浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



煮た沙魚(はぜ)

間があいてしまった。


その間に食べたものを少し書いてみる。


まずは、まだ仕事始め一週目。


1月7日(水)。


仕事帰り、御徒町の吉池に寄ってみた。


ん!。


沙魚(はぜ)がある。
三重県産。


大きい。


この時期は落ち沙魚。
冬の味覚、で、ある。


これは買わずにはおれない。


しょうゆで煮る。


池波レシピ。


作品は「梅安」、で、ある。



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「 梅安が家へもどると、見事に肥った沙魚(はぜ)が十余匹尾、


 


 笊(ざる)に入って台所に置かれてあった。



 (中略)



  台所の沙魚を見るや、梅安は、ぴちゃりと舌を鳴らした。



 食欲をそそられたらしい。



  新年を迎えたばかりの、このごろの沙魚は真子(まこ)・白子



 を腹中に抱いて脂がのりきっている。



  梅安は、のろのろと鍋を強火にかけ、生醤油に少々の酒を加え、



 これで沙魚をさっと煮付けておいて、



 「ふむ、ふむ……」



  ひくひくと鼻をうごめかしながら居間へはこび、冷酒を茶わんに


 くみ、炬燵(こたつ)へ入ってすぐさま食べ始めた。



 (中略)



 頭も骨も残さぬ。」



新装版・殺しの四人 仕掛人・藤枝梅安(一) (講談社文庫)

新装版・殺しの四人 仕掛人・藤枝梅安(一) (講談社文庫)


池波正太郎 新装版・殺しの四人 仕掛人・藤枝梅安(一) (講談社文庫)



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新年というのは、むろん旧暦、で、ある。



「今日のおすすめはコレ」。



沙魚ぐらいであれば、軽く火鉢で煮えるであろう。


例えば蛤(はまぐり)の湯豆腐をするにも蛤の殻の開けるには、
そうとうな火力が必要で、山のような炭を熾さないと
とても間に合わない。


炭を熾し、火鉢にいける。


ぬめり取りに塩で揉んで洗う。
まるまると太ってやはり子持ちである。


小鍋に酒、しょうゆを煮立てる。
水は入れない。
やはり濃い味がよい。


沙魚をまず三匹入れ火鉢に移動。
ふたをする。


炭を吹いて火を強める。
このくらいであれば、すぐに煮える。


今日はビール。


栓を抜いて、とりあえず一杯。


煮えてきた。





沙魚の身自身は、天ぷらにするくらいで
淡白な白身だが、たっぷりと子を持って、
まさに、堪えられぬ。


冬の味。


食べては鍋に入れ、煮て、食べる。




池波先生が「梅安」に書かれている通り、
沙魚といえば、とても身近な江戸前の魚であった。


以前の東京の屋形船遊びは、沙魚を船から実際に釣って
それを天ぷらに揚げ、食べるというのが定番であった。
それだけ子供でも女性でも手軽に釣れるものだった
わけである。


戦後、隅田川東京湾も汚染が進み姿を消したかと思われた。


ここ20年くらいであろうか、東京湾
川、堀も、様々な努力の結果、きれいになってきた。


沙魚もどこかで命をつないでいたのであろう。
徐々に戻ってきた。


今でも荒川やスカイツリーの真下の北十間川など、
本所あたりに残っている掘割でも、夏場には釣っている人も
見かける。
食べられるものなのか。
冬の沙魚は、堀川から海に出るというが、
今はお台場あたりにでもいて、釣れるのであろうか。


私には釣りの趣味はないが、冬、東京の堀川、
お台場の海でも多くの釣り人が見られて、
こんな季節感を感じられたらうれしいと思うのだが
まだ先のことであろうか。




沙魚釣や 水村山廓酒旗の風 嵐雪