さて。
今日は昨日の続き。
東日本橋の「あひ鴨一品 鳥安」。
通された新和風の座敷。
これは床の間。
道路側なのだが、大きな窓はなく、足元に障子があり、
開けてみてそれとわかった、のである。
ビールを頼み、待っていると、
ビールとともに、つき出し。
上から白和え、鴨ロース肉のスモーク、真ん中は
蒲鉾ではさんだ魚の和え物。(魚は鮭のよう。)
銀杏と牛蒡、鰊の昆布巻。
次が吸い物。
小さな土鍋入り。
肉は、鴨、で、あろうか。
鶏のささ身のようなさっぱりした味。
と、炭の熾った、コンロがきた。
これで、鴨を焼くのか、と、期待がふくらむ。
鴨の前にもう一皿。
黄色い、いちょうの形は、サツマイモの
揚げたもの。エリンギ、しし唐、鶉の玉子、など。
いよいよ、鴨の登場。
鉄の使い込まれた鍋がのせられ、しばらく温める。
鴨肉やら、野菜の並んだ皿も、お姐さんが運んでくる。
お?!
基本的に、ここは、やってくれるようである。
脂身を先に焼いて、脂を出す。
全体にいきわたると、まずは、鴨肉の砂肝、ハツを置いて、
「これは、火が通りにくいので、ピーマンで
ふたをします。」と、お姐さん。
(注※、お姐さんといっても、我々よりも、
むろん、そうとうに年上の方、で、ある。)
肉は、タタキ、といってたが、つみれのような、
挽肉もある。これは、鴨肉の挽肉に鴨の脂身も入れて
混ぜたもの、と、お姐さん。
ピーマンの次にこれも丸めて、少しつぶした形で
鉄鍋の上に置く。
脂身のついた、ロース肉も置く。
あとは、ねぎ。
(このねぎも、太くよいねぎ、で、ある。)
ロースは焼きすぎぬがよい。
焼けてくると、いい頃合で、
お姐さんが取ってくれる。
取り皿には、丸く盛られた、大根おろし。
これに、しょうゆのみをたらして、食う。
ほー。
そうか。
甘辛の割り下でもなく、玉子、をくぐらせて、でもなく、
実にシンプル。これぞ、江戸前、で、あろうか。
池波先生の剣客商売に、ねぎと鴨肉のみで焼いて、
しょうゆを酒で割ったものだけで食う、
というのがある。
これに近いかもしれない。
むろん、うまい。
しかし、こうして、なにからなにまで、
やってもらって、その上、焼けたら取ってもらって、
なんというのは、初めて、で、ある。
また、たまたまついてくれた、お姐さんが
よかった、というのもあろう。
(大体において、皆さんもご経験があろうが、
こういう老舗鍋料理やのお姐さんというのは、
仕切りたがりで、口うるさいと、決まっている。
むろん、うまい食い方は、一番知っているのだろうから、
仕切ってもらうのはいいことなのだが、
ちょいと、鍋に手を出して違うことでもしようものなら、
鬼の首を取ったように、怒られてしまう。
まあ、それも言い方、だったり、そのお姐さんの
キャラクター次第なのだろうが、なんとなく、
不愉快になることも、あったりする、ではないか。)
少し焼いてから、
よろしいですか?お二人でお話をしながら、
お召し上がりになります?
と、気を使ってくれたが、むろん、内儀(かみ)さんも
私も、全部やってくれるのは、大歓迎。
最後まで、お願いしてしまった。
このお姐さんは、本所の方、らしい。
それで、ここへは歩いてきているという。
我々が、浅草から地下鉄に二駅乗ってきたことをいうと、
歩いていらっしゃればよかったのに、
と。
本所もどの辺なのかで違うが、
まあ、歩いてこれる範囲、ではあろう。
ねぎも、肉厚の椎茸もたっぷりと脂を吸って、うまい。
散々食べて、ご飯。
赤だしと、お新香。
そして。
最後に、鍋に残った、脂身をカリッと
焼いてくれる。
残った、大根おろしとこの脂身を、ご飯におかけになって、
食べると、おいしゅうございますよ、と、お姐さん。
うーむ。
それはうまそうである。
最近はよく、鍋の後にうどんを入れることがあるが、
あれは、やはり、関西のものであろう。
先日の、桜鍋のみの家、も、あの残った味噌ダレと
玉子を、飯にぶっ掛けて、食うのが定番であった。
(食いすぎを考えて、私は思いとどまった、のであるが。)
(また、つゆの多い鍋物では、うどんではなく、飯を入れて、
玉子を入れ、おじやにする。これが東京流であろう。)
飯にぶっかけて食う、なんというのは、
まったく、品はないが、これぞ江戸流?
東京流であるかもしれぬ。
案の定、鴨脂とおろし、しょうゆ、と、
飯にからんで、堪えられない、うまさ、で、ある。
やっぱり、前回同様、今度は鍋にまだ残っている
脂を取って、さらに一膳、飯を食いたくなるが、
かろうじて、思いとどまる。
黒豆のプリンで、終了。
番茶をもらって、お勘定。
お帰りは歩いて帰ってくださいね、と、お姐さん。
はい。
ご馳走様でした。
おいしかったです。
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