浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



断腸亭落語案内 その58 春風亭柳好 野ざらし

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引き続き、三代目春風亭柳好師「野ざらし」。


清「いずこの方か知れないが、野へさらされて浮かばれまいと、
  そこであたしが回向をしてやったねー。」
八「えーこう、詰まらねえことやりゃあがったなー。」
清「いや、手向(たむ)けをしたんだよ。」
八「あー、狸がどうした。?」
清「なぜそう話しがわからないんだよ。
  野を肥やす 骨に形見の隅田川
  盛者必滅(じょうしゃひつめつ)、会者定離(えしゃじょうり)
  南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)、南無阿弥陀仏(なむむだぶつ)と
  腰に残った瓢(ふくべ)の酒、骨い(へ)掛けると気のせいか、
  骨がぽーっと赤くなったので、あー、よい功徳をしたと、
  家ぃ帰って、寝酒を呑んで、横になった真夜中。
  目が覚めたが、どーしても寝ることができない。
  
  するとねー。
  どこで打ち出す鐘か知れないが、陰に、」
八「おっと!。
  ちょっと待ってください、ちょいと。
  それ、こもったんでしょ。」
清「そうだよ。」
八「陰に、ってぇと、きっとこもらせてやがる。
  もう、こもる時分だと思ってたんだ。
  こもりそこなちゃっただろー。
  ざまー見やがれ。」
清「なーにぉ、下らねえこといって。」
八「ぼーん、ときましたか。」
清「うん。」
八「上野の鐘は、銀が入ってるから音がいいや。
  コ~~~ン。
  芝の鐘は海へしぶくから、さわりがつくね~、
  グワン、ワン、ワン、ワ~~~ン~~~~。
  大きな寺の鐘、割れたような音がすらぁ、
  ゴ~ワン、ゴ~ワン、ゴ~~~~~ワン。」
清「うるさいよ!。」
八「半鐘の鐘が、ジャンジャン~~~~
  鉄道馬車の鐘がカンカンカンカァン~~~~
  
  (唄)
  え~、ただぁ~~~~~~~~~~
  鐘がカーン、カーン、ポーン、ポーン、
  叩いて仏になるならば、時計やのまわりはあらかた仏にぃ
  なる~~~~~~~だろぅ~~~~~。
  ってな知ってるかぃ!。」
清「そ~んなこと知りゃぁしないよ。」
八「なんです?」
清「手前、向島からまいりました。
  結構な句をいただいて、浮かぶことができました。
  ご恩返しと。
  あたしの肩をもんでいたのは、ハっつあん、夕べのはこれだぁ~。」
  (両手を前に出して幽霊の恰好。)
八「幽ですかぁ~?」
清「なに~?」
八「テキかい?」
清「なにが?。」
八「幽テキかい?。」
清「ものを切れ切れにいう奴があるかー。」
八「きれいなテキですね~。
  あんななら、怖くないんです~。
  じゃー、向島行って、功徳しますかぁ~。
  なーんだ。あんな、女くるんなら早く知らしてくれりゃいいのに
  一人で、功徳してらぁ~。こすいよ~。ひっかくぞ~。」
清「なにをひっかくんだよ~。」
八「お安い御用だ。この釣り竿、、。」
清「こらこら。
  そう、つない(ぎ)竿、ガラガラやって。」
八「ケチケチすんなぃ。借りてくよ!。」

ってんで、釣り竿肩に、酒ゃへ行って、いくらかの酒を腰ぃぶる下げて
来てみると、土手下へ、こう、ず~っと釣り師が出ておりますんで。

八「いるね。
  今年ぁ、こりゃ、年寄が色気付きゃがったぃ。
  随分早くから、こりゃぁ、功徳に来てんね。
  驚いたな。油断も隙もできねえ。

  こんちはー!。
  んちは~!。

  なんだいそこは?
  新造かぁ~?、年増かぁ~?なんだ?。

  は~?へ~?、は、は、はぁ~~?」

  (土手の上と下のやり取りになる。下の釣り師は竿を構える。
   複数の演出。)
A「なんです?あれ。」
  (上を見上げて、隣を見る。)
B「え?」
A「あれ。」
B「なんです、あれ。」
A「わかりませんよー!。」

八「ごめんよ~~!あいだ行くよぉ~!
  (土手を降りてくる。)
  (唄)
  ちゃちゃ~ん、ちゃかちゃ、ちゃらちゃ。
  
  ちゃちゃちゃ、ちゃぁんちゃ、ちゃちゃちゃ、ちゃぁんちゃ、

  どいつ(て)くれ、どいつくれ、どいつくれ~!。
  後からきて先ぃ釣っちゃうんだ。驚くなぁ~!。

  (八五郎、唄、とともに、竿を回しながら巻き付いた糸を
   外す仕草。)
  あたしゃぁ、年増がぁ、えぇえ、いんですぅ~、う~~~
  よ~~~~へぇ~へぇ~へぇ~~~~。」
A「たいへんな人がきちゃったぃ。
  釣りをしてんだか、湯へ入(へぇ)ってるんだかわかんねー。
  (八五郎、糸を川へ投げる仕草。)
八「え、っこしょ(どっこいしょ)っつくらぁ~。

