浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



浅草六区・翁そば

4693号

12月6日(金)第一食

さて、今日は浅草。

よい天気。

最高気温15.5℃(12時41分)。
平年が13.4℃なので、ちょいとまだ暖かい。

ROX(ロックス)の西友に行くのが目的なのだが、
その前に、なにを食べようか。

ちょっと久しぶりか、[翁そば]にしようか。

場所がちょっと説明しずらい。

六区の通り、演芸ホールがあって、ドンキがあって、
交番がある交差点。
これを浅草寺方向に、今、奥山おまいりまち、と
言っている通りを行き、最初の路地を右に入った左側。

前に立ち呑みやがあったり、もう少し行くと
[水口食堂]があったりする。

なんであろうか、このあたり、浅草の中でも
かなり濃い一角。

[翁そば]の創業は大正3年(1914年)、当代で
六代目とのこと。

この頃の六区界隈はというと、前に一度書いている。

明治になり、行政の政策でここ、六区に興行街が作られた。
ただ、当初は江戸からの軽業などいわゆる見世物の延長
だったが、大きく内容が変わってきた頃。
関東大震災以前の大正期、無声時代だが、活動写真が
始まっており、また、ちょうど浅草オペラが隆盛を
極めていた。

その頃と道、町割りは変わっていないが、この
北側一帯、今、ウインズと楽天地ビルの場所にはまだ
瓢箪池という池があった。
この[翁そば]の通りは六区興行街の一本裏だが、当時の
賑わいは、外国人観光客でごった返す今以上であったろうと
想像する。ただ、店のお客は、一般人もあろうが、
出演している歌手、役者、喜劇役者、落語家、等々、
出演者がきていたのであろう。まあ、今もここには、
演芸ホールに出演している前座さんなどを時折見かけるが、
もっともっと“濃い”雰囲気であったのであろう。

その後、この六区界隈は震災、戦災を乗り越えて、戦後も
興行街としての顔を持ち続けるが、今は映画館も完全に
なくなり、残っているのは浅草演芸ホールと、東洋館、
ロック座、木馬亭あたり。
エンターテインメントの街は一変しているといってよいだろう。
前にも一度書いているが、花形であったのは、松竹演芸場まで。
浅草松竹演芸場こそが、コント55号、ツービート、等々、伝説の
浅草芸人が出演していたところ。(映画「浅草キッド」が
この時代の雰囲気を映している。)
その松竹演芸場が、閉じたのが昭和58年(1983年)。
松竹演芸場は、ちょうど今のROXの北、パチンコや側に
あった。

芸能の街が使命を終えた浅草は、その後が、厳しかった
といえよう。昭和が終わり、平成に入り、人通りが減り、
夜も7時、8時になれば皆、店は閉め、見る影もなく
寂しい街になってしまっていた。

多少、回復し始めたのは、下町ブーム、10年、15年前
あたりであろうか。スカイツリーができたのが、平成24年
(2015年)。このあたりか。
コロナ禍はあったが、その後、外人観光客でごった返す
V字回復の、今。

兎にも角にも、再び、みたび、浅草に人が戻ってきたのは、
よかった。

明治から書いたが、江戸期も初期から浅草寺門前町
として、浅草はにぎわっていた。つまり400年ほど、
人の集まる場所であった。
これが戻ってきたのはまったく喜ぶべきこと。

ただ、こうしてみると、やはり街の色は、大きく
変わっている。

そのうちの100年[翁そば]は浅草六区の移り変わりを
見てきたわけである。

その歴史を見続けてきた、なかなか趣きのある店構え。
二間程度であろうか、小さな間口。

2時すぎ、暖簾を分け、曇り硝子の格子を開けて入る。

テーブルは埋まっており、あいている小上がりへ。

もう、ここでは、私はカレー南蛮そば一本。

表側の玄関左、上の棚にいつも通り、TVがついている。
さすがにそこそこ大きい液晶TV。
映っているのは午後のワイドショー。

きた。

ギリギリまで、すり切り一杯。

ここの丼は、どうであろうか、ふたまわりか、
みまわり、一般的なうどんそばの器よりも小さい。

これは、昔の形だと思われる。
以前のうどんそばの器は、今よりも小さかったのである。
それに合わせて、一杯の量も少なかった。
老舗そばやのざるそばの量は今も少ないところがあるが、
これも昔からの量であると思われる。
今のものは、器は持って食べるにはちょっと大きい。
一杯のそばの量も多くなっている。
(以前、特にざるそばは、お替りをするのが普通であった。)
振り売りのそばやは立って食べるが、当然器は手に持つ。
持てる大きさだったということである。

ここは丼は小さいが、量は、十分に今の大盛。

そして、麺。

量に加えて、なかなか、強力である。太くバラバラ。
そば界のラーメン二郎?。
二八(にはち)小麦粉2:そば粉8ではなく、
5:5の同割り、という。
これはなぜであろうか、お客の芸人に安く提供したかったから
ともいう。(今、ここのカレー南蛮そばは、800円だが、まあ、
こんなものか。)

とろみのあるつゆは、スパイシーさはすくないが、
十二分にうまい。肉は、鶏。今カレー南蛮ならば豚の方が
多く、うまいと思われるが、以前、東京のそばやには
豚肉はなく、あるのは鶏だったから。怒ってはいけない。
そういうものだった、と。

食べていると、この季節だが薄汗が出てくる。
夢中で食べ終わる。
立って勘定。応対も丁寧。

ご馳走様でした、うまかった。

 

03-3841-4641
台東区浅草2-5-3

 

 

 

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