浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



うなぎ・小島町・やしま

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4058号

3月25日(金)夜

今日は、久方ぶりに、うなぎ。

うなぎといえば、ご近所、小島町[やしま]。

やはり、ここにまず初めにこなければ
いけなかろう。
長らく、持ち帰りであった。

左衛門橋通りと春日通りの交差点、小島町交番の隣。

私が住んでいるのは、元浅草一丁目だが、
歩いて春日通りを渡り、信号が青ならば5分も
かからない。

もうどのくらいになろうか、ここにくるようになって。

この日記を見返すと、2006年が最初のようだが、
ここに引っ越してからなので、15年、20年弱になる
のであろう。

東京人にとって、うなぎというのは
やはり特別な食べ物である。

日本人がうなぎを食べ始めたのは、
wikiによれば新石器時代という。
その他の魚同様に食べられるものはなんでも
食べており、そのうちの一つであったのであろう。

今の蒲焼になる以前は、小型のものはそのまま、
大きなものはぶつ切りして串に刺して焼き、
味噌や酢を塗って食べる。
この姿が蒲の穂に似ていたので蒲焼とも。

開いて串を打って焼くのは江戸初期には見られたよう。
当初はやはり味噌などを塗って食べていたとのこと。
また、池波作品などにも登場するが、辻売りの
屋台もあったようで、決して高価なものではなかった。
これに、野田・銚子の濃口しょうゆ、みりんの
普及で、つけ焼きにする、今のうなぎ蒲焼が生まれた。
年代としては、江戸中期という。にぎり鮨よりも少し早い。
今も営業をしている東京のうなぎやで最も古いのは
浅草田原町の[やっこ]だと思われる。
[やっこ]は寛政年間創業といっており寛政は
1789年~1801年でちょうど江戸時代の真ん中。
やはり、このあたりが今のうなぎ蒲焼が一般化した頃
なのであろう。

江戸落語にも大事なところで登場する。
同じ江戸・東京発祥のにぎり鮨や天ぷらも出てこなくは
ないが、圧倒的にうなぎの方が多い。
やはり、昔からちょっと違うポジションであった
のであろう。鮨も天ぷらも安い屋台があったのに
対して、値段も高くご馳走感も上であったのであろう。

例えば「素人鰻」「鰻の幇間(たいこ)」はどちらも
うなぎやが噺の舞台。
「子別れ」のクライマックスもうなぎや。
「包丁」の序盤もうなぎや。
高価であったが、庶民もたまの贅沢、ご馳走として
親しまれてきたといってよいだろう。

うなぎの養殖が始められたのは明治の初め、
東京深川という。浜松で養殖が始まったのは
明治33年(1900年)とのこと。
本格的に養殖ものになったのは、いつ頃、
であったのであろう。
私がうなぎを食べるようになった頃には既に
養殖物に代わっていたが、本格的に広まったのは戦後、
なのではなかろうか。
それまではむろん、すべて天然ものであったわけである。

うなぎ養殖は稚魚を獲って育てる、いわゆる畜養である。
この稚魚が獲れなくなったのは10年ほど前であったか。
絶滅危惧種にもなった。
これで急に値段が上がった。
うな重が、3000円、4000円、5000円。
この価格は、うなぎがすべて天然であった頃の
値頃感に近いのではなかろうか。

うなぎが産卵し稚魚が生まれるのは、遥か南の
太平洋、小笠原あたり?。
その生態も徐々にわかってきているのであろうが、
卵をかえして育てる完全養殖の実現には
まだまだ時間が掛かりそう。

東京の伝統的ご馳走、うなぎ蒲焼。
江戸・東京の庶民の食文化を代表する、真打。

毎度書いているが、食い物も文化財として
認定し、保護育成するべきだと私は考える。
和食がユネスコ世界遺産になっているのに、
なぜ国内では、そういう動きがないので
あろうか。まったく理解に苦しむ。
うなぎ蒲焼は、東京の重要無形“食”文化財
まず先に指定すべきである。店、料理人含めて、
で、ある。
この重要文化はむろん持続可能でなければならない。
資源としてのニホンウナギもむろん保護し、
生態を解明し、完全養殖実現を急がねばならない。

前置きが長くなってしまった。

[やしま]のお通し。

変わらず、味噌豆。
しょうゆと辛子でつまむ。
どの地方にもあるのだろうか。
味噌を作る時の大豆のゆでたものなので、味噌豆。
落語(小噺)にも登場する。
東京の伝統的、おかずであり酒の肴であろう。

焼鳥があったのだが、こないうちになくなっていた。
で、白焼きとお重。
白焼きが3800円也、うな重が4000円也。
どちらも、小さい方。

白焼きから。

いつもよりも身が厚く、よい脂。
これは季節的なものであろうか。
添えられているのは、塩とわさびと、油は
オリーブオイルのよう。新趣向か。

やっぱり、私はわさびじょうゆ。
このうまさは、あたり前になってしまっているが、
どこでもこの味が食べられるというものではない。
蒲焼以上に希少なものである。
実に、乙なものである。

そして、うな重とお新香、肝吸い。

アップ。

[やしま]はべたべたと甘くない、きりっとした
下町浅草のうなぎ蒲焼の味。
そして、やっぱり身が厚く脂がのっている。
うまい、うまい。夢中で掻っ込む。

ご馳走様でした。
変わらず、おいしかったです。

 


03-3851-2108
台東区小島2-18-19

 

 

 

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