浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



箱根塔之澤・福住楼 その1

dancyotei2013-12-25


12月21日(土)



さて。



土曜日、箱根に年賀状書きに内儀(かみ)さんといく。



年賀状を書くので、二泊。
真ん中の日の昼間、宿で書く、と、いうわけである。


自宅にいると皆さんそうだと思われるが、取り紛れて
なかなかやろうと思っても、はかどらないので、
缶詰になって無理やりにでも書く、と、いうことにしている。


泊まる場所はもう10数年お世話になっている塔之澤の[福住楼]
という老舗の温泉宿。


13時すぎ、車で出る。


箱崎から首都高に乗って、東名、小田原厚木道路


毎年、この天皇誕生日の連休にいくことに決めているのだが、
今年は例年になく、首都高渋谷線の渋滞が激しかった。
この連休、車で移動する人も多いのか。
少し景気もよくなってきたのであろうか。


着いたのは3時半頃。


塔之澤というのは箱根湯本から強羅方面へ一つ目の温泉郷


[福住楼]は、湯本から一号線、早川に架かる二ツ目の橋を渡った
すぐのところにある。


3台しか入らない狭い駐車場に車を止める。






創業は明治で、ここの建物は、国の登録有形文化財
部屋部屋が皆違う趣向をこらした数寄屋造りで、
なにしろ私にはこれが素晴らしく思われて、毎年通っている。


玄関の硝子戸を開けると、出迎える宿の方々。
挨拶をして、案内に従って部屋へ向かう。


今年はどうも初めての部屋のようである。


どんどんと奥に向かい、今はあまり使われていないのであろう、
舞台のある大広間を抜けて、さらに奥。
階段をあがって、一番奥のようである。


「瀬せらぎ」という部屋。





一番奥の川に面した部屋。


風呂には少し遠いが、人気(ひとけ)が少なそうで
よいかもしれない。


ここはほとんどの部屋がそうだが、二部屋続きの、
次の間(ま)付きという贅沢なもの。


主室。





二方が窓でちょうどここで早川が屈曲しており、そこに面している。
もう慣れてしまったが、川沿いの部屋は川の音がごうごうと
聞こえる。





和室というのは冬は寒いものだが、この部屋はホットカーペット
ストーブ。次の間にもストーブ。


座って、担当の仲居さんがお茶を淹れてくれて、世間話。
この連休はやはり混んでいるよう。
心づけも忘れずに、内儀(かみ)さんが渡す。


床の間。





掛け軸。下には香炉、で、あろうか。


右側、もう一段高くなっているところがあり、その奥に飾り窓。


天井はこんな感じ。





これだけでも凝った造りの部屋であることがお分かりになろう。
これはなにもこの部屋だけでなく、この旅館のすべての部屋が
すべて違った造りの数寄屋造り、ということなのである。


どんなに新しいお洒落な温泉旅館、ホテルでもすべての部屋が
異なった装飾というのは、現代ではとても考えられなかろう。


掛けじ。





部屋それぞれに、それまでに泊まった有名人のことなどが
部屋にある案内に書かれている。


この部屋はなんでも、田山方南(たやまほうなん)という人が
書きもののために、長く逗留していたということ。


この掛けじもその人のもの。


この田山方南という人は、私は知らなかった。
なんでも戦前からの文部省の役人で、国宝、特に墨跡(ぼくせき)
というので、書(しょ)であろう、その鑑定の第一人者で
あった方という。
(方南は、氏が住んでいたのが方南町であったからともいう。)


この[福住楼]はどちらかといえば、文人墨客、芸人というのが
客筋で、福沢諭吉夏目漱石島崎藤村、芸人では大辻司郎、三平の
前の元祖昭和の爆笑王といわれた三遊亭歌笑なんという名前も
出てくる。


ちょうど川をはさんでこの部屋の向かい側に見える[環翠楼]が、
かの天璋院篤姫や皇女和宮伊藤博文といった客筋であるのに対して、
やはり対照的である。(やはり私は[福住楼]の方、である。)


で、掛けじの文字。



、、、読めない。



帰ってきて、解読してみた。


歌か詩か、はたまた文字が曲がっているので、ただのメモか?。




仙石原



筆捨ててすすきの道をたどるわれ


月にあゆみしひともろともに



すすき原 足もとにさく


一輪の野菊見つけてこころときめく



長尾峠



一面のすすきの原におそいくる


白き霧くも層増してすぐ



旅士方南



これでよいのであろうか。



墨跡鑑定が専門だからか、わからぬが、普通の仮名ではなく、
今は使っていない、いわゆる変体仮名に苦労した。
しかし、まあ実際の古文書などよりは
よほど読みやすいのかもしれない。


私など、書も古文書も勉強したことがないので
上手い下手すらわからず、まるっきり駄目である。
やはり、読めた方がよいし、もっといえば
書けなければいけないような気もするが、、。


ともあれ、これ、文字数を数えたら、五七五七七。
なんのことはない、短歌じやないか。
字が曲がっているのはその場で書いたもの
なのであろう。


一首目の下(しも)が、ちょいと意味がわからないが、
他はよくわかる。
見たまま。写生の歌ということなのだろうが、
野菊にときめいたり、ちよっと色気もあるか。






つづく。







福住楼