浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



上野藪蕎麦

1月22日(日)第二食



寒いが、雨、雪もやんだ。



昼すぎ、床屋に出る。



それでも空模様は、降りそうな気配もあるので、
小さなビニール傘も持つ。


床屋は、昭和通り沿い、QBの仲御徒町


今日は、運動も兼ねて、歩き。
久しぶりに、落語を喋りながら。


ねたは、天災。


これは、ご存知の方はご存知。
自分で開いた落語会でもやっている。


振り返ると、これは旧臘(きゅうろう)亡くなった、
談志家元のものをコピーしたものであった。
むろん直接許可を得たものではないが、
私にとっては、形見、の、ようなものである。
家元のお弟子さんである志らく師のらく塾に通っていた頃、
その発表会でもやって、当時の立川企画の社長、家元の
弟さんに、うまくなったね〜、なんて、誉められたっけ。
(また、そのうちやろうか、落語会。)


髪を切って、魚を見ようか、と、アメ横へまわる。


寒いがアメ横もにぎわっている。


いつもの魚や。


一渡り見渡して、、、。


お。


あん肝!。


あん肝は今シーズンここで見かけるのは、
初めてではなかろうか。
大きな袋、目一杯あり、500円。


むろん生のもの。
安いものは、あたりはずれが、あるのだが、賭けてみようか。


それから、っと、
!、すみいかもある。


20cm程度の大きなもの。5杯あって、同じく500円。
(この店は、量が多く、すべてが500円。)


刺身でも天ぷらでもいいだろう。


1000円札を先に財布から出して、
坊主頭の小父さんに声をかける。
特段、無駄話をするようなことはないが、
この小父さん、私の顔は憶えてくれているようである。


袋に入れてもらって、店を離れる。


さて、帰り。


寒いので、上野藪で温かいそばでも食べていこうか。


ガード下を抜けて、丸井裏の通り。
上野藪。


店に入ると、半端な時間、空いている席に、
座る。


温かい天ぷらそば、とも思ったが、
メニューを見ると、牡蠣なんばん。


そうであった。
冬の上野藪は、これが食べられる。


牡蠣ののったそばは他でもあるが、
ここのものは、特にうまい。


せっかくだ(なにが、せっかく、だかわからぬが)
お酒も1本もらおう。





ここもやはり、菊正宗、で、あろう。


牡蠣なんばんもきた。





粒も大粒。


ここの牡蠣は一度炒めているようである。
そして、胡椒が利いているのも特徴。
長く切った、白いねぎも、うまい。


呑みながら、熱いそばを、すする。


こんな寒い日には、熱いそばがなにより。
酒もむろん、うまい。


天衣紛上野初花(くもにまごううえののはつはな)という歌舞伎芝居がある。


ちょうど、昨年の正月、初芝居で観た。
(これも、黙阿弥先生の作品。)


ここに通称、そばや、という有名な幕がある。


主人公の直侍(なおざむらい)が雪の中、
入谷田圃の蕎麦やに駆け込み、



「天ぷらそばで、一本つけてくんねえ」



という台詞(せりふ)を吐く。


これが、いかにも“江戸”。


よいものである。



むろん、今の上野にそんな風情など、かけらもない。
しかし、心持ちだけは、そんな世界に生活をしていたい、
と、私は思う、のである。






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