浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



日本橋・神茂・はんぺん

dancyotei2018-03-13



3月8日(木)夜


17時、日本橋コレド室町付近で仕事終了。


さて、どうするか。
ちょっとぶらついて帰ろうか。


コレド室町の裏の通り。
南、日本橋川の方向に歩くと、町中華の[大勝軒]が左の角にあって、
右の角が[神茂]。


[神茂]!。


はんぺんでも買って帰るか。
はんぺんというもの、私はほとんど食べない。
別段、きらいというわけではないが、
おでんやでも然りだし、自分で作るおでんにも入れない。


ちょっと、意味の分からない食い物の一つ
かもしれない。


ふわふわとした食感はまあよいのだが
味があるような、ないような。
正体が定かではないではないか。


はんぺんというのは、練り物のすじや
ちくわぶと並んで、江戸東京オリジナルの
おでん種。
そのはんぺんの元祖と、名にし負うこの店。


いつもこの店の前を歩いてはいるが、
買ったこともなければ、入ったことすらない。
やはり、断腸亭としてはまずかろう。
買ってみようと考えた、のである。


入ってみると、若いかわいいおねえさんが応対。
あの、はんぺんを、というと。


ショーケースの中に、はんぺんは二種類。


四角い手取りはんぺんというのと、半月という丸いもの。
形違いで、同じものでございます、とのこと。
丸い方が古い形のよう。


どんなものか、それぞれ二つずつ。


はんぺんの上の棚にあった、煮凝り。


おねえさんが、あの、煮凝りもいかがでしょうか、
とすすめる。キャンペーン中?。


煮凝りも、私の親父は好物であったが、
私自身、うまいとは思うが、自分で買って、あるいは
作って食べたいと思うほどの食い物ではない。


まあよいか。


じゃあ、それも。


笑顔ですすめられると、おじさんとしては
買わざるを得ないか。


はんぺんが一つ300円と400円、煮凝りが1000円。


帰宅。



はんぺんをちょっと調べてみた。


ここのHPには、こう書かれている。


「東京・日本橋はかつて魚河岸があり、関東大震災で焼失し築地に移るまでの
三百余年、江戸の台所として賑わっていました。その当時、鮫のヒレは幕府の
重要な輸出品で、 そのヒレを取った残りの鮫を利用して、半ぺんを造り始め
ました。」


微妙な表現である。
なにかというと[神茂]ははんぺんの元祖なのか、
という問題。
先に書いてしまったが、私は、てっきり[神茂]が
元祖かと思っていた。
ウィキペディアでは、出典は明示されていないが
「名称:名前の由来には、江戸時代の駿河の料理人・半平(はんぺい)が
創案したところからこの名がついた、また椀蓋で半月型に整形した
ことから名がついたなどの多くの説がある。」とある。


上の[神茂]のHPの文章は、主語がはっきりしない。
わざとはっきりさせていないようにも深読みもできるが、
いずれにしても[神茂]ははんぺんが生まれた頃から
ずっと日本橋魚河岸で作ってきた、ということは、
間違いないということのようではある。


また、戦前まではほぼ関東のみで食べられていたが、
戦後、やはり紀文によって、全国に販売されるようになった、
とのこと。


まずは、そのままわさびじょうゆで食べてみるか。
煮凝りとともに、出す。



まあ、こういうもの、なのであろうが、
味があるのかないのか、やっぱり微妙な味、で、ある。
はんぺんの原料は、今は他の練り物と
同じように、スケトウダラなどのすり身のようだが、
発祥当時は、先にHPから引用したように輸出用に
鰭を取った後のサメで[神茂]のものは今もサメを
続けているとのこと。(それで高いよう。)
まあ、普段ほぼはんぺんを食べないので、違いは
私にはわからない。


煮凝り。
これも、同様にサメが原料とのこと。
[神茂]では自然に固まらせているので、
この時期限定のもので、看板にしているよう。
生の三つ葉なども入っている。
出汁は強め、甘さはひかえめで少し上品な感じ。


だが、煮凝りもそうだが、生のはんぺん、そうたくさんは
食べられぬ。


やっぱり、これであろう。





バタヤキ。


関東で育たれた同世代の方は、ご存知ではなかろうか。
「紀文のはんぺん、斜めに三角、横に包丁さっと入れ、
紀文のはんぺん、バター焼き」であったか。
メニュー提案のコマーシャルである。
(「横に包丁さっと入れ」が意味不明である。違っているか。)


バターで焦げ目を付けて焼いたもの。
これは、文句なくうまい。
なにも高価な[神茂]のものでしなくても
よさそうだが。


しかしなぜ、こんなふわふわ、なのか。
製造方法を調べてみるとやはり卵白が入り、
泡立てているとのこと。
と、なると、江戸の頃であれば玉子はそう出回っておらず、
そこそこ高価なものであったはずである。


このふわふわ、女性に好まれた、のではなかろうか。
お金のある、女性。
江戸城大奥?。
あるいは、大店のお嬢様?。


江戸期のはんぺん、そんなところだったのかもしれない。






神茂