浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



上野・藪蕎麦


10月4日(土)第二食



さて。



土曜日。



そろそろ、鴨せいろの季節!。



なんだかそんな頃。



暑さでうだっている真夏には、ただのせいろでも、

蕎麦自体に食指が動かない。

日々涼しさが増してきて、やはりただのせいろ、

ではなく、ちょっとうまい、鴨せいろ。

別段秋の味覚というのではないが、この頃の気分

で、ある。

鴨せいろというのは、鴨肉を煮出したつゆで、

盛りの蕎麦を食う、ご存知のもの。

蕎麦の中でも最も値段が張るものではあろう。

30代、それも後半であったか、鴨せいろが(経済的に)

食べられるようになり、初めて食べて、おそろしく

気に入って、どこの蕎麦やへ行っても、バカの一つ覚え

のように頼んで、挙句の果てには、鴨肉を買ってきて

自宅でも食べていた。

名前も鴨せいろと書いているが、之端[藪蕎麦]のように鴨ざる、

というところもあるし、入るものもスライスした肉

だけでなく焼いたねぎ、つくね団子などを入れているところ、

あるいは、鴨肉が入らないという意味か、鴨汁せいろ、なんという

名前のものもあり、うまいまずい含めて、いろいろある。

うまいものではあるのだが、あまりにかためて食べてしまったからか

最近は、そう頻繁には食べなくなっていた。

それがこの気候で、むっくりと、食べたくなった、と、

いうことである。

食べるのであれば、どこがよいか。

以前にはまだ、やっているところも限られていたと思われるし

また、あってもイマイチなところも見かけたのだが、

最近は『趣味そば』を含めちょっと気の利いたところのものは

皆、過不足なくうまい。

鴨せいろの肝は、甘辛のそばつゆで鴨肉煮て

うま味と脂を溶け出させる。

これにはある程度の時間煮出す必要がある。

これに対して、鴨肉というのは火が通れば通るほど、

固くなり、縮む。

つまり、相反することをしなければならない。

そばつゆでよく煮てしまうと出汁は出るが、

肉は固くてイマイチ。逆に、肉は柔らかいが、

出汁は出ていないということになる。

ではどうするのか。

出汁用の鴨肉と、食べるための鴨肉は別に用意する、

ということをする。

以前は、意外にこういった配慮をしていない蕎麦やが

あったわけである。

私自身は、鴨せいろが食べたいと思うと初めて食べて

うまいと思った池之端の[藪蕎麦]と決まっている。

そういうことで、今日も床屋の帰りにまわることにした。

昼下がり、自転車で出て、仲御徒町のQBで髪を切り、

JRをくぐって、中央通りも渡り、湯島天神下から、池之端仲町の通り。

[藪蕎麦]の前までくると!?。

なんとシャッターが下りている。

定休は水曜のはず。

ひょっとして、曜日を間違えた?。

今日は土曜日ではなかったのか。

じゃあ、昼すぎに自転車でこんなところをうろうろしている

私は、ずる休みになるではないか。

スマホのカレンダーを見直したりしたが、やはり今日は土曜日で

間違いはない。

特段、店の前に張り紙などはしていないが、なにかの都合で

休みなのであろう。

と、なると、この界隈もう一軒の[藪]の老舗。

上野[藪蕎麦]

自転車を降りて、ごった返すアメ横と海苔やのガードを突っ切って

丸井裏の路肩に自転車を止める。

ここにくるのは少しご無沙汰であろうか。

店内は少し改装をしており、一階に一人用のカウンター席が

できている。

座って、エビスの中瓶。

品書きを見る。肴はなにがよかろう。

同じ藪蕎麦であるが、本家に近い池之端や並木は、よりストイック

というのか、焼き海苔や板わさのようなオーソドックスなものが

中心であまり新しいものは見えない。

それに対してこちらは比較的品数が多い。

目にとまったのは、まぐろ山かけ。

蕎麦やは、山芋(大和芋)は常備しているので、

山かけもうまかろう。

そばも一緒に頼んでしまおう。

むろん、鴨せいろ。

ビールがきて。



まぐろ山かけ。



なかなかお洒落ではないか。

普通、山かけといえば、まぐろはブツである。

お造りのような、スライス。

黒いのはもみ海苔であるが、薬味のあしらいが美しい。

しょうゆ差しもよい。

まぐろ山かけなど、どこにでもある、ありふれたメニューで

工夫の余地などないように思われるが、こうすると

ちょいと違うメニューのようである。

自分の呑むスピードを考えて、鴨せいろを出してもらうように

声をかける。



入っているものは、ゆず、焼きねぎ、白髪ねぎ、

鴨肉は別に焼いたもの、つくね、三つ葉あたり。

オーソドックスといってよろしかろう。

過不足なく十分にうまい。

きのこなど具がしこたま入っていたりするところもあるが、

やはり、それも限度がある。度をすぎるのは野暮ったい。



ご馳走様でした。







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