浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



五街道雲助 蔵出し・浅草見番 その1


3月30日(土)



さて。



土曜日。


今日は珍しく、友人に誘われて、落語会へ行く。


五街道雲助師匠。
場所は浅草見番。


落語がホームグランドだ、と言っていながら、
寄席はもとより、落語会、独演会にも
まったく行っていない。


むろん、以前は習っていたくらいであるから、
頻繁に通っていた。


なぜ行かなくなったのか、といえば、むろんのこと、
談志家元の絶対信者であったから。


いつからかといえば、談志家元が月一で国立演芸場で演っていた
『談志ひとり会』をやめてから。
(まあ、その後、独演会などポツポツと演られてはいたが、
やはり、晩年は痛々しくて見ていられなかった。
そして、ご存じの通り家元は一昨年亡くなっているのだが。)


ライブの落語家でも好きな人はいる。
むろん、私の素人落語の師匠である、志らく師をはじめ、
談春師他、立川流の各師。あるいは、喬太郎師、、、。


だが、なんとなく、自発的に聴きに行こうとは思えない状態が
続いているといってよい。
(家で志ん生文楽圓生など過去の名人、それに談志家元、
あるいは、喬太郎師などはCDで聞いていたりする。)


まあ、落語に対する基準が談志になっているので、仕方のないこと、
なのではある。


でまあ、雲助師の会、場所が浅草見番、私の近所なので
誘ってくれたのであろう。


見番というのは、ご存知のない方の方が多かろう。
今はなき(?)花街(主として東京の)で芸者さんの
手配というのか、マネージメントをするところ。


花街のことを三業地などというが、これは、華やかなりし頃には
芸者さんがいる家=芸者置屋、料亭=料理を作るところ、
待合=まちあい、席を貸すところ、と三つに分かれていた。


お客は待合へ行くのだが、ここへ料理と女の子の手配を頼む。
待合は、料理は料亭に、女の子は見番に頼む。
まあ、そういう仕組みになっていた。


浅草の花柳界というのは、都内でも残っている方
なのかもしれない。


浅草の花街は観音様の裏、言問通りを渡った向こう側。
俗に、観音裏といっているところ。


言問通り沿いにある5656(ごろごろ)会館脇を北へ
入る通りが、柳通りといって、柳の並木になっている。


ここを入って少しいくと、右側に見番はある。


1時半開場、2時開演なので、1時15分頃家を出る。
徒歩。
寒いので、ダッフルコートに手袋。


20分弱で着く。


見番に入るのは初めて。
会場は二階のようで、靴を脱いで上がる。


上がると、なるほど。
大きな舞台もあって、芸者さんの稽古場のよう。


友人は既にきており、座る。


プログラムをみると、雲助師の今日のねたが書かれている。


『品川心中』と『山崎屋』。


こんな長い噺を二席も続けて演る人、というのも
そうはないのではなかろうか。


実のところ、雲助師を聞いたのは、皆無ではないと思うが
はっきりとした印象はなかった。


年齢は65歳。名門明大落研出身。
師匠は十代目金原亭馬生師。
(十代目馬生師は志ん生師の長男、志ん朝師のお兄さん。)
本所在住。
地味だが廓噺などを得意とする実力派。


プロフィールをカタログ的に書くとこんな感じであろうか。


『品川心中』と、中入後『山崎屋』。


終わりが4時すぎだったので雲助師で1時間半程度であったか。
やはり、一席30分以上。


雲助師は廓噺二席といっていたが『品川心中』は
廓が舞台であるが『山崎屋』は花魁は出てくるが、
廓自体が舞台ではない。


一席目『品川心中』。


これは素人さんはともかく、ちょっと落語をご存知の方なら
まず知っている噺であろう。


『品川心中』という名前もよいのだろう。
ただ“心中”というが『曽根先心中』のような、シリアスな
心中が題材ではないし、人情噺でも、怪談噺でもない。


長い噺だが、滑稽噺といってよいのではなかろうか。


川島雄三監督の映画『幕末太陽傳』(フランキー堺主演)は
この『品川心中』を下敷きにしているのは有名。


過去の名人であれば文楽師が演ったかどうか、だが、
その他、圓生志ん生どちらも演って、音はある。


談志家元も演っている。


誰のが抜群、というのはないかもしれないが、
やはり圓生師が無難か。


上下、あるいは、上中下、三つにも分けられる。


現代、下、はあまり演られない。
(今日も演らなかった。)


あらすじを書くのはやめる。


下が演じられないのは、上を聞かないと下は話がわからないから。
従って、通しで演らなければいけないので、そんな長いこと
一つの噺だけで、お客は引っ張れないということなのであろう。
(まあ、結局、引っ張れるほど、下はおもしろくない、と
いうことである。)


以前に『落語案内』を書いていたが、
その形を踏襲し、この噺のここがおもしろいという、聞きどころ。


上の心中までは、メインのはずだが、たいしておもしろくはない。


ポイントは品川の女郎屋の情景描写と、お染という、とうが立った女郎と、
心中の相手に選ばれた、本や(貸本や)の金蔵の、表現力であろうか。


私が好きな場面は、二人で海へ身投げしようと外に出て、庭から木戸を開けて、
桟橋へ向かうところ。


庭の木戸の鍵に手拭いを巻いてひねると、木が腐っていて簡単に鍵は取れ、
木戸が開く。すると

「上総房州から海を渡って吹いてくる風がピ、ピ、ピュ〜〜、


っとものすごい。白波も、ザ、ザ、ザ、ザ〜〜っと、、、」


という、ここ。(ちょっと講談風。)


これから心中をしようという夜の品川の海へ。


よい場面、で、ある。






明日につづく。