浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



駒形・うなぎ・前川

dancyotei2013-06-05

6月1日(土)夜

今日は、内儀(かみ)さんの希望で夜は、うなぎ、
ということになっていた。

うちでうなぎといえば、最も近くにある[やしま]
ご近所であるが、味は一級。

しかし、夕方、内儀さんが店の前を通りかかると、
お休み、とのこと。

じゃあ、というので、気候もよいので、素足に雪駄を引っ掛けて、
自転車で浅草方面へ

まず行ったのは、雷門の[色川]。親父さんが、よい。
と、あれま。
貼り紙がしてあり、お休み。

[小柳]
仲見世の西側をぐるぐる探すが、見つからぬ。

と、思い出した。
小柳はこの秋まで改築中であった。

[色川]そばの、[初小川]は?
やっぱり。
予約で一杯。本日売り切れの札が出ている。

ついていない。

浅草でも仲見世、雷門を中心としたこのあたりにでは、
目ぼしいところはこんなものか、、、?!。

あきらめかけていたら、内儀さんが思い出した。
[前川]

おお、[前川]ならばいい。

雷門前の並木通りから、駒形の交差点を渡って、
[前川]までくる。

自転車を店の脇にとめ、ガラス戸を開けて入る。

入ると女将(おかみ)さんであろうか、そこにいた
着物姿の女性に、二人、と、いって、あがる。

「お二階へどうぞ」。

と、言いながら、この方、私の脱いだ雪駄を誉めてくれた。
むろん、先方は私の顔など覚えていなかろうが、
こういうところが、店との相性なのであろう。

二階に上がり、隅田川に面したお膳に座る。

ビールをもらって、



肝焼き、白焼き、うな重を頼む。

お通しはひじきと油揚げの煮たの、だが、
甘くなく、よい。



手すりが邪魔だが、水上バスの走る隅田川と駒形橋、そして、
スカイツリー



伝統の屋形船も走る。

先日のパリ、セーヌ川の眺めと、私などは、どうしてどうして、
負けてはいないと思う、のである。むろん、石造りの古い建築が立ち並ぶ
周囲は、比べようもない。しかし、パリのセーヌ川の川幅と
このあたりの隅田川の川幅はほぼ同じで、川の水、橋、走る舟、塔。
この組み合わせは同じである。
そして、例えば、この[前川]という川が見える老舗うなぎや。
あるいは、春の花見、夏の花火もある。こういう風情も込(こみ)で
の話である。

ともあれ。

肝焼き。



白焼き。


お重。


拡大。


肝焼き、白焼き、お重と、フルコース。

もうなにもいうことがない。
これ以上の幸せがあろうか。

毎度書いているが、東京に生まれ育って、これが食べられるというのは
無上の悦び、で、ある。

が、しかし!。

が、しかし!。

で、ある。

細かくは書かないが、価格の高騰には目を覆うべきものがある。
例えば、白焼きが、5000円で、あったか。

皆さんもご存知のように昨年から値が上がっており、今年は
さらに輪をかけている。

ちょうど、二、三日前の日経の社説にまで書かれていたが、日本のうなぎは
環境省指定の「絶滅危惧1B類」で、危ない方から二つ目のカテゴリー。
これはライチョウと同じだという。

ライチョウを食っているようなもの?!。

価格もさることながら、この数の減少である。
日本で高価格で売れることからの、台湾、中国などでの稚魚の乱獲が
原因であったのであろう。

数万円の天然キャビア以上に、どんなに高い金を出しても
食べられないことになるのは時間の問題のような気もする。
そしてこれは我々、うなぎ蒲焼を愛する者もそうだが、
うなぎやさんにとっては、まさに死活問題である。

同時に、毎度書いている通り、うなぎ蒲焼は東京を代表する
名物料理である。身贔屓もむろんあるが、蒸したうなぎ蒲焼は
東京が一番うまいと思っている。
にぎり鮨、天ぷらと並んで、蒸す蒲焼は江戸で発展した料理法で、
江戸落語にも『素人鰻』『鰻の幇間』などうなぎを扱った噺はいくつもある。
江戸人、東京人に愛されてきた、いわば東京が誇る伝統食文化である。
フランス料理が世界無形文化遺産になっているのならば、うなぎ蒲焼は
東京の無形文化遺産である。
これが今や風前の灯になっていることに、もっと危機感を感じなければ
いけない。

一方、うなぎの稚魚からの養殖ではなく、卵からの完全養殖は
先頃、小笠原の海がやっと産卵場所であることがわかった程度で
急がなければいけないが、この様子ではまだ時間がかかると思われる。

水産庁環境省文化庁、あるいは東京都もである。
本腰を入れてほしい。

猪瀬知事様。
オリンピックも大事かもしれぬが、東京の大切な伝統食文化が
存亡の危機にある。アジア地域での乱獲防止と完全養殖加速化に東京都も
今、声を上げ、積極的に関わっていくべきであると考えるのだが、
いかがであろうか。


前川