  あ~~う~~、、、、」
A「唸ってるよ、おい。

  えさぁ付けないよ、あの人。

  あーた、どーでもいいですけど、えさーついてないですが。」
八「大きな、お世話だ。
  こうやっつぅ(て)るうちに、鐘がボンっつくらぁ~

  (唄、サイサイ節の節)
  鐘が ボンと鳴ぁ~ぁりゃ 上げ潮ぉ南さぁ~ぇ
  烏が ぱっと出ぇ~て こりゃさのさ えぇ~
  骨があ~~る さ~いさい

  ちゃちゃかちゃぁ~ん」
A「弱ったなぁ~!
  上げっ端でそんなにやって、、」
八「なにぉ?
  魚がどっか行っちまう?
  べらんめい、魚に耳?、耳がある?
  ほ~、見すつ(せて)くれ。
  初耳だ。魚の耳を見せろぃ!。

  (再び唄、サイサイ節)
  そのまた骨にとさぁ~ 酒をば掛けりゃさ~
  烏がパッと出ぇ~て こりゃさのさぁ~
  骨が べべぇ~着て こりゃさのさ えぇ~
  礼にくぅるさ~いさい
  
  ちゃ、ちゃか、ちゃん、ちゃん
  (構えた竿を上下し、前の水面をバシャバシャ叩く仕草。)
A「そー、かき回っしちゃちゃ。」
八「かき回しちゃ、、?
  かき回すってなぁ、こうやるんだ。」
  (竿を逆手に持って、文字通りぐるぐるとかき回す。)

つづく

 

 

断腸亭落語案内 その57 春風亭柳好 野ざらし

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落語案内。
回を重ねて、57回目。

円生、志ん生文楽に加えて、金馬まで書いてきた。

基本、音がある、今でも比較的簡単に聞くことができる
ものを挙げてきた。
やはり、音が多いのである。
昭和というのは、落語のやはり黄金期といってよかった。
この四人以外も含めて、数多くの人のレコード、カセットが
作られ、買う人がたくさんいたということである。
これに加えて、寄席のラジオ、その後のTV収録、中継。
スタジオ録音も多かった。
私の子供の頃でも、毎日どこかの局で落語の番組はあった。

そんなことで、豊富にある昭和の落語コンテンツ。

円生、志ん生、金馬に加えて聞いてほしい、知ってほしい
落語家、噺をもう少し、挙げてみよう。

三代目春風亭柳好
もちろん「野ざらし」。
全編、謳い上げる名調子。

5分ほど、釣りのことなど、枕をふって噺に入る。

(ドンドンと戸を叩く仕草。)
八「お、お、お、おはよ、隠居、隠居ぉ!
 (戸が開くいて、叩いていた手で開けた人の頭を叩く、仕草。)
清「痛いな。」
八「痛いなじゃねーや、
  人がドンドン叩いて。」
清「今開けるから。」
八「待て、っていえば待つよ。
  こうやっているところに、戸がスーッときたから、
  バーン、って。
  どうも戸にしちゃ柔らけえと思ったよ。」
清「あたり前だ。
  戸と一緒にする奴ぁあるか。
  なんだい?。」
八「なんだい、じゃねーや。
  人は見かけによるぞ。」
清「なにを言ってるんだ。人は見かけによらない。」
八「よるよ。
  あっしゃぁ、仕事から帰ってきて、横んなって、二時頃
  目が覚めると、お前さんとこでお女の声。
  はーて、隣は隠居でね、女っ気はねーんだが。
  こーなると、寝てらいねーね。
  商売道具の、あっしゃぁ、鑿(のみ)を取り出して、
  壁ぇ、穴ぁ開けて、、」
清「お前か、あれ。」
八「お前かじゃなよ。
  文金(ぶんきん)の高島田(たかしまだ)。
  (女性のゴージャスな髪型)
  年の頃、十六、八ですか。」
清「なにを?。」
八「十六、八かい。」
清「妙な数取りだね。
  なぜ、十七、八と言わない?。
  十六、八だって。
  七が抜けてら。」
八「あー、俺ぁ、七(質)はこないだ流したぁ。」
清「なーにょ。」
八「どうだい。
  隣にゃぁ、一人もんが鎮社ましましてるんだ。
  お手柔らかに願いてぇーや。」
清「おや。
  お前さん、夕べのあれ、ご覧かい?。」
八「ご覧かじぇねーや。
  ご覧すぎちゃってぇい。」
清「ご覧ならお話するが、あの話しんなると、ちょっと怪談じみた
  話しになるがなぁ。」
八「怪談抜き。
  あっしゃぁ、臆病でねー。
  自分とこの手水場(ちょうずば、便所)だって、夜中一人で行ったこと
  ねーすから。怪談抜き。」
清「抜き、てぇーが、話しの順だから聞いといで。
  
  お前も知っての通り、私ゃ釣りが好きだ。」
八「へえ。」
清「昨日今日と、向島の三囲(みめぐり、神社)あたりで
  やっていたが、どうも食いがわるいんで、段々引かされて
  鐘ヶ淵あたりまでいったがなぁ。どこ行っても食わない時は
  食わない。むろん釣れやしない。
  こういう時は、早仕舞いがよかろう、てんで、釣り竿糸を
  巻き付けていると、
  隅田多聞寺(すだたもんじ)で打ち出(い)だす、入相(いりあい、暮れ)の
  鐘が、陰にこもってものすごく、ぼーーーーーん、と、まあ、
  鳴ったねぇ。」
八「へぇ。(弱弱しく)
  鳴りまして。」
清「うん。

