浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



箱根塔之澤・福住楼 その3 強羅・蕎麦・喜楽荘

dancyotei2012-12-26

12月23日(日)

さて。

一夜明けて、朝。

福住楼の川側の部屋は、目の下に早川の急流が
あって、低い、ゴォーーーー、という音が
常にしている。

ここへくるようになった当初、耳に障ってなかなか寝られない、
というようなこともあったのだが、今では慣れてしまい、
なんら問題ない。

気分よく起きて、朝飯。

だいたいにおいて、日本人の旅行は一泊のみ。

朝飯を食べて慌ただしく出ていく。
これはやはり、もったいない。

ぐずぐず、寝ているのはさすがに、宿に迷惑、
で、あるが、ゆっくり食べて、風呂に入って、
またごろ寝、なんというのができたらしたいもの。

朝飯。



なんといっても、湯豆腐。

さすがに夏には出ないが、一泊目の朝は
毎年この時期には、湯豆腐が出る。

これは、うれしい。

鯵の開き、しらす、いか塩辛、わさび漬け、蒲鉾、
玉子焼き、きゃらぶき、お新香、焼海苔、味噌汁。

あたり前だが、温かいものは、温かく。

珍しいものがあるわけではいが、どれも、うまい。

食べ終わり、風呂。

あがって、予定通り、年賀状書き。

昼間の日本旅館というのは、
ほとんどの人が、立っているので、
実に、静かでよい。

数寄屋造りの部屋や建物を独占しているというのか。
この時間が、堪らない贅沢、で、ある。

これだけでも福住楼へくる甲斐がある、と、いうもの。

二時頃、昼飯に出る。

箱根での昼飯といえば、洋食、鮨、そして、蕎麦。
こんなところが候補なのだが、軽いものがよい、
という内儀(かみ)さんの希望。

じゃあ、蕎麦か。

しかし、箱根というところ、蕎麦やというのは、
意外に、多い。

なんとなく“わかる”気がする。

蕎麦や、と、いっても、いうところの
※『趣味そば』系?。

昨年の5月に湯本の滝通りから上がっていった[暁庵]
へいったりしている。

趣味そばに対して、老舗系といえば、湯本の[はつ花]
(ここは確か池波レシピでもあったか。)

先日の、テレビ東京『アド街ック天国』の強羅の回

で出てきていた[喜楽荘]というところ。

話の種にいってみようか。

塔ノ沢から、大平台、宮ノ下。宮ノ下からは
一号線から分かれて、真っ直ぐ。
山道を登って、強羅。

すいていれば、15分程度であろうが、
ご存知の通り、逃げ道のない一本道で、
渋滞もあり、30分ほど。

場所は、強羅駅のすぐ下。

駐車場もあり、また、待っている人のための、
小さな小屋、まである。

名前を書いて、待つ。

3時すぎており、品切れになるところであったが、
間一髪、間に合った。

車できているので、酒もなし。

辛み大根のしぼり汁に、味噌を溶いたつゆで食べる、
看板の、おしぼりせいろ、というのを、もらってみた。



こういう食べ方がよくあるものなのか私は知らないが、
初めてかもしれない。なかなか、うまいもんである。

が、いつものことだが、考えてしまった。

まあ、考えたことを素直に書くこともないのだが、
正直にいうと、これは私の知っている蕎麦ではない。

別物として、うまい、ということ。

私の知っている蕎麦とは、
東京下町の濃いつゆでたぐる、もの。
そして、毎度書いている、独特のお客を迎える、
あるいは注文を通す、お姐さんの声だったり、
老舗然とした店の雰囲気だったり、蕎麦だけではない、
その他いろいろ合わせて、蕎麦や、というものになる。
それがよくて、好き、なのである。

これはどちらが正しくて、どちらが間違っている、
という筋のものではなかろう。

むろん、好みの問題だし、両方あってなんら問題は
なかろうと、私は思う。

しかし、どちらかを好きな人は、どちらかを認めない、
という風潮があるのもまた、事実。

老舗vs趣味そば、なのか。

田舎に引っこんで、理想のそば粉を求め日本中を行脚し、
出来上がったものを、一日限定数名の人に食べさせる。
グルメマスコミもこういうところをもてはやす。
やりたい人がいて、それをわざわざ食べに行きたい人がいて、
需給が成り立っているのだから、脇からとやかくいうべき筋のもの
ではない。

ただ、なぜだか、他を認めないという、
まるで新興宗教の教祖と信者の関係?、
これは喰わしてやっているという態度につながるのだが、
こういう空気は勘弁していただきたい、と、思うのではある。
(まあ、基本そんなところへは私は行かないのだから、
関係ないか。)

ここ[喜楽荘]のご主人は、求める蕎麦に一所懸命だが、
至って腰の低い方で、そういった例には含まれない。

明日に続く。

※『趣味そば』
趣味そば、というのはそもそもは私が作った言葉ではないが、
藪だとか、砂場だとか東京の老舗そばやに対して
“こだわり”を看板に、自らそば打ち修行をして、
あるいはそば以外の料理人が修行し、開業している
そばやのことを私は呼んでいる。

10年程度前からであろうか、新和風というのか、
小洒落た内装のそばやが東京でもたくさん開店し、
ある種ブームのような感じになった。
皆さんもなん軒か入った経験をお持ちであろう。

むろん、よい店もたくさんあるが、なぁ〜んとなく、
私には馴染めないところが多い。


以前『趣味そば』について書いたもの。

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