浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



芋茎と油揚げの煮たの

dancyotei2013-04-14

4月9日(火)夜

なぜであろうか。

理由はよくわからぬが、今日は芋茎(ずいき)を食べようと
思い立った。

芋茎というものをご存知の方はどのくらいいるのであろうか。

芋茎、書いて字の通り、芋の茎(くき)。
芋がら、などともいう。

芋といっても、じゃが芋でもさつま芋でもなく、
里芋。

我々よりも若い世代で、東京など街で育った人は
やはり知らない人の方が多いのではあるまいか。

いや、ひょっとすると、里芋そのものが、どんな風に生えている
野菜なのか、知らない人もいるかもしれない。



畑で育っている、里芋、で、ある。

私の育った東京郊外では子供の頃はまだ里芋の畑は残っていた。
これが思い浮かばないと芋茎はわからない。

大きな葉。それを支えている茎。

これが芋茎。

生を料理することもあるが、乾燥したものもある。
東京などで売られているのは圧倒的に乾燥したもの。

芋がら、として、子供の頃から知ってはいた。
しかし、昭和ひとけた生まれの親などは、食べ物がなかった
戦争中の記憶があるせいか、代用食というのか、
あまりよい思い出はがなかったからか、
食卓に登ることもなく、食べた記憶はなかった。

食べるようになったきっかけは、これも
池波作品からである。

作品は『剣客商売』狂乱。

秋のある日、秋山小兵衛が浅草・元鳥越の
牛堀久万之助道場を柄樽を持って、訪れる。
老僕の権兵衛が、軽い中食(ちゅうじき)を出す。

***

にぎりめしへ味噌をまぶしたのを、さっと焙(あぶ)ったものと、

芋茎と油揚げを煮た一鉢。塩漬けの秋茄子などの簡素な中食であったが、

(中略)

「うまいぞ、権ちゃん」

「あれ、また、権ちゃんといいなさると」

「お前のような人に食べるものの世話をしてもらって、

 ここの旦那はしあわせじゃな」


池波正太郎 剣客商売・狂乱 新潮文庫


***

芋茎と油揚げの煮たもの。

乾燥したものを使って、油揚げとともにしょうゆで煮た。


芋茎は実際にはそれ以前に、これも池波レシピだが、
銀座の[いまむら]という割烹で食べていた。
([いまむら]は今は代替わりをしているよう。)

薄味で出汁のふくめ煮。
太く、ゼリー状のものに上品な出汁が含ませてあるもの。

順番としては、その後、先の油揚げとの煮物を作ったのだが、
どうもこれが同じものとは思えなかった。

スーパーなどに売っている乾燥芋茎は概(おおむ)ね
切り干し大根のようもので細いもの。

その後、京都の割烹などで、和えものや酢の物などで、食べるとやはり、
太いものが多い。


このあたりから、段々に生のものがある、というのに
気が付き始めた。

また、乾燥ものでも元来の里芋の茎を思い出せば、
その根元の部分は随分と太いものもがあるということ。

割烹料理などで使うのは、生も乾燥ものもあるが、やはり太い部分。



また、たまたま産直セールのようなもので、
生の芋茎を見つけた、細めだが、これは千葉のもの。

これで油揚げとの煮物を作ってみたこともあった。


この頃であったか、京都にお住まいの読者からメールをいただき、
京都などでは生の芋茎は売られており、普通の家庭でも
食べるものだと、教えていただいた。

と、いうことで、芋茎と油揚げの煮たの。

帰り道、スーパーで乾燥ものを買う。

通販で生のものも、売られているようだが、
これも季節的には里芋の時期なので、夏から秋のよう。

割烹料理であれば、あく抜きをし、皮をむいて、
出汁を含ませるなど、とても手間をかけるようだが、
江戸庶民料理の油揚げと煮るのであれば、別段難しいことはない。

乾燥芋茎を洗って、水に15分ほどつけてもどす。

あとは短冊に切った油揚げとともに
しょうゆ、酒、砂糖で甘辛の濃いめに
味を含ませれば出来上がり。



素朴な家庭のお惣菜であり、乙な酒の肴でもある。

これに冷酒。

よいものである。