  四方の山々雪解け掛けて、水嵩(みずかさ)まさる大川の、
  上げ潮南で、ざぶーりざぶりと、岸部ぇ洗う水の音も
  ものすごい。」

八「へえ。」
清「風がくると、
  枯れ葦が、す~~~っと。

  そっから~、
  (手を一つ叩く。)
  パッと出た。」

  こら、こら、こら。
  どこ行くんだ、どこ行くんだ。
  (バタバタと動く仕草。)
  どこ行くんだよ。
  打っちゃっておけないよ。
  あたしの紙入れ、懐に入れやがって。」
八「めっかったか。」
清「なーにが、めっかったかだい。」
八「怖くなると、なんか懐へ入れたくなる。
  悔しいけど返そう。」
  (懐から出し、返す仕草。)
清「なーにが悔しいからだよ。」
八「なにが出たんです?」
清「くだらないもんだ、烏だ。」
八「なーにを言ってやんで。
  烏なら烏と、お手軽に言ったらどうだい。
  なにが飛び出すの、ってから、肝っ玉、上がったり下がったり
  してら。
  その烏がどうした?」
清「どうこうもない。
  ねぐらへ帰る烏にしては、ちと頃合いもおかしいと、
  なんの気もなく、あたしが、こう、葦を分けていくと、
  そこに一つの、髑髏(どくろ)があった。」
八「はー、唐傘(からかさ)の壊れたの?」
清「それはろくろだよ。」
  (ろくろは、和傘の骨の付け根部分。)
  屍(しかばね)だよ。」
八「あー、赤羽かー。」
清「人骨、野ざらし、だよー。」
八「あー、そーですかぁ!?
  ジンコツ、ノザラシーーー?、、、てな、なんだー?」
清「なーにを言ってんだよ。
  骸骨だよ。」
八「あー、ゲーコツか。」
清「ゲーコツてぇのはない。

つづく

 

 

断腸亭落語案内 その56 三遊亭金馬 居酒屋

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引き続き、三代目三遊亭金馬師「居酒屋」。

伝わったであったろうか。
これも、ほぼ金馬師の話術で成立している噺。

「できますものは、つゆはしらたらこぶあんこうのようなもの
ぶりにおいもにすだこでございます。
へェい~~~~。」

この噺は小僧のこの口上の台詞に尽きるだろう。

この口上、なんのことか。書いてみる。

つゆはおつゆでよいのだろう。ただ、なんのつゆだかはわからない。
はしらははっきりしないが柱。江戸前のすし種や天ぷらのかき揚げに
使う小柱、バカガイの貝柱のことではなかろうか。
後は簡単。たらは、魚の鱈でよろしかろう。こぶは昆布。あんこう
鮟鱇。ぶりも魚の鰤。おいもも、お芋。以前なのでおそおらく里芋。
すだこも、酢蛸。あまり説明されたのを、聞いたことも
読んだこともないので、あくまで私の考えであるが。

森田芳光監督の劇場映画デビュー作「の・ようなもの」は
もちろん、この噺のここが原典。
森田監督は日大芸術学部落研出身。

下げもなく、ストーリーらしいストーリー、ドラマらしいドラマも
なく、酔っ払いの客が居酒屋の小僧をからかうだけ。

ただ、落語家が寄席で短時間で高座を降りる場合の漫談とも違う。
存在感はちゃんとある。

「居酒屋」は元々は「ずっこけ」という噺の冒頭部分という。
「ずっこけ」そのものは古く江戸期からある噺のよう。
(「落語の鑑賞201」末信真治編)。

速記「口演速記明治大正落語集成」(講談社)も入っている。
明治24年(1891年)、三代目三遊亭円遊のもの。
http://www.dancyotei.com/2019/apr/encyou18.html

文楽師「つるつる」も明治の速記は円遊師のものであった。)
ただ、円遊師の「ずっこけ」には「居酒屋」のような小僧との
やりとりは存在しない。金馬師の「居酒屋」は別系統かあるいは
後の作であろう。

「ずっこけ」は、談志家元が演っていたのを私は聞いたことが
あるが、まあ、他の演者からはほぼ演じられない噺であろう。
(雲助師がたまに演られるという情報もあるよう。
(「落語の鑑賞201」末信真治編))

ストーリーはこの客の酔っ払いを心配して探しにきた友達が家に
送り届けるという、まあ、どちらにしてもたいしたドラマは
おこらない酔っ払いの生態を描く噺。
“ずっこけ”るという言葉は元々は樽の箍(たが)が緩んで
ばらばらになることを言う。この酔っ払いの帯が緩んで着物が
はだけている状態を“ずっこけ”と言っているのである。

「ずっこけ」はほぼ演る人はいないが、金馬師版の「居酒屋」
となると演る人は多いだろう。
志らく師も演り、DVDもある。
かの立川藤志楼師こと放送作家高田文夫氏はCDもある。
この影響は大きいかもしれぬ。

ただ、やはり、爆笑系というのは、センスがなければ、
金馬師の真似をするだけではまったくおもしろいものには
ならないであろう。
私などもそうだが、金馬師のものを聞くとかなり傑作なので、
演ってみたくなって覚えようとしたこともあった。
今も「つゆはしらたらこぶ・・・」は暗唱できる。
だがまあ、己のセンスでは無理であることはすぐにわかった。
ある種、爆笑を産めるセンスは才能なのであろう。

