11月20日(月)夜
さて、月曜日。
今日は、栃木。
7時、スペーシアで浅草まで帰ってきた。
なにを食べようか、例によって道々考えてきたのだが、
なんだか煮魚が食べたくなった。
寒くなってきたからかもしれぬ。
松屋の地下の魚やで見つくろってみようか。
売り場にきてみると、ちょうど値引きのシールを
貼っているところ。
目にとまったのは鰈。
ただこれは、値引き対象外で、ちょい高いもの。
北海道産、赤鰈と書いてある。
子持ちだが二切れで680円。
赤鰈というのは、私は初めて聞いたが
買ってみようか。
煮魚にもいろいろあるが、鰈の煮付けといえば
どうしても、鬼平犯科帳に出てくる“味濃く煮付けた”ものを
思い出す。
長谷川平蔵が熱海に出張し、あのあたりのどこかの
海辺の茶店でこれで飯を喰って昼寝をする、というようなシーン。
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・・・麦飯に大根の味噌汁。鰈の切り身を味濃く煮つけたのを、
「うまい、うまい」
と、平蔵は二度もおかわりをし、飯を三杯も食べてしまってから、
「われながら、おどろいたな」
あきれ顔になったのを見て、利平治が、おもわず吹き出した。・・・
- 作者: 池波正太郎
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決定版 鬼平犯科帳 (13) (文春文庫) 文庫 池波 正太郎 (著)
より「熱海みやげの宝物」
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“味濃く”というのがやはりポイントであろう。
熱海と小田原あたりの鄙(ひな)びた海辺の茶店の
味付け、で、ある。
これが、どうなのか。
私は、これは砂糖の入らない、しょうゆだけ
せいぜい、酒を入れた煮汁で煮たものではないか
と、思っている。
今、和食やで煮魚といえば、味が濃いとしても甘辛であろう。
しかし、私の育った家で煮魚とえば、
今書いたような、砂糖を一切入れない
しょうゆ味の濃いものであった。
これは東京の大井町で育った父親好みの味付け。
なん度か書いているが、曽祖父までさかのぼると、
大井町あたりの百姓で、苗字もあったので
おそらく名主などを勤めていた家であったと思うが、
祖父は三男で、身体がわるいだかで戦争にも行かず、
定職にも付かず、お気楽な人生を送ったのではないか、
と思っている。酒が好きで、食道楽。
私の親爺は反動なのか、まったく酒を呑まなかったが
私に受け継がれているのかもしれぬ。
ともあれ。
そうそう品のよい家であるはずもなかったわけだが、
東京の庶民の煮ものなどは、多くはしょうゆのみで
真黒く煮たものであったはず。
毎度書いている[お多幸]などの正調東京おでんは
その典型であろう。
それで、鬼平先生が小田原あたりで食べたものは
こんなものであったのでは、と思っている
のである。
帰宅。
赤鰈。
赤鰈というのは、私は今までに食べた記憶はないのだが
ちょいと調べると、日本海、福井あたりから、
北海道で獲れるもので、そこそこ高級品のよう。
薬缶に湯を沸騰させて
霜降り。
そして冷水で洗う。
熱湯をかけると、皮がちょっとはがれる。
大きく浅めの鍋に入れ。
しょうゆをたっぷりと酒。
水を少し。酒よりも少ない量。
煮汁トータルでヒタヒタよりも少ない量。
落としぶたをするので、これでもOK。
これでヒタヒタの煮汁を作ると、おそろしい量の
しょうゆを使うことになる。
今、煮魚は長時間煮込まないのが和食のセオリー。
結局、煮れば煮るほど、魚の身からコラーゲンが
溶け出し、パサパサになる。
その替り、つゆはかなり濃くする。
点火し、煮立ったらアルミホイルで落としぶた。
タイマーで計って、7分。
7分というのは、火が通る最低の時間ということか。
ヘラで崩れぬように皿に移し、お膳に運び、
つゆはお膳まで鍋を持っていき、まわりに注ぐ。
赤鰈。
鰈がよいのか、かなりうまい。
うま味濃いというのか。
煮込んでいる時間が短いので
しょうゆと酒のみでも身まで染み込んでおらず
塩味(えんみ)の強さはさほど気にならない。
品はよくないのだろうが、これが私の鰈の煮付け
で、ある。