浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



浅草・弁天山美家古寿司 その2

f:id:dancyotei:20210422114625g:plain
3842号

週をまたいだが、浅草[弁天山美家古寿司]。

つまみ二品と、いか、平目昆布〆、きすのにぎりまで。

次は、光物。
小肌、さより。

小肌はこの時期なので、大きくなっているので半身を
にぎっている。

毎度思うが、小肌というのは、こうして
酢で〆てにぎると、美しい。
四本のかざり包丁。

内儀(かみ)さんの希望で、おぼろ、を、
はさんでもらった。
おぼろ、というのは白身などの身をほぐし、
甘く味を付けたもの。でんぶのようなものだが、
あそこまでは甘くない。
これも江戸前仕事。
使い道は、こうして小肌にはさんだり。
酸っぱさを緩和させる目的であったのか。
乙、で、ある。

さよりは、春が旬。
もうそろそろ終わりか。
やはり、生ではなく、酢洗いをしている
かもしれぬ。

次は、まぐろ。
ヅケがよいだろう。

まぐろのしょうゆ漬けが生まれたのは
江戸の終わりも近い頃の江戸。
去年も書いている。

『まぐろのヅケというのは、一説では、天保の頃
(1830年~40年頭)馬喰町の鮨やで始めた』。

詳しくは、上記リンクをご参照。

今日聞くと、まぐろのヅケは二種類。
中トロと、赤身。

両方もらおう。それから、海老。

きれいに並べるものである。

普通、ヅケは赤身と決まっているが、
ここはたいてい、中トロもある。

表面を軽く霜降りにして漬けてある。
しょうゆ、ではなく、酒で割って加熱した、
いわゆるニキリ。
しょうゆのみだと、濃すぎる。

ヅケにすることで日持ちもしたわけだが、
現代的な意味は、アミノ酸が増え、うまくなる
ということになろう。

生とは違う、うまい、珠玉のような
まぐろにぎり、で、ある。

海老。
これも、おぼろを、さはさんでもらった。
海老にもはさむ。

車海老ではあるが、さいまき海老、という。
ほんのり感じられるが、江戸前の仕事は
甘酢に漬ける。
ゆでてすぐ、粗熱を取るくらいでにぎるところも
あるくらいで、ゆでて時間がたったものはいけない。
水分が抜けて、パサパサ。
ゆでたものの冷凍が流通しており、そんなものを
食べて育ったので、ゆでた海老などたいして
うまいものとは思っていなかったが、大間違い。
ゆでた車海老、まずいわけがない。
プリプリの食感で、あまい。

貝は食べていないが、そろそろ、腹もいい具合。
終盤。

内儀(かみ)さんの希望で、玉子焼き。
飯はなし。

これももちろんすり身を入れた本寸法の
江戸前玉子焼き。
玉子が貴重だった頃、増量するためにすり身を
入れたわけだが、今ではこちらの方が手間がかかり、
原価も高かろう。
これを巻いたものがお節料理の伊達巻になる
のであろう。

玉子がくると、海苔巻。
わさびを入れた干瓢と、鉄火。

海苔巻も、鰯と大葉、平目のえんがわだったり、
変わったものを色々食べたが、やっぱり、
この二品に尽きるかもしれない。
カッパもよいが、やはり、干瓢と鉄火。

干瓢は、カウンターで頼むと、六つ切りではなく
大きい四つ切であったが、こうして並べて
下駄にのせるので、合わせた、のであろう。
干瓢巻だけ長く切るのが、江戸前の習慣。

私の推測では、おそらく干瓢巻が生まれたのが
海苔巻では最も古い。いわば、最初の海苔巻だった、と
考えている。安いから。稲荷寿司もそうだが、
魚の代用であったと考えてよいだろう。
そして、にぎりの鮨が生まれた頃は、浮世絵に
描かれているがおにぎりのように、一つのにぎりが
大きかった。それに合わせて、細巻も大きくなるように
切っていたのではないのか。これも私の推測だが。

おなかを一杯にする、というのが大きな目的
であったわけである。
柳橋の[美家古寿司]には細巻の海苔を90度回して
少し太く巻いた鉄火巻があった。これも職人さんに
聞いたら、昔は腹を満たすのがお客の希望だったから
とのことであった。

これも江戸・東京の食文化史。それも庶民の。
職人だったり、商家の小僧が、露天の鮨やで、
三つ四つ、つまんでいた。
そんな当時の人々の姿が、目に浮かんでくるではないか。

今日、若い男性が一人でここにきていた。
なにか、うれしかった。
こういう鮨やに、若い人も興味があるのだ。

コンビニアレンジ飯も、珍しい美食グルメもいいだろう。

だが、食には、歴史を背負った文化という側面も
あることを忘れないでほしいのである。

にぎり鮨。そして、そば、天ぷら、うなぎ蒲焼も。
江戸で生まれ、あるいは、発展した。東京固有の。
私にとっては故郷の食べ物。
出し方ももちろん、食べる方にもマナーと
スタイルがちゃんとあった。

これを掘り起こし、書き続けるのが私の仕事
であることを改めて今日思い知った。

一人、ビールも入れて1万円。

ご馳走様でした。
おいしかった。

 

 

弁天山美家古寿司

台東区浅草2-1-16
03-3844-0034

 

 

※お願い
メッセージ、コメントはFacebook へ節度を持ってお願いいたします。
匿名でのメールはお断りいたします。
また、プロフィール非公開の場合、簡単な自己紹介をお願いいたしております。
匿名はお控えください。