浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



豚丼〜その2 丼ものとはなにか。

dancyotei2015-09-09



引き続き、豚丼のことから、丼ものとはなにかを考えている。

東京の4大丼といえる、うな丼、天丼、親子丼、かつ丼について
それぞれ考えてみた。

昨日指摘したのは、甘辛のつゆ、またはたれが
どれにも共通しているということであった。

もう少しこの4丼について考えてみたい。

それぞれの主となる具材について、で、ある。
それぞれ、うなぎ蒲焼、天ぷら、鶏肉、とんかつ、である。

この中で、一つだけ仲間外れを探せ、という問題あったとすると、
やはり親子、で、あろう。

昨日、親子は江戸の軍鶏鍋・鶏すきから生まれた、と書いたので
本当は、鶏も立派な主役なのかもしれぬが、他のものと比べると、
ちょっと格が違う、というのか、3番バッターではなく、
2番、あるいは、7番バッターくらいではなかろうか。
値段も、他のものよりも安くなければ、お客は納得しなかろう。

他の3品は、誕生当時も、うなぎや天ぷらは今でもご馳走メニューと
いってよいし、とんかつも今は少し格は落ちているかもしれぬが、
洋食のカツレツからとんかつとして独立した大正時代には
流行の大人気メニューであった。

つまりこのメンツを眺めていると、主たる具材の魅力度というのも、
丼には欠かせない要素である、と、考えるのである。
なぜこれが必要なのか。やはり丼一つで一食を終わらせてしまうという
日本食としては、簡便だが、簡便なるがゆえの、さびしさを埋めることが
必要だったのではなかろうか。

さて、そこでもう一つの丼メニューの登場ということになる。

そう、いわずと知れた、牛丼である。
牛丼は、1970年代にかの[吉野家]のチェーン化によって一般化した。

基本の牛丼は、甘辛のつゆに、牛肉と玉ねぎ。
玉子とじでもない。

甘辛のつゆは、東京の以前からの丼ものの共通項を踏襲している。
そして、主たる具材の魅力度はどうか。

吉野家]の発祥は東京の築地市場ということになっており、
東京の味といってやはりよいのであろう。
(関西の皆さんは別であろうが。)
東京では牛肉というのは、ちょっとした存在感はやはり今でもある。
牛肉で甘辛のつゆといえば、すき焼きをすら想像させる。
そこはかとない、ご馳走感がやはり、ある、のである。

蛇足だが、牛肉を主張させたいので、玉子とじは余計になろう。

そういう意味で、牛丼は、新たな丼ものとして定着するべくして
定着した、と、いってよいと思われる。

さて。

ここまできて、豚丼のことにやっとたどり着くのであるが、
皆様から、この4丼以外のものはどうなのだ、という疑問が
出ているやにも思われるので、ちょっとだけ触れてみる。

これ以外にもむろん、世の中にはたくさんの丼ものがあろうが、
どこにでもあるもの、といえば、かなり少ないだろう。
それでも、無理やり探してみると、思い付くのは、中華の二品、
中華丼と、天津丼ではあるまいか。

この二品は東京の町の中華やには、まずある。
元来、ご飯の上に炒め物などをのせるという食べ方は、
中国本土、台湾、香港から始まり、華人の影響が強い東南アジア
地域では、ごく当たり前のものであろう。(特にお昼ご飯か。)

中華丼はむろん、天津丼は、多少親子丼を思い出しはするが、
東京の丼よりは中華の食べ方が入ってきていると見た方が
適切であると思われる。
ただ、中華丼も天津丼もともにあんかけであることに注目したい。
本来の華人の、おかずon
the ご飯、はあんかけには限らないと、
思われる。

日本(東京)の丼の基本要素として、甘辛のたれ・つゆ、を指摘したが
これは、味もあるのだが、掻っ込める、という食べ方につながっている。
そういう意味で、中華丼も天津丼もあんかけが定着している
のではなかろうか。

長々書いてきたがやっと、豚丼のことである。

まず、味はどうか。
最近は塩味なんというのもあるようだが、焼いたものも煮たものも、
基本は甘辛で、それもたれ・つゆがあり、東京の丼ものの伝統をきちんと
押さえている。
まあ、牛丼チェーンの牛丼のピンチヒッターが誕生のきっかけなので、
あたり前のこと、ではあろう。

もう一つの、格のこと。
これは、豚肉はどうしても牛肉には、勝てない。

玉子とじにするというのも、親子丼の相性にはやはり勝てない。

結局、豚丼とは、豚のしょうが焼き、あるいは(豚肉の)焼肉定食を
のせたもの、であろう。
これらはご馳走感には、やはり少し足りず、普段のご飯である。

もう少しいうと、メニュー登場以前にも家庭などでもあったろう。
ただ、外でお金を取って出すほどのメニューにはなり得なかった
ということだと思われる。それが定着したのには、大手牛丼チェーンの力と、
彼らの緊急避難、エクスキューズをお客が受け入れたからなのであろう。

豚丼が、その肩身の狭さを、なにで補っているかといえば、
やはり肉の量であろう。
昨日の冒頭に、ガッツリ系のチェーンのことを触れたが、
そういう方向にならざるを得なかろう。

やっぱり、東京の丼ものの伝統からすると、
鬼っ子、不肖の息子の印象は、否定できなかろう。
ただ、今述べたような方向で、定番化、生き残っていっても不思議は
ないようには思われる。

と、いうことで、断腸亭作、豚丼


市販の焼肉のたれは使っていない。

たれのレシピはしょうが焼きが基本。
豚肉を焼いて、ここにおろししょうが、酒、しょうゆ。
そして、丼に欠かせない、甘味、砂糖も少し。

これで軽く煮詰めて、飯にのせる。

上から、白髪ねぎ。
脂っこいものであるし、やはり、せめて、
こういう添え物は必要である。

こんなものでも、かなりやはりうまい。

そう、白髪ねぎのこと。
皆さんはどうやって切っておられようか。
今まで私は、切り方もよくわからず、ちょっと苦手にしていたのだが、
今回少し調べてみた。だが、(和食系だと思うが)特別な方法ではなく、
長ねぎの皮を広げて重ねて細く切る。まあ、あたり前であった。


おそまつ。