前回に引き続き今日も、フィクションのつづき。
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「でも、最初に骨が見つけられてから、あの入堀は皆さん捜されて、それから
まだ半月ほどでその間、大水のようなものもない」
「そう。そうすると、嫌がらせどうかはともかく、誰が置いたのでは、とまあ、
そういうことにはなってくる」
「じゃあ、この骨は、どこから手に入れたか。そうそう人の頭の骨なんか、
転がっているもんじゃないでしょ」
「いや、柳治さん。それはね、そうでもないんですよ。江戸ではね人も多いで
すから行き倒れやなにかで身元がわからない、引き取り手のない仏さんは意外
に少なくないんですよ。そういう仏さんは一応、奉行所の手配で火葬場で焼い
て、無縁仏としていくつかの寺へ、まあ、代表的なところは両国の回向院です
が、まとめて葬っているんですよ。
ですから、火葬場にはいつもある程度の無縁仏の骨が置いてある。そういうも
のですから仏さんには申し訳ないが、まあ厳重に管理してあるものでもないし、
焼き場から盗み出そうと思えばそうそう難しいことでもないんですよ」
「でも、そんな事情を知っている人ってのもそんなに多くはないですよね。
現に私も知らなかったし」
「まあ、それはそうですね」
お玉が、
「焼き場関係者?」
「これ」
と、忠兵衛と緒方のご隠居、同時にたしなめる。
「あとはまあ、私も聞いてますが三回あるって、訪ねてきていった、不審な
旅の坊主。こやつがなに者か、というのがやはり疑問として残りますね」
「やっぱり、おんなじところへいきますよねぇ」
「柳治さん。奉行所でもまあ、これ以上なにも出てこないとすると、今のと
ころはなにもできないってことなんですよ」
「仕方ないですね」
「じゃあ、筧様、このお骨は手前どもで引き取りまして、また、近所の寺で
供養など」
と[大七]の主人忠兵衛。
「そうですね。そうしてもらいましょうか」
筧同心と目明し久蔵、手下の十吉は帰っていく。
八
「柳治さんまでご心配をかけてあいすみません。あなたのことは、お玉から
お話はうかがっていました」
と、忠兵衛。柳治とは初対面である。
「いえ、今のところ、なにもお力になれなくて。お骨は、またお寺で?」
「今、お許しも出ましたので、あちらで供養しようかと。手前も家に置いて
おくのはやはり、気味が悪くて」
それから、忠兵衛にお玉[大七]の番頭、若い者数人、緒方のご隠居、柳治
もついて、先に供養を頼んだ東光寺へ向かった。
住職の淨善は既に話は聞いており、すぐに支度をしてくれた。
本堂の祭壇の上には最初の骨壺がまだ置かれており、その隣に新しいもの
を置き、形通りお経をあげてもらう。
供養が済むと淨善が忠兵衛に、
「忠兵衛さん、とんだことになったのう」
「左様で。どういうことか、まったくもって、困っております」
「なにか、またある、というではないか」
「ええ。嫌がらせなのかもしれませんんが、まったくたちがわるい。
ご住職にもたびたびご迷惑をかけてしまった」
「いや、わしの方は、よいのだが」
と、ここで、柳治が
「あの、ご住職様。ちょっと、不躾(ぶしつけ)ではございますが、ご住職
様はお骨のことにはお詳しいんでよね」
「ああ、まあ、詳しい、ということはないが、坊主など葬式ばかりしておる
から、普通の人よりは骨は見た回数は多いだろうな」
柳治は忠兵衛と緒方のご隠居に、淨善に骨を検分をしてもらおうと話し、お
玉や[大七]の若い者などは帰すように頼む。
そして、二つの骨壺のふたを取り、髑髏を並べた。
「いかがでしょうか、ご住職。この二つのお骨、なにかお気付きのことはご
ざいませんでしょうか」
「う〜ん。そうじゃのう…。
おお。
先ほど、役人がいっていた、という火葬場の無縁仏の骨の話。ありゃあ、
少し、違うのではなかろうかのう」
「え?」
「拙僧も今、気付いたのだがな。こりゃあ、焼いておらぬ。お前様方も、
火葬場で骨を拾ったことは一度ぐらいはあろう。火葬した骨は、もっともろい。
こうして髑髏もそのままのきれいな形で残っている、ということは見たことが
ない」
「じゃあ、これは、火葬をした骨ではない?」
「そう思うがのう」
つづく