浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



断腸亭落語案内 その37 桂文楽 心眼

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引き続き、文楽師「心眼」。

盲人で按摩の梅喜(ばいき)。
茅場町のお薬師様に願掛けをして、なんと目が開いた。
大喜びで浅草のたまたま出会った、近所の上総屋の旦那と、
自宅に帰るところ。
芸者の乗る人力車に出くわし、上総屋の旦那に、お前の内儀さんの
お竹さんは、本当にまたとないよい内儀さんなのだが、器量が著しく
まずい、といわれる。目が見えなかったので自分の内儀さんの
顔を知らなかったのである。

さらに。
上「お前の内儀さんはまずい女だ。
  反対にお前はいい男、たって、役者にだって、お前さんくらいの
  男はないって言ってもいいくらいだ。」

山の小春という芸者がいる。

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説明されないが山は浅草、山の宿でではなかろうか。今の花川戸、
言問橋の西詰あたりの地名。馬道にも近い。
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この小春が、梅喜はいい男で以前から岡惚れをしている。
目が悪くなかったら、一苦労してみたいと言っていた、と
上総屋の旦那はいう。

二人で、浅草の仲見世までくる。
久しぶりの目に見える仲見世に梅喜は大喜び。
新しいおもちゃがいろいろ出ているんですね~。

仁王門から本堂へ。
いつもは下からお参りするが、上に上がる。

(またまた、手をパンパンと、打つ。
 もちろん、観音様もお寺である。)

梅「このご恩は決して忘れません。
  いずれ、お竹がお礼参りに伺います。
  ありがとう存じます。ありがとう存じます。」

梅「あれ?!
  旦那、ご覧なさい。箱の中から人が出てきた。」
上「ありゃ、姿見(すがたみ、鏡)だよ。
  お前さんとあたしがあそこに映ってるんだ。」
梅「は~~~、なるほど。私だ。
  なるほど~、私はいい男ですな~。
  こっちは、あーたですね。
  なるほど~、あーたはまずい面だ。」
上「おい。ヘンなこと言っちゃいけない。」

人混みに紛れ、上総屋の旦那と、はぐれる。
入れ替わりに
 「そこにいるのは、梅喜さんじゃないかい?」
山の小春である。
今そこで、上総屋の旦那に、目の開いた梅喜がそこにいると
聞いて急いできた、と。

梅「なるほど~、いい女だ。」
小「なにを言ってるんだね~。
  だけど、よかったね~。
  どっかで、ご飯あげたいと思うんだけど。」

富士横丁の富士下に[釣り堀」という只今で言う、待合、
これへ二人(ふたあり)が入る。

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この5~6月がちょうど季節であったが、お富士様の植木市というのが
浅草では毎年開かれている。これが、観音様の裏手、北側、旧象潟町
あたりにある浅間神社の市。いわゆる富士信仰の神社である。
このあたりであろう。今と比べればかなりにぎわっていたところ。
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女房のお竹に上総屋の親父が梅喜のことの話をする。
観音様のお堂まできてみると梅喜はいない。
心配して辺りを探してみると、高いお堂から富士横丁の方を
見ると、確かにそれらしい二人連れが見える。
後から見え隠れに付いていく。
続いて、ツレコミに入る。
庭の植え込みんとこにしゃがんで、中の様子を伺う。

こちらは、座敷。
二人は、よろしくやっている。

梅「目が開いて、姐さんにご馳走になろうとは思わなかったな。」

梅「“人なし化け十”の内儀さんなんか目が開いたら一緒になって
  いられませんよ。」
小「じゃ、あたし女房にしておくれでないかい?」

そこへ、お竹が

梅「なんだ、いきなり。
  お前は誰だ?」
竹「わたしゃ、お前の女房のお竹だ。」
 (お竹、梅喜の胸倉にむしゃぶりつく。)
梅「お竹、お竹、苦しいよ、、、、、」

  ・・・

竹「どうしたの、梅喜さん、梅喜さん!」

梅「お、お、、
  お前、今、俺の喉を締めやしなかったかい?」
竹「なにを言ってるんだい。お前さんがあんまりうなされてる
  から飛んできたんじゃないか。
  梅喜さん、お前、こわい夢でも見やしないかい?」

梅「あー、、、、

  夢かぁー。
  
  俺ぁもう、信心はやめだ。

  盲(めくら)ってのは妙なもんだねぇ。
  寝ているうちはよーく見える。」


これで、下げ。

夢でした、という下げは落語にはそれなりにある。

「夢金」「鼠穴」「天狗裁き」、、他にもあろうか。

まあ、安易といえば、安易なのだが、私はそれほど嫌いではない。
落語らしい、ともいえるかもしれぬ。
長閑(のどか)というのか。
落ち、下げ、というよりは、結末の付け方といった方がよいかも
しれぬ。

この噺、なかなかよくできているのではなかろうか。
勧善懲悪というのか、やはり円朝作品らしいかもしれぬ。

私が聞くと、梅喜にやはり感情移入する。
男ならだれでもそうなのか。わからぬが。
目が開いて、且(か)つ、いきなりいい男、イケメンになっていた
という、まるで変身をしたよう。
美人にもモテて、内儀さんなんか別れちまおう。
スケベな男なら、ウキウキ?。

だが、そんなウマい話はないわけで、夢であった、と。

やっぱり、真面目に地道に毎日を送らねば、か。
円朝作品らしいが、これは説教くさく感じない。
まあ、そうだよな、と。

 

つづく