浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



柳橋二丁目・中国料理・馥香

dancyotei2009-06-21

『「食べ物日記―鬼平誕生のころ」を読んで』。
あちらこちらへいきつつ、途中なのだが、その間に、また一つ。


酸辣湯麺(サンラータンメン)が
食べたいという内儀(かみ)さんの希望。


リアルタイムから一週間遅れてしまっているが、
ご勘弁を。




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6月13日(土)夜


酸辣湯
ご存知のように、酸味があって、辛い、
もともとは中華のスープなのだが、麺を入れて
酸辣湯麺、と、なる。


酸辣湯麺といえば、私が真っ先に思い浮かぶのは
オフィスの近所、市ヶ谷の中国飯店


ここの料理は、今はどうなのか、よくわからぬが、中国大使館で
シェフをしていた方が、作られていたという。それで、
とんがったものがあるわけではなく、万人に受け入れられるが、
それでいて中華料理らしい奥の深さもある、という味。
そこで出す、きれいに細く形を揃えて切られた金華ハムやら、
豆腐やら、入った、酸辣湯麺はとてもうまかった。


麻婆豆腐などもそうなのだが、酸辣湯麺というのは、
店によって、随分と味が違う。
なぜであろうか。麻婆豆腐などは、四川の料理だというが、
東京で四川料理を看板にしているところでも、味は随分違うし、
広東、北京、上海など他の中華料理を看板にしているところでは、
もっといろいろな麻婆豆腐がある。


この原因は私は、麻婆豆腐という料理は
日本で発展した中華料理だからではないか、と、考えている。
つまり、本場では日本ほどは人気の料理ではなく、
これ、といった、きまったレシピがない、のではないか、
と、思うのである。


酸辣湯麺も、同様。
以前に、そこそこ有名な銀座の四川料理店で、
酸辣湯麺を頼んだことがあるが、なにか、いま一つ、
であった。


辛いので、四川料理なのかと思い頼んだのだが、
少なくとも、この店では、あまり得意としていなかった、
そういうことであろう。


さて。
そんなことで、うまい酸辣湯麺は、
どこで、食べられるか?


思い付いたのは、ご近所といってもよい、
柳橋二丁目、蔵前通り(江戸通り
須賀神社の前にある中国料理馥香(フーシャン)


3月に初めていったのだが、技とその味の組み立てられ方に
そうとうに卓越したものを感じた。


ここであれば、きっと、うまい、酸辣湯麺
食べられるであろう、というのである。
(と、考えていたら、先々週であったか、偶然、
チューボーですよ!酸辣湯麺が取り上げられ、
この馥香が出ており、やはり、と、思ったのであった。)


午後、TELをしてみると、席はあいているのだが
電話を取った店の方も、とっ散らかっているようで、
コースでなければ、料理を出すのに時間がかかって
しまうので、事前にメニューを決めてくれ、という。


店にいかずメニューを決めろ、とは、無茶な話、であるが、
仕方ないので、彼らのホームページのメニューを見て、
酸辣湯麺はもちろん入れて、いくつか選んで、再TELし、
一応のところ、伝える。
(やはり、だいぶ人気、なのであろう。)


店へは、7時、タクシーでワンメーターだが、
向かう。


TELで決めたのは、


「夏野菜のあっさり旨味炒め」、
マコモ茸の和牛ロース巻き トウチソースがけ」、
「精進あわびのオイスターソース煮、
黒酢入り辛味スープそば(酸辣湯麺)」


の、四品。
むろん、写真もなく、文字だけではよくわからぬもの、
も、あったが、まあ、よいか、と決めた。


席について、ビールをもらい。



一品目、「夏野菜のあっさり旨味炒め」。





見た目もあざやか。
コーン、赤いトマトに、緑のトマトもある。
オクラ、かぼちゃ、ズッキーニ、などなど。


全体に、火は軽く入っているくらいであろうか。
それでもコーンはとてもあまい。おそらく、生で食べられる
もの、で、あろう。


ここのシェフの本領発揮という一品で、あろう。


二品目、「マコモ茸の和牛ロース巻き トウチソースがけ」





写真を見ているわけではないので、出てきて、少し驚いた。
マコモ茸そのままの形、で、ある。
そこに、薄切りの牛肉を巻いてあり、ソースがかかっている。
添えられている白い、丸いものは、具のない中華饅頭。


