浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



猿楽町・蕎麦・松翁

10月1日(木)夜



夜。



随分と久しぶりであるが、
猿楽町の蕎麦や[松翁]へいってみようと
考えた。


池波レシピ、である。


水道橋か神保町が最寄であろうが、
どこからも遠いので、ちょいと寄ってみる
ということにならず、なかなかこれない。


いつも“趣味そば”という言葉を私は使っているが
ここも私の定義からすればそこに入る。


街の普通の蕎麦や、あるいは藪や砂場のような老舗系ではなく
“趣味そば”は、脱サラ、数年そば打ち修行をして
蕎麦やを開店し、または、そういうところで修行をしたところ。


どこどこの蕎麦粉を使って、と、やたらと
蕎麦にはこだわっており、たいてい敷居が高い。
どちらが客かわからない。客商売の意識が薄い。
お客の方も店を持ち上げて悦んでいる。


趣味の○○、今はあまり言わないが趣味の呉服、
履きもの、、で、趣味そばである。


蕎麦以外の料理修行をしていないのであろう。
蕎麦についてのこだわりに比べると、蕎麦以外の
肴のレベルが相当に低い素人料理を出す。


都内でもたくさんあるので、
皆さんもそんなひどい目にあった経験を
お持ちではなかろうか。


わるぐちを書くとそういうことなのだが、
もちろんそうでない店もそう多くはないが、
ある。


ここもその一つ。
ご店主は脱サラという。


しかし、蕎麦はもちろん、酒、天ぷら、肴、
ストイックなくらい突き詰めているのが、
一度行っただけでも伝わってくる稀有な店。


ただ表面的な愛想はあまりいい方ではないかもしれぬ。
ここで修行をして独立している店もあるようで
そういうところだけ伝わっているとすれば
残念である。


7時。雨も降っているので、市谷のオフィスから
タクシーに乗ってしまう。


白山通りで降りて日大経済学部の脇を入って、
路地を折れて、店にたどり着く。


天気のせいもあろうか、比較的すいている。
グラスのエビスビールをもらう。





肴の数は季節のものも含めて、数多い。
品書きには、松茸の顔も見える。


よし、白子ぽん酢。


昔からここは、壁に貼り紙がしてあるが
天ぷらなど料理が出てくるのが遅い。
それだけ、丁寧に作っています、という
言い訳のようなことなのかもしれぬ。
こういうところが憎めない。
真摯な姿勢に感じられるのかもしれぬ。


これもちょいと時間がかかった。





走り。
鮮度もよいのであろう。
うまい。


一人でつまむにはちょいと量があるし、
ここはゆっくりするのがよいのであろう。


酒をもらおうか。


浦霞





さて。



蕎麦は。


ここはなんといっても、ご店主が自ら揚げたてを
お客の皿まで運んでくれる、天ぷらそばが目玉、
なのである。


だがやっぱり今日は薄ら寒いので、温かいのにしよう。


牡蠣、が、あった。
牡蠣そば。これも走り。


酒がきたのに合わせて、頼む。


ゆっくり呑みながら、待つ。
きた。





大ぶりのものがごろっと、四つ。
盛り付けも美しい。
甘く煮た椎茸もある。


が、つゆが透明!。


このタイプであったかぁ。


牡蠣を蕎麦にのせた牡蠣そばは東京でも
そう多くはないと思うが、ある。


知っているのは、上野藪、池の端藪。


上野がしょうゆ味のつゆで、池の端がここと同じ
透明なつゆ。


牡蠣から考えると、こういうことになるのか。


大阪、京都の蕎麦は昆布だしの透明なつゆで
食べさせる。


東京下町のしょうゆの濃いつゆで
育っているので、透明なつゆというのは、
とても受け付けなかったが、最近はそれはそれ
これはこれ、と、思えるようになってきた。


牡蠣は、プリップリ。


まさに、堪えられぬうまさ、で、ある。


蕎麦は、ちょっと太目で存在感がある。


つゆも全部飲み干す。


暖まった。


ご馳走様でした。


おいしかったです。






千代田区猿楽町2−1−7 
03-3291-3529