三代目三遊亭金馬師、前にも書いたがやはり不世出の落語家で
あった。笑いのセンスとキャラクター。
センスだけではないところが、この人の不世出たるところ。

もちろん、爆笑のセンスだけであれば、今も多くはないがいる。
キャラクターはそれぞれ持って生まれたものにそれぞれが
磨いて作っていくものであろう。
まったく同じような落語家は生まれなかろうが、爆笑のセンスは
受け継がれていくのであろう。(志らく師は実はこの系統と
いってもよいものを持っているといってよろしかろう。)

三代目、金馬師。
他にも傑作は多い。

もう少し挙げてみよう。
これ、忘れてはいけないだろう「道灌」。

「道灌」というのは、太田道灌のことなのだが、その噺。

落語では、前座噺とされ、それも入門して最初に演るものと
決まっている。
前座噺であるため、真打などは基本、演らない。
それで音として存在しているものはかなり少ないのである。
だが、なぜかわからぬが、金馬師の音は残っている。
私も「道灌」は憶えたがこの金馬師の音で覚えた。
前座やら初心者は、クセのない人のもので覚えるのがよい。
いや、これはマストである。いくら聞いておもしろいと思っても
個性の強い人では覚えてはいけないと、志らく師にも教えられた。

金馬師というのは、書いている通り真似のできない個性があるのだが、
この「道灌」はかなりノーマルに演っているのである。
言葉もとてもはっきりしている。

プロでも今もこの金馬師の音で覚える人は多いのではなかろうか。
喬太郎師は音があるのだが、金馬師のもので覚えたように
聞こえる。
もし落語を覚えて演ってみたいという方がおられたら、金馬師の
「道灌」から始めていただくのをお勧めする。

さて、三代目三遊亭金馬師。
これ以外で挙げるとすると「雑排」などもわかりやすくて
よいと思うが、もう一席「金明竹」である。

これは、まだ私が志らく師の教えを受ける前に、無謀にも
金馬師の音を自己流で憶えて演ったことがある。
やっぱり金馬師の爆笑噺、演ってみたくなるのである。

金明竹」は骨董屋が舞台。「火炎太鼓」の道具やよりももう少し
高級そうな店。
登場人物は店の主人とお内儀(かみ)さん、その店の小僧で甥っ子の
与太郎。前半部分も爆笑なのだが、後半部分。
主人が出掛けた間に早口の関西弁の使いの男が現れ与太郎が対応する。
これが骨董の言い立てで、ほぼなにを言っているのかわからない。
これを与太郎がおもしろがって、なん度も言わせ、お内儀さんも出てくるが
やはり、まるっきりわからない。男は言い残して、帰ってしまう。
主人が帰ってきて、うろ覚えの滅茶苦茶の内容を伝えるという、
落語お決まりのおうむ返しで終わる。これが爆笑噺なのである。

「わてなぁ、中橋の加賀屋佐吉方から参じました。へい。
先途、仲買の弥一が取り次ぎました道具七品の内、祐乗、光乗、
宗乗三作の三所もん、、、」関西弁で骨董の専門用語が延々と続く。
これを繰り返す。

噺の構成そのものがかなりおもしろく、金馬師でなくとも、
誰が演ってもある程度笑いにはなる噺であろうとは思われる。
だがもちろん簡単ではない。

三代目三遊亭金馬師、こんなところでよろしかろうか。
とにもかくにも、昭和の落語家として、円生、志ん生文楽
加えて、独自の存在感を持ち、決して忘れてはいけない人である。

 

つづく

 

 

