浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



小柱かき揚げ その2

dancyotei2015-06-16



引き続き、小柱かき揚げ。

東京の天ぷらの歴史らしきものをちょっとだけ考えている。

明治にはかき揚げの天丼が流行っていたこと
までみてきた。

問題は明治のかき揚げ天丼のその前ということで、
落語を材料にみてみる。

が、しかし!、である。

とは言いながら、実は、噺のテーマが天ぷらというものは
おそらく落語にはないのではないのである。

うなぎの場合、「素人うなぎ」「うなぎの幇間(たいこ)」
「子別れ」などうなぎが重要な位置で出てくる噺があるのに
天ぷらはなぜかない。(実は、鮨もほぼない。うなぎだけ特別とも
いえるのであろう。)

唯一、私が知っているのは、風景描写として出てくるもの。
小三治師の「道具屋」。

道端で道具屋を始めた与太郎が、通りの向こう側に出ている
屋台の天ぷらやのことを、ぶつぶつと独り言で描写するという
シーンがある。

師の「道具屋」の時代設定は、蔵前の“煉瓦塀”の前に店を
出すというので、明治だと思われる。

屋台の天ぷらやは、鮨やのように、腰掛があるのかないのか
立ち喰いに近い形か。そこで、きすを揚げてくれ、
次はぎんぽ、などと、いわゆるお好みで、好きなものを揚げてもらって
食べるという方式であったようである。
串に刺してあったともいい、関西の今の串揚げのような
感じもする。
(ぎんぽ、という魚をご存知であろうか。天ぷらにしか使われない今は
あまり出回らない魚である。味は穴子に近い。私は、この小三治師の
「道具屋」で知った。江戸湾東京湾でも獲れたのであろう。
その後、吉池で見つけると天ぷらにしてみている。 )

明治の頃に、天丼が流行ったと書いたが、同じ頃か
もう少し前か、屋台の天ぷらやが、まだ(?)あったようである。

結局、ここまで。
ズバリ江戸期は、いつ頃どんな業態で
どんなものをどんな風に天ぷらにしていたのか、
私としての考察は宿題にさせていだく。

まあ、そんなことなのだが、
小柱という馬鹿貝の貝柱は、江戸湾東京湾で盛んに獲れ、
おそらく安いものであったはず。
これを刺身でつまんだり、かき揚げにしていた
ということは、いつ頃からかはわからぬが、
大きな間違いはないのであろう。

と、いうことで小柱かき揚げを揚げる。

今さらながらだが、かき揚げを揚げるというのは、難しい。

まず、どういうかき揚げを目指すのか、
これを決めなければいけない。

これは密集度というのであろうか。
カリカリっとした部分が多いもの。
あるいは、多少固まっており、弾力があるような、
団子とまではいかないが、そんなもの。

これは結局、衣の堅さ(ゆるさ)で決まるのだが、
プロが揚げるものにもどちらもあって、それぞれ私は好きである。

最近はあまりパリパリしすぎているのも
揚げているものの味がわからなくなるようで、
今回は、少し堅めを目指してみる。

揚げ油は胡麻油100%。これは江戸前天ぷらでは欠かせない。

余熱。

玉子冷水を用意。

かき揚げは小さなお椀に材料を取り、
ここに天ぷら粉を入れ、まぶす。

玉子冷水に天ぷら粉を合わせ、衣を作製。

お椀に衣を合わせ、適温になった油に一気に投入。

衣が堅めなので、高温よりも気持ち低めを目指す。

最近はいつもそうなのだが、一投目は油温や衣がいま一つで
失敗することが多いので、テスト品にしている。
今日のテスト品は五分切りにした長ねぎと干し海老。
案の定、これは失敗。意図した堅さになっておらず、
飛び散ってしまった。

ということで、本番投入。

衣を堅めにする場合、中心に火が通らないことが
発生しやすい。この回避策として、投入後、ある程度固まった
ところで、厚い部分に菜箸で、貫通する穴を複数開けておくこと。
これはプロもしていることなので、インチキではない。

小柱が小さく、たっぷりと入れたのでできたかき揚げは二つ。

大根をおろして、天つゆはやっぱり桃屋のつゆ原液。



切って、切り口が見えるように写真を撮ればよかったかもしれぬ。

多少堅めの、ほぼ意図通りに揚がった。

一つにかなりの量の小柱を入れたので、
味もそれらしくもなっている。

揚げた二つとも食べてしまった。

さて、もう一つ。

この夜中。

天ぬきで呑む、というのを盛んに書いているが、
昨日書いた、ぶっかけのそば抜きということになるかもしれぬ。

冷やしの天ぬき。名古屋には、うどんやきしめんだが、
冷やしぶっかけには、おろしを入れることが多い。(これを
由来はわからぬが、ところではコロという。)これがうまい。

それで、テスト品のねぎと干し海老の天かす状態のものに、おろし。
つゆはやっぱり、桃屋



冷やしおろし天ぬき。

十分に酒が呑める。

(この場合はおろしは必須。蛇足だが生玉子は不可である。)

夏にはこれだ!。