浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



上野・洋食・ぽん多本家

7月22日(水)夜

今夜は上野の洋食・とんかつや[ぽん多本家]へ
行きたくなった。

[蓬莱屋][井泉]を入れた上野のとんかつ御三家の中では、
一番落ち着いたイメージ。

そして、とんかつが看板ではあるが、ここのメニュー名はカツレツで
今も洋食や、を、名乗っている。

それでタンシチューだったり、バタヤキなど、
カツレツ以外のメニューもある。

私が気に入っているのは、そのバタヤキ。
蛤のバタヤキをよく食べている。

バタヤキ、バタ焼き。

よい響きである。

まあ、バター焼きなのであるが、
我々の子供の頃にはまだ残っていた言葉であろうか。
親の世代、あるいは、さらに上か。

バタヤキをメニューの名前に使っているのは私が知っている範囲では
ここと人形町の[小春軒] くらいであろうか。

いわゆるバターしょうゆ味なのだが、とても懐かしく、
うまい。

と、いうことで[ぽん多本家]。

頭の中は“バタヤキ”、で、ある。

上野御徒町駅から上がって、広小路を南下。
信号を左に渡る。

路地に入って、左側。

暖簾に創業明治三十八年とあり、
重い木製の扉を開ける。

入って、一人、という。

今日は店は妙に静か。

誰もいないカウンターに座る。

ここは二階もあるが、今日はお客が少なめか。

外の暑さに比べて、おそろしいほどキンキンに冷えた室内。

座って、ビール中瓶を頼む。

ここにはバタヤキは蛤以外にももう一品ある。

なにかというとアワビ、で、ある。
品書きには、時価、と、ある。

聞いてみようか。

ビールとお通しがきた。





聞くと、アワビバタヤキは、7000円!。

これはいくらなんでも高価である。

今日はやめて、またの機会に取っておくとして、
いつもの、蛤の方を頼む。

ビールを一杯。

お通しは柔らかく煮た、煮穴子
ほんとうにここはとんかつや、洋食やとは思えないものを出す。

江戸前鮨やか、和食やである。

ほろほろに柔らかい穴子がうまい。
腹も減っているので、バクバク食べてしまう。

と、すぐにきた。



蛤バタヤキ。

つけ合わせの野菜はレタス。
ドレッシングで既によく和えられている。

蛤バタヤキ。

この大きさ。宝石のようなとまでいうと、いささか
大袈裟ではあるのだが、なんとなく、食べるのが惜しい。

小麦粉をふってあって、ムニエルといってよいのか、
表面はカリッと焼いてある。

味は濃いめのバターしょうゆ。

口に入れると蛤は、プリッとした食感。

これは堪らぬ。

懐かしい味ではあるが、
この味はなかなか素人にはできまい。
濃厚にして繊細な仕上り。

ここの看板、カツレツが2700円なのに対して、
この蛤バタヤキは、3240円也。

ご存知の通り、今、蛤は獲れる量も少なく、安くない。
それも、大きなものとなると、一つ数百円はしよう。

これを、思うさま食べられたらどんなに幸せであろうか。

まったく、食べ終わるのが惜しい。

が、むろん、終わりは訪れる。

勘定をして、出る。

ご馳走様でした。
今日もおいしかったです。


台東区上野3-23-3
03-3831-2351