断腸亭落語案内 その55 三遊亭金馬 居酒屋

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引き続き、三代目金馬師「居酒屋」。

~~~~~

小「いの字は打てないんです~。」
客「そんなこと言わないで打ってくれよ~。
  試しに打ってみろよ~。」
小「打てませんよ~。」
客「じゃ、その次のろの字は?。」
小「ろへ打ちますと、、

  〇▽※~~~。」

客「ゴロゴロ~~つったな。」
小「ろは打てません。」
客「じゃ、ま、は?」
小「えー?
  ・・・、、。
  まは打てないんです。」
客「じゃ、ぬ、だ。」
小「※×▽・・・。」

  あんた、打てないの選(よ)ってるんですよ~。」
客「あ、は、は、は、はー。
  ざま~~みろ。
  なんでも打てますったろ。
  打てねえもんがあんだろ?!。
  一生懸命無理に打とうとツラぁ伸ばして、こんな顔しやがって。
  は、は、は、は。
  バナの頭へ汗かいてやがんな~。」
小「なんです?、そのバナって?。」
客「お前(めえ)の顔の真ん中のこんもり高いもん、なんだ?。」
小「こりゃ、鼻でございます。」
客「濁りが打ってあんじゃないか。」
小「こりゃ、ほくろですよー、あんた。」
客「あ、は、は、はー。
  ほくろかー。
  うまく二つあるなー。
  俺ぁ、濁り打ったのかと思ったー。」
小「顔へ濁り打つ人ありませんよー。」
客「そーだろー。んなら横っちょにあるのはぼっぺただな?!。
  上にあんのは、びたいだ。
  お前(めえ)なぁ、顔じぇねーや、がおだ。そりゃ。
  濁りだらけだ。
  おもしろい、がおだなー。

  元方(もとかた)現金に付き貸し売りお断り申し候、と
  きたなー。
  これ一人前持ってこい。」
小「そーーんなもんできませんよー。」
客「俺の喰いてえもの、みーんなできねえんだなー。
  不自由な家飛び込んじゃったよ!。
  酒の替わりだよ。」
小「ご酒替わり、いちぃ~~~~~~~~~~。
客「おい。ちょいとここへ来い。
  帯ほどいて、裸んなって見せろ。
  どっか、パンクしてるぞ。
  へそがよく閉まってねーんじゃねーかなー。
  空気が漏るよ、お前。
  プシュ~~~~って、いうじゃねーか。

  さっきの肴も一遍やってくれ。
  ゴチョ、ゴチョ、ゴチョ、ピ~~~~~っての。
  あれ、なん度聞いてもおもしろいからよ。」
小「突き当りの棚にも肴が並んでますから、ご覧なすって下さい。」
客「どこだい?。」
小「あすこの棚に。」
客「あすこ?
  あんなとこまで行くのめんどくせえじゃねーか。
  
  じゃー。あの棚、ここへ持ってこい。」
小「持ってこられやしませんよ。そんなもん。
  そっから、ご覧なすって下さい。」
客「おい!。右上の真っ赤になって、ぶる下がってるのはなんだ?。」
小「どれです?」
客「右の隅っこに赤ぁーくなってぶる下がってるの。」
小「ありゃ、たこです。」
客「あのたこ生きてんのか?。」
小「いやー、生きてやしませんよ。」
客「死んじゃったのか。」
小「さよでございます。」
客「んー。気の毒な事したなー。
  ちっとも知らなかった。
  いつ死んだよ。」
小「わかりませんよー!。
  たこの死んだんなんて。」
客「はがきの一本でもくれれば、お通夜に行ってやったのに。
  とんだことしちゃったなー。
  老少不定(ろうしょうふじょう、老人でも子供でも誰が死ぬか
  まったくわからないこと)であきらめるんだなー。
  真っ赤だなー。」
小「う(茹)でたんです。」
客「うでると、あーいう風に赤くなんのか?。」
小「海老でも蟹でもたこでも蝦蛄でも赤いものは、なんでも
  うでたんです。」
客「赤い物は、なんでも?。
  猿のケツはうでたのか?。」
小「あんなもの、うでる人ありませんよ。」
客「赤い物はなんでも、って言うから聞きてえんだよ。
  電車の停留所の柱、誰がうでたんだ?。
小「あんなもの茹でられるものですか。」
客「足はなん本だ?。」
小「八本あります。」
客「偉いな~。
  流石ぁ、商売人だ。
  勘定しないで、すぐに八本ありますって、偉い!。
  え(い)ぼはいくつだ?。」
小「えぼなんかわかりませんよ。」
客「なぜ、勘定しとかねーんだ。
  そろばんで弾きゃぁわかるだろう。
  たこに、えぼ足して、十、とかなんとかよ。
  たこは、なんにすんだ?。」
小「酢にいたします。
  酢蛸でございます。
  桜煮もございます。
  持ってまいりますか。?」
客「いらないよ。
  聞いた、だけだよ!。
  気が早ぇなぁー。
  俺ぁ寒気がしてきたよー。そんなら。
  酔えやしねーよー。

  あの隣に、こんな大きな口の赤い肌の魚、ぶる下がってるの
  なんだ?。」
小「どれです?。」
客「あの隣によ。だらしがねーのよ。」
小「あー、あんこうです。」
客「あんこうー?。
  なんにすんだ?。」
小「鍋にします。あんこう鍋。」
客「あは、は。
  あの隣に、印半纏(しるしばんてん)着て、鉢巻きして、
  出刃包丁持って、こう、考(かんげ)えてるのなんだ?。」
小「あれぁ、うちの番頭でございます。」
客「あれ、一人前持ってこい。
  バンコウ鍋ってこしらえてくれよ。」

居酒屋というお噺でございました。

~~~~~
これでお仕舞。 

 

つづく

 

 