マコモ茸はアメ横などでも売られているが、今が旬で、ある。
トウチソースと書いてあったが、味はちょっと甘めの
コクのある豆の味。


トウチは、豆鼓。


麻婆豆腐に入れる、というので、私も以前には、買ってきて
使ってみたのだが、塩辛さとクセのある香りに、いま一つ
使い切れず、今は、麻婆豆腐には、八丁味噌を使っている。


こういった使い方は初めて。
いわれなければ、豆鼓であることは、わからないだろう。


三品目、「精進あわびのオイスターソース煮」





文字だけで選んだだけに、これもびっくり。
いや、これが最もびっくり。
見た目には、これなに?、で、ある。


実は、あとで、ここのホームページに説明があったことに
気が付いたのだが、精進あわび、なるものが、なんであるか、
全く知らずに食べた。


中国には、お寺の料理から発展したのであろうか、
精進料理というジャンルがあり、肉や魚を全く使わないで、
そっくりのものを作り出す。TVで視た記憶があった。


まあ、おそらく、その類であろうとは、
予測していた。


中華であわびは、乾燥ものを戻して、柔らかく
煮込む(蒸す?)高級料理であることは、ご存知の通り。
その、精進版。


食べてみると、なるほど、そのあわびそっくりの食感。
味付けもあの味。
精進だから、豆腐などの大豆系、で、あろうか、
いや、、、、、、、椎茸?。


それにしては、だいぶ大きい。
だが、いずれにしても、これはキノコだ。


で、後で気が付いた、ここのホームページの解説。



『精進あわび 原産国:中国


白霊茸、バイリング、鮑茸、雪嶺茸とも称されるきのこで、
あわびに似た食感が特徴。中国の天山山脈あたりに自生する
稀少種でしたが、近年では栽培ものもあります。
肉の厚みや歯ごたえなど、やはり中国産が一番なので、
安全なものを選び抜いています。』



だ、そうで、ある。
だいぶ、大きなものなのだろう。
色は、真っ白、らしい。



へー、って、なもんである。



ここで、ウエイター氏が、麺の前に、もう一品いかがですか?
と、聞いてきた。
(そうであろう。電話だけでメニューを決めさせるのは、
無理があろう。)


そこで、「生ホタテ貝と貝柱のとろとろ玉子」
と、いうのを、もらってみる。





生ホタテ貝と、貝柱、というのは、なんであろうか。
生ホタテは、わかるのだが、貝柱と、どう違うのか。


食べてみる。
なるほど、わかった。貝柱は、乾燥もののことだ。
ダシ、で、あろう。しかし、その戻したものも、入っている。
そして、それに、生のホタテの貝柱も、入っているのである。


最後に、お目当ての、
黒酢入り辛味スープそば」、酸辣湯麺、で、ある。





麺は、ここお得意の手打ち。
(いや、ここの手打ち麺のいくつかあるうちの、
手で伸ばした麺。)


最初に飛び込んでくるのは、やはり、香り。
花椒、の痺れる香り、で、ある。


入っているのは、やはり細く切った、豆腐や椎茸。
ラー油も入り、比較的強い辛味に、酸味。


鮮烈な、酸辣湯麺、で、あろう。


余人ではない。ここのシェフにすれば、酸辣湯麺など、
オチャノコサイサイ、なのかもしれない。



うまかった、うまかった。
腹も一杯。




やはり、馥香、たいしたもの、で、ある。




帰りは、二人で歩いて帰宅。






馥香