浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



三筋・天ぷら・みやこし その1

4502号

2月10日(土)夜

さて、土曜日。

今日は、三筋の天ぷら[みやこし]。

内儀(かみ)さんが予約をしていた。

6時から。

ぶらぶら歩いて向かう。

三筋というのは、みすじと読むが、一般には
聞き慣れぬ町名かもしれぬ。

由来は、江戸までさかのぼる。

現代の地図。

江戸の地図。

この界隈、現代も続いているがお寺の多い寺町で
残りはほぼ武家屋敷。町家は限られたところだけ。

交番のある現小島町交差点を書き入れたが、江戸の頃は、
春日通りはまだなく、現左衛門橋通りもT字路になっていた。

赤い長方形のラインを入れたがここが江戸期の三筋。
この範囲に南北に三本の筋があるので、三筋と呼ばれた。
大御番組、御書院番組の幕府下級家臣の組屋敷があった区域。
今の、三筋一丁目と二丁目南側。

町名というのは、住居区画の町人の住む“町”のみで
ここは武家屋敷地なので正式な町名はなかった。
ただ、それでは不便であったのであろう、武家屋敷でも
通称の地名のようなものがあり、それが三筋であった。

元浅草七軒町の拙亭を出て、春日通りを渡って5~6分で到着。

入って、名乗り、カウンター、親方の前へ。

ビールをもらい、いつも通り天婦羅定食の特、
7,700円也を頼む。
ここだと、コースというのが天ぷらに刺身が付き、
天婦羅定食は天ぷらのみ。

お通し。

もずく酢。

細いもの。
やっぱりもずくは、細いものがよい。
下関のものという。
細いのは、天然、であろうか。

今日は、カウンターはほぼ満席。
なかなかのにぎわい。

型通り、海老、から。

最初は塩で。

海老は、小さめの車海老に決まっている。
さいまき海老、などともいう。
小さいのを使うのは、うまい、というのも
あると思うが、伝統、で、あろう。

車海老は、芝の浜や隅田川の河口、今の新川あたりの
砂浜でも獲れた、という。まあ、そんなところなので
そう大きなものではなかったのではなかろうか。
江戸前の魚介を使う江戸前天ぷらの、その頃からの
伝統かもしれぬ。

頭だけ。

これも、もちろん塩。
カリカリと、うまい。

二本めは、天つゆで。

尾っぽがぴんと立ち、しっかりと堅い、
カラッと揚がった、衣。
プロの技である。
自分で揚げたら、とてもこんな風には揚がらない。
なにが違うのであろうか。

次も、いつも決まっている。

どうなのであろうか。
他の東京の江戸前天ぷらやでも同じではなかろうか。

いか。
もちろん、すみいか。

どこのものかは聞いていないが、この時期である
だいぶ大きなもののよう。
ただ、歯を入れると、柔らか。
これがすみいか。

全国的には紋甲いかだが、東京では墨を付けたまま
流通するので、すみいか、と、言う。
江戸前時代からの伝統、なのであろう。
今も東京湾にいて、レジャーで釣る人もあるようだが、
市場には流通してはいないと思われる。

次は、きす。

これも、むろんのこと、カリっと堅い衣で
揚がっている。
プロの技。

きすという魚も最近大幅に漁獲量が減っているのを
ご存知であろうか。吉池などにも滅多に並ばない。
また、きす同様、江戸前天ぷらの大定番、めごちも
やはり見ないので、同様なのではなかろうか。

15年、20年前であれば、東京湾でもガンガン釣れた。
海釣りなどほぼやったことがない私も木更津あたりで
あったか、防波堤から釣った記憶があるほど。
安かったはずである。

獲れなくなっている原因は分かっているのであろうか。

うなぎなどもそうだが、江戸食文化の重要な料理である
うなぎ蒲焼、江戸前天ぷらの主要な魚は食文化保護の
観点から、絶対に絶やしてはいけない天然資源と
いってよろしかろう。
穴子も然り。
どこか獲れている海外から似た魚を輸入すればよい
という問題ではない。
漁獲資源の保護は文化の問題でもあることを指摘せねば
ならなかろう。天然資源と文化、二つ同時のSDGs
水産資源は水産庁農水省、文化保護は文化庁文科省
またがった課題か。日本人はこのことにもっと深刻に
なるべきと考える。


つづく


みやこし

台東区三筋2-5-10 宮腰ビル1F
03-3864-7374

 

 

 

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