断腸亭落語案内 その54 三遊亭金馬 居酒屋

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引き続き、三代目金馬師「居酒屋」。

~~~~~
  (ぐいっと呑む。)
  なんだこの酒、酸っぺぇなぁ。
  相手が居酒屋だぁ。飛び切り上等の酒ぁありっこねえと覚悟はしてた
  けど、今まで、甘口だの辛口だの、随分呑んだがなぁ。
  酸(す)ぱ口ってなぁ初めてだ。
  これ一口っかねぇのか?じゃ、しゃねーよ、我慢するよ。

  替(か)わり持っといで。
小「ご酒(ごしゅ)替わり、一(いち)ぃぇぃ~~~~~。
  
  お肴なんにします?」
客「誰が肴食うって言った!。」
小「へ、へ。
  いらないんすか?。」
客「いらねえ、って言やぁしねえじゃねーか。
  ガツガツするなよ。
  落ち着かせてくれよー。
  
  酒ぇ呑んでる前に棒立ちん突っ立ってやがんの。
  お肴なんに、って、
  押し売りされるようだよ。
  指(いび)ぃしゃぶったって一升くらい呑むんだよ。」
小「いらないんすか?」
客「いらねぇ、ってゃしないよ。
  小僧さん、肴持ってきておくれ、ったら、
  その肴はなんにします?、って、そいから聞くんだ。
  わかったか?。
  なにができんだ?。」
小「へい~~~~。
  
  できますものは、つゆはしらたらこぶあんこうのようなもの
  ぶりにおいもにすだこでございます。
  
  へェい~~~~。」
客「おっそろしい、早えな~。
  もうみんなやっちゃったのかい?。
  さーたいへんだ。
  まるっきり、わからねえ。

  一番おしまいの
  ふぃ~~~~~、ってのはわかるんだけどなぁ。
  真ん中ちっともわからねぇ。
  お前(めえ)だけ承知しりゃあいい、ってもんじゃねえ。
  こっちぃわからなきゃしょうがねえじゃねーか。
  もっとゆっくりやってみろ。長ぁ~く伸ばして。
小「できますものは。
客「うん。」
小「つゆはしらたらこぶあんこうのようなもの
客「うん。」
小「ぶりにおいもにすだこでございます。
  へェい~~~~。」
客「その、お仕舞の、ピー、っての取れないかな~。
  それが気になるんで、前がちっともわからねえんだよ。
  ピー、っての抜きでも一遍やれよ。」
小「只今申しましたのは、なんでもできます。
  なんに致しますか?。」
客「今言ったのは、なんでもできんのか?。」
小「さよ(う)でございます。」
客「じゃ、ようなもん、っての一人前持ってきてくれよ。」
小「へ?」
客「ようなもん、っての。」
小「んなもん、できませんよ。」
客「お前(めえ)言ったじゃねえか。」
小「いいえ。」
客「じゃ、も一遍やってみろ。」
小「できますものは、つゆはしらたらこぶあんこうのようなもの

  え、へ、へ、へ、、。」
客「なにが、え、へ、へ、へ、、だよ。
  今頃気が付きゃがって、え、へ、へ、へ、ときやがる。
  その、ようなもん、だよ。」
小「こりゃ、口癖でございます。」
客「あー、口癖かぁ。
  口癖でもいいから、一人前持ってこい。」
小「そーんなもんできませんよー。」
客「口癖は料理にできねえのか?。

  酒の替わりだよ。」
小「ご酒替わりいちぃ~~~~~~~~~~。」
客「いい声だな。
  居酒屋に二年、三年奉公しなけりゃ、そういう破けたような声
  出ねえや。
  今の肴、もう一遍やってくれよ。
  ゴニョゴニョゴニョピー、っての。
  あれやれよ。」
小「あーたの上の小壁に紙ぃ書いて貼ってありますから
  それをご覧なすって下さい。
  そこに書いてあるのはお肴で、なんでもできます。」
客「どこだい?。」
小「あーたの上の小壁。」
客「上の、こかべ、、?。
  
  あー、は、は、書いてある、書いてある。
  書いてあんのは、肴でなんでもできんのか。」
小「さいでございます。」
客「んなら、端(はな)っからこれ見せりゃ、ピーもスーも
  ねーじゃねーか。
  おもしろいもの書いてあるなー。
  まだ食ったことないもの随分あるぞ。

  おい。いちばーん、初めに書いてあるこの口上(くちうえ)ってなんだ
  こら?。」
小「へ?。」
客「口の上って、なあなんだよ?。」
小「へ、へっ。口上です!。」
客「あ、口上かぁ。
  俺ぁ、口の上ってから、鼻かなんかこしらえるのかと思って
  心配(しんぺい)しちゃった。
  じゃ、口上、一人前(いちにんめい)持ってこい。」
小「そんなもん、できませんよー。」
客「お前(めえ)なんでもできますって、いった。」
小「その次からできます。」
客「そんならそう断れよー!。
  次?
  あーこれも食ったことねえや。
  なんだい、ドセウケってのは?。」
小「へ?。」
客「とせうけ、って。」
小「は、とせうけじゃありません。
  泥鰌(どじょう)汁です。」
客「泥鰌汁~?。
  あー、一番最後のおつけのけの字は汁っても読むのか?
  とせうって書いて泥鰌か。」
小「との字に濁りが打ってあるから、ど、です。
  せの字に濁りが打ってぜ、です。」

(どぜう汁である。本当は、どじょうを旧かな使いで書くと、
 どじやう、が正しいのだが、かの駒形「どぜう」が“どぜう”と
 書くようになり、一般にも“どぜう”が定着した。)

客「なんだ濁りって?。」
小「肩へポチポチと点が打ってあります。」
客「あらー、墨こぼしたんだろー。」
小「そーじゃないんですよ。
  点、ですよー。」
客「点って、なんだよー。」
小「いろは四十八文字、点打つとみんな音(おん)が違います。」
客「お前(めえ)学者だなー。
  初めて聞いたよー。
  いろはのいの字に濁り打つと、なんてんだ?。」
小「いの字に濁り打ちますと、、、、

  (いを濁らせて発音しようとする。)

客「おい、食い付きゃしねえかー?。
  歯ぁむき出して向かってくるなよ~。」 

 

つづく

 

 

断腸亭落語案内 その53 三遊亭金馬 居酒屋

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8月になりました。
梅雨もあけて、いきなりの猛暑。
暑中お見舞い申し上げます。
しばらくは、この暑さが続くよう。
皆様、お身体、ご自愛いただきますよう、
お願いいたします。
断腸亭

