4月9日(火)夜
なぜであろうか。
理由はよくわからぬが、今日は芋茎(ずいき)を食べようと
思い立った。
芋茎というものをご存知の方はどのくらいいるのであろうか。
芋茎、書いて字の通り、芋の茎(くき)。
芋がら、などともいう。
芋といっても、じゃが芋でもさつま芋でもなく、
里芋。
我々よりも若い世代で、東京など街で育った人は
やはり知らない人の方が多いのではあるまいか。
いや、ひょっとすると、里芋そのものが、どんな風に生えている
野菜なのか、知らない人もいるかもしれない。
畑で育っている、里芋、で、ある。
私の育った東京郊外では子供の頃はまだ里芋の畑は残っていた。
これが思い浮かばないと芋茎はわからない。
大きな葉。それを支えている茎。
これが芋茎。
生を料理することもあるが、乾燥したものもある。
東京などで売られているのは圧倒的に乾燥したもの。
芋がら、として、子供の頃から知ってはいた。
しかし、昭和ひとけた生まれの親などは、食べ物がなかった
戦争中の記憶があるせいか、代用食というのか、
あまりよい思い出はがなかったからか、
食卓に登ることもなく、食べた記憶はなかった。
食べるようになったきっかけは、これも
池波作品からである。
作品は『剣客商売』狂乱。
秋のある日、秋山小兵衛が浅草・元鳥越の
牛堀久万之助道場を柄樽を持って、訪れる。
老僕の権兵衛が、軽い中食(ちゅうじき)を出す。
***
にぎりめしへ味噌をまぶしたのを、さっと焙(あぶ)ったものと、
芋茎と油揚げを煮た一鉢。塩漬けの秋茄子などの簡素な中食であったが、
(中略)
「うまいぞ、権ちゃん」
「あれ、また、権ちゃんといいなさると」
「お前のような人に食べるものの世話をしてもらって、
ここの旦那はしあわせじゃな」
***
芋茎と油揚げの煮たもの。
乾燥したものを使って、油揚げとともにしょうゆで煮た。
芋茎は実際にはそれ以前に、これも池波レシピだが、
銀座の[いまむら]という割烹で食べていた。
([いまむら]は今は代替わりをしているよう。)
薄味で出汁のふくめ煮。
太く、ゼリー状のものに上品な出汁が含ませてあるもの。
順番としては、その後、先の油揚げとの煮物を作ったのだが、
どうもこれが同じものとは思えなかった。
スーパーなどに売っている乾燥芋茎は概(おおむ)ね
切り干し大根のようもので細いもの。
その後、京都の割烹などで、和えものや酢の物などで、食べるとやはり、
太いものが多い。
このあたりから、段々に生のものがある、というのに
気が付き始めた。
また、乾燥ものでも元来の里芋の茎を思い出せば、
その根元の部分は随分と太いものもがあるということ。
割烹料理などで使うのは、生も乾燥ものもあるが、やはり太い部分。
また、たまたま産直セールのようなもので、
生の芋茎を見つけた、細めだが、これは千葉のもの。
この頃であったか、京都にお住まいの読者からメールをいただき、
京都などでは生の芋茎は売られており、普通の家庭でも
食べるものだと、教えていただいた。
と、いうことで、芋茎と油揚げの煮たの。
帰り道、スーパーで乾燥ものを買う。
通販で生のものも、売られているようだが、
これも季節的には里芋の時期なので、夏から秋のよう。
割烹料理であれば、あく抜きをし、皮をむいて、
出汁を含ませるなど、とても手間をかけるようだが、
江戸庶民料理の油揚げと煮るのであれば、別段難しいことはない。
乾燥芋茎を洗って、水に15分ほどつけてもどす。
あとは短冊に切った油揚げとともに
しょうゆ、酒、砂糖で甘辛の濃いめに
味を含ませれば出来上がり。
素朴な家庭のお惣菜であり、乙な酒の肴でもある。
これに冷酒。
よいものである。