4677号
11月10日(日)夜
さて、土曜日。
やっと平年並みの気温になってきたので、鍋。
それも、池波レシピからいってみよう。
池波正太郎作品に登場する鍋、というのは、
たくさんあるが、なんといっても鬼平に登場する、
軍鶏鍋が筆頭であろう。
これは、先月、神田須田町の[ぼたん]で食べた。
軍鶏鍋もうまいが、池波レシピの鍋料理で他にうまいのは、
なんであろうか。
思い付いたのは、表題、蛤の湯豆腐。
蛤と豆腐という、素材そのものでまったく手は
掛かっていない。
だがこれが、日本酒に合うこと夥(おびただ)しい。
エッセイ集「食卓の情景」に登場する。
「その手は桑名の焼き蛤」で有名な、東海道の宿場、
三重県桑名の老舗旅館の朝飯で、先生は食べ、呑む。
そうとうお好きだったのであろう、同書には、ご家庭で
やられているのも書かれている。
吉池に買いに出る。
かなり高価だが、3つ入り2パック。
このくらいは、食べたいではないか。
豆腐はあるし、ねぎくらいでいいか。
一本。
ねぎも今、いや、ずっとか、高い。
それで、最近はわるくしても仕方がないので、一把ではなく、
一本で買うことの方が多い。
蛤。
千葉産。外房九十九里か。
そこそこ大きなものだが、一つあたり、300円ほど。
以前から大きなものは高いが、さらに最近上がっている
のではなかろうか。
中国や台湾では盛んに養殖されていると聞くが、
なぜか国内養殖はほんのわずかのよう。
合わないのであろうか。
また、大きさは大事である。
輸入物の小さなものもあるが、やはり蛤はこのくらい
以上の大きさでなければ、とても食べた気にならなかろう。
まずは、炭を熾す。
火鉢、で、ある。
今月に入って、火鉢に火を入れる日が出てきている。
ただ、調理のためではなく、食べる際に置いておくだけ。
火鉢の炭だけで、貝の殻を開けるだけの火力を
出すには、かなりの量の炭を熾さなければならない。
使いかけの消し炭をガスで熾し、火鉢に埋(い)けておく。
ん!。
忘れていた。
砂抜きをしてください、と書いてあった。
うわ、時間が掛かる。
砂抜きには、1時間以上はかかるのではなかろうか。
とりあえず、ボールに塩水を作り、蛤を入れる。
うん。生きているよう。
塩水に入れると、フッと、貝が息をした。
まあ、全部ではないかもしれぬが。
30分。
砂は吐いていない、、、、。
どうであろうか。
もういいか。
多少砂が入っていても、ままよ。
ねぎを薄く斜めに切っておく。
豆腐も一口に。
ステンレスの小鍋に水、蛤を2つ入れ、ふたをして
ガスで加熱。
煮立ってくると、一つ開いた。
しばらくすると、もう一つも。
砂も出ていない模様。
OK、大丈夫そう。
豆腐を入れ、温め、ねぎも入れる。
軽く、塩。
味見、OK。
ふたをして火鉢へ移しておく。
酒の燗を薬缶で付ける。
今日の酒は、菊正宗のしぼりたて純米大吟醸。
また、妙に高い酒、と思われようが、これは、
今年の正月用に買ったもので、冷蔵庫に入れっぱなし
になっていた。時間がたっているので、しぼりたて、
でもなんでもないのだが、呑み切ってしまおう。
だが、もちろん、ぬる燗。
蛤の湯豆腐。
この蛤、見た目もよいではないか。
皿に取る。
まず、酒。
流石に濃厚。だが、菊正なので辛口。
香りは落ちているかもしれぬが、問題なく、うまい酒。
そして、蛤。
これが、まずいわけがなかろう。
やはり、身を味わうにはこの大きさが必要である。
豆腐もしょうゆはなし、塩のみで、うまい。
そしてつゆ。これ!、で、ある。
おわかりなろう。言葉に尽くせない蛤のつゆの味。
基本つゆは、飯とともに出されるものである。
だが、先日も、松茸土瓶蒸しで酒を呑んだが、つゆもの
というのは酒の肴になる。わたしはそれをこの蛤の湯豆腐で
覚えた。
値段も値段だが、蛤の湯豆腐、簡単で極上である。
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