~~~~~~~~~~~~~~

三代目三遊亭金馬師。

「居酒屋」。
やはり、師の持ちネタとして忘れてはいけなかろう。

酒に関する小噺をいくつか、比較的長めに振って、噺に入る。

縄暖簾。

中は十二、三になります、ひびだらけの小僧さんが一人。
隅に居眠りをしているという。

入口に一匹、犬が寝そべっている、というのがバックです。
飛び込んでくるお客様も決まってます。

盲縞(めくらじま、紺無地のこと)の長半纏かなんか。
濡れっ手ぬぐいを肩にピシッと引っ掛けますと、
拳固で一つ、水っ洟(ぱな)をこじ上げますと
頭で暖簾を分けて入ってきます。

小僧さんをからかいながら呑んでます。
気の置けない者に、からかいながら呑むくらい
酔いが発散することはないそうです。

酔っ払いますと、子供みたいに愚にも付かないことを
真面目(まじ~め)な顔して喋っているところは
酔っ払いのおもしろ味のあるもんでございます。

客「ごめんよ!」
小「へい~~~~。
  宮下へお掛けな(さ)い~~~~~~~。」
客「なんだ?」
小「大神宮様(神棚)の下があいておりますからお宮の下へ
  お掛けない~~~~~~。」
客「どっか破けたような声出すなよ。

(どっか破けたような、と評しているが、この小僧の声がこの噺の肝。
 子供のようではあるが、高く、かなり妙な声なのである。)

  大神宮様の下ぁ?。
  あ~、立派にお宮ぢができてるなぁ~。
  お宮の下で、宮下かぁ。
  は、は。電車の停留所みたいなこといってるなぁ。
  客の座る場所に名前付いてるのか?!。

  おい。酒、持ってきとくれ。」
小「へい~~~~。
  
  お酒は澄んだんですか、濁ったんですか?」
客「おい。
  ヘンな聞き方するんじゃないよぉ。
  不敬だねぇ。
  お前(おめえ)客の柄(ガラ)ぁ見るねぇ。
  頭の先から、足の先まで見下ろしゃがって、
  澄んだんですか、濁ったぁ?
  濁った酒なんか呑めるかよ。澄んだ、んだよ。」
小「へい~~~~。
  上一升ぉ~~~~~。」
客「おい、ちょいと待てよぉ。おい。
  一合でいいんだよ。」
小「え、へ、へ。
  景気でございます。」
客「あ、景気か。
  俺ぁ、びっくりしちゃったよ。
  おどかすなよー。
  酒の一升は驚かねえけど、懐(ふところ)の一升にゃ
  驚くからだよ~。
  景気と聞いたんで、安心したよ。
  景気ならもっと大きくやれやい。
  上一斗ぉ~~~~~、とかなんとか。」
小「お待ちどう様。」
客「ほいきた。
  
  おい、小僧さん。
  猪口はいけねえんだ。小せぇもんで呑んでると、酔わねえんだよ。
  生酔いになっちゃって、あくびばかり出てくんだよ。
  大きなもん貸してくんねえか。ガブガブって呑んで、酔っ払ったら
  小せぇもんでいいんだがな。
  ぐい呑みってなねぇか。湯呑み?あー、いいとも。湯呑み。
  結構だよ。
  おー、ありがと、ありがと。

  お~~~~~!おう!。
  置いて、どんどんそっち行っちまうなよ。
  一杯(いっぺえ)注いでけよ。」
小「まことにあいすみません。
  混み合いますから、お手酌で願います。」
客「なんだ、はっきり断りゃがったな、おい。
  愛想のねえこと言うもんじゃないよ。
  一晩中、ここについててお酌してくれって、いうんじゃねーやな。
  持ってきたついでだから、一杯だけ酌しろってんだよ。
  (あたり見まわし。)
  混み合います、ったって、誰もいやしねえじゃねーかよー。
  ヘンなこといいなよぉ、おい。

  どうせお酌してもらうんなら、女の子がいいよぉ。
  酒は燗、肴は気取り、酌は髱(たぼ、日本髪の後頭部の部分の髪)って、
  だろう。十七、八の子で。白魚五本並べたような真っ白(ちろ)な
  細ぉい指で、いかが?、てなこと言われると、フラフラっと、
  一杯(いっぺえ)余計に呑むよぉ。

  お前のぉ、、、、、?手かい、、?
  汚ねえ手だなぁ~~。
  ベースボールの手袋みてえな手だな。
  でも、本革だなぁ。縫い目なしときてやがる。
  安くねえぜ、そりゃぁ。
  
  どうでもいいけど、お前(おめえ)の指、親指ばっかかぁ?。
  小指があるのかい?。見せろよ。太さも長さもみんなおんなじ
  じぇねーかよ。バナナ五本並べたような指してやがる。
  肉付きはいいなぁ!。実が一杯(いっぺえ)入(へぇ)って
  やがる。月夜に獲れたんじゃねーな?!。」
小「蟹じゃありませんよぉ。」
客「そう言いたくなるじゃねーか。

  ブルブル震えねーで、しっかり注げよ。
  湯呑みの口ぃ、徳利がカチカチっと当たるのはいやな心持だからな。

  もっとケツ持ちゃげなきゃ出ないよ。もっとケツ持ちゃげてご覧よ。
  
  お前のケツじゃないよ。
  徳利のケツ持ちゃげろってんだよ。そそっかしいなぁ。
  ケツ持ちゃげろったら、自分のケツ一所懸命に持ちゃげて。
  お前のケツ持ちゃげたって酒は出るかい。

