぜであろうか。
材料は豆腐と白胡麻。
あとは、和えるもの。
実際には手間はあまりかからないが、
今一つ、人気がないからなのか。
ともあれ。
帰り道、100円コンビニで、小松菜、
絹ごし豆腐、油揚げ、こんにゃくを買う。
帰宅し、作る。
手間はかからない、と、書いたが、入れるものによって、
まあ、下拵えに多少の作業は発生する。
作品には、こんにゃくと油揚げ、と出てくる。
これだけでもよいのだが、いつも小松菜などの青みを
入れることにしている。
お湯が多くいるので、鍋に加えて、薬缶も火にかける。
こんにゃくは半分、油揚げは二枚、それぞれ
小さな短冊に切る。
お湯が沸いたら、こんにゃく、油揚げを
別々の鍋で、それぞれ湯がく。
こんにゃくは、くさみを取るため。
油揚げは、油抜き。
こんにゃくは五分以上は時間をかけた方がよい。
油揚げは、1〜2分でもかまわなかろう。
終わったら洗って、それぞれ、ざるにあげておく。
次に小松菜。
5cm程度に切る。
茹でる前に冷水も洗い桶に用意をしておく。
沸騰した湯に茎の太いところから入れる。
茎がしんなりしたら、葉の部分。
葉の部分を入れたら、箸でしずめて、すぐ、終了。
ざるにあけて、すぐに冷水に入れる。
胡麻和えなどでもそうだが、葉物野菜を和え物にする
場合は、できるだけ、堅茹でがよい。
柔らかいと、どうしてもあとから水が出てきてしまう。
冷えたら、これもざるにあげておく。
次に、こんにゃく、油揚げの味付け。
時間がかかるので、こんにゃくから。
小鍋にしょうゆ、酒、砂糖。
煮詰めながら、味をふくませる。
油揚げも別の鍋で、同じくしょうゆ、酒、砂糖で
味をふくませる。
次に豆腐。
白和えに使う豆腐はほんの少しでよい。
一丁も小さいものを買ってきたが、
その半分を、あたり鉢に入れ、杓文字(しゃもじ)でつぶす。
ここに、練り胡麻。
白胡麻を炒って、あたって、というのが
本来だが、練り胡麻があるので、これを使う。
練り胡麻は、中華材料の芝麻醤。これで十分。
香り付けなので、そう量はいらない。
味見をしながら、適量まで入れる。
白和えの和え衣の味付けは、酒、砂糖などを
入れるやり方もあるが、白味噌を入れるのは、
確か江戸割烹の八百善のレシピであったと思う。
さて。
これで全部の材料が揃った。
手間、といえば、手間ではあるが、それぞれは
別段、手の込んだことをしてはいない。
プロであれば、和え衣はさらに滑らかさを出すために
裏漉したりするが、むろん、素人はこれでOK。
あたり鉢の和え衣に、小松菜はペーパータオルで
水分をよく拭きながら、油揚げは、煮汁を絞りながら
加える。
いつも、入れる具材のバランスがわるくなっていたので、
それぞれ量の様子をみながら和える。
小松菜は茹でたもの全部。
油揚げとこんにゃくは多少残った。
ビールを抜いて、食べる。
白和えなど、見た目は同じようなものだが、
今日は、よくできている。
なにがといって、味の塩梅(あんばい)、で、ある。
こんにゃくと油揚げに濃い目の味を付けているので
今までは、それらの味が出てきていてしまった。
油揚げのつゆを絞らないで、入れていたのもあったろう。
本来、白和えは野菜だけでも成立するので、
味は主として、豆腐と練り胡麻の味で、
淡白なものである。
外で、プロの作ったものは、やはり、そう。
今日は、ちょっと、そちらへ近付けたつもり。
この鉢に二杯、食べてしまった。