  (注ぐ)
  あ~~~、っと。
  は、は、は、は。
  ガミガミ言っても、江戸っ子だ。職人だ。
  腹にはなんにもないんだ。勘弁ししてくれよ。

  昼九(し(ひ)るく)、夜八(よるはち)って、ってねぇ。
  夜は八分目に注ぐもんだよ。心得てるんだよ、そのくらいのことは。
  いいかい。憶えておきな。

断腸亭落語案内 その52 三遊亭金馬 小言念仏

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引き続き、三代目金馬師「小言念仏」。

~~~

 ナァムアミダブ ナァムアミダブ ナァムアミダブ ナァムアミダブ

 鉄瓶の湯ぅ掛けてボロっ布(きれ)で拭くんだよ。
 畳の目形(めなり)に拭くんだよ。
 
 ナァムアミダブ ナァムアミダブ ナァムアミダブ ナァムアミダブ

 なんだってグルグル回ってんだ? そんなとこで。
 なに?
 おつけの実、なに入れましょう?。
 今頃んなって、そんなこと言ってやがんのかな。
 夕べのうち、考えときゃよさそうなもんじゃねーか。
 じれってぇな、張り倒すよ!。
 
 ナァムアミダブ ナァムアミダブ ナァムアミダブ ナァムアミダブ

 芋入れましょう?。
 芋なんか入れたって、急に柔らかになんかなりゃしねーよ。
 胸ばかり焼けて、屁ばかり出るじゃねーか。

 ナァムアミダブ ナァムアミダブ ナァムアミダブ ナァムアミダブ

 表ぇ、泥鰌やが通るから呼べ!。あいつ入れるから。

 ナァムアミダブ ナァムアミダブ ナァムアミダブ ナァムアミダブ

 泥鰌や入れるんじゃねえ!。
 泥鰌、入れるんだよ!。

 ナァムアミダブ ナァムアミダブ ナァムアミダブ ナァムアミダブ

 早く呼ばねえと、泥鰌や行っちまうぞ。

 ナァムアミダブ ナァムアミダブ ナァムアミダブ ナァムアミダブ

 そんな小せえ声じゃ聞こえやしないよ。

 ナァムアミダブ ナァムアミダブ ナァムアミダブ ナァムアミダブ

 もっと大きな声出して呼べ、ってんだ!。

 ナァムアミダブ ナァムアミダブ ナァムアミダブ ナァムアミダブ

 ちっ、泥鰌やが行っちまうってんだよ!。

 ナァムアミダブ ナァムアミダブ ナァムアミダブ ナァムアミダブ

 泥鰌やぁ~~~~~~~~!

 ナァムアミダブ ナァムアミダブ ナァムアミダブ ナァムアミダブ

 泥鰌やぁ~~~~~~~~!

 ナァムアミダブ ナァムアミダブ ナァムアミダブ ナァムアミダブ
 (泥鰌やの方向へ)
 なむあみだ~~~~~~~!

 あべこべんなっちゃうじゃないか。

 ナァムアミダブ ナァムアミダブ ナァムアミダブ ナァムアミダブ

 家だよ、家だよ。
 おつけん中に入れるんだ。細(こま)けえのがいいんだ。柳っ葉、って。
 いくらだい?
 高(たけ)ぇなー。二銭おまけ。

 ナァムアミダブ ナァムアミダブ ナァムアミダブ ナァムアミダブ

 ほ~~ら、まけた。
 惜しいことした。もう一銭値切っときゃよかった。

 ナァムアミダブ ナァムアミダブ ナァムアミダブ ナァムアミダブ

 ざるなんか持ってきたってだめだ。鍋持ってこなきゃ。
 鍋持ってきて、ふたしといて、隙間から酒、注ぎ込んで、
 泥鰌は、うまくなるんだ。

 ナァムアミダブ ナァムアミダブ ナァムアミダブ ナァムアミダブ

 酒、注ぎ込んだら苦しがって暴れてんだろ。
 平気で泳いでる?。
 酒が水っぽいんだよ。

 ふた押さえてて火ぃ掛けろ。
 ギュッと押さえておかねえと、苦しいから暴れだすぞ!。

 ナァムアミダブ ナァムアミダブ ナァムアミダブ ナァムアミダブ

 ゴトゴト言ってる?。
 苦しがってんだ。おもしろいな。

 ナァムアミダブ ナァムアミダブ ナァムアミダブ ナァムアミダブ

 静かんなったぁ?
 ふたぁ開けてみろよ。
 腹ぁ出してみんな死んじゃった?。
 ざまぁ~見やがれ。

 ナァムアミダブ ナァムアミダブ ナァムアミダブ ナァムアミダブ

 なんにもなりません。

 小言念仏というお噺でございました。


これでお仕舞。
下げらしい下げは、まあ、ない。

抱腹絶倒とまでいうのは、言いすぎだが、それでも全編
かなりおかしい。

かなり珍しい噺であろう。
ほぼ小噺。
枕部分は書かなかったが、入れても全体で12分程度。

ただ、それでもこれだけの満足感を与えるのは、金馬師の
凄いところであろう。これもやはり、三代目金馬師以外では
ここまでの名作にはなっていなかろう。

泥鰌やを呼び込むのに「なむあみだ~~~!」と、叫ぶところが
最大の笑い。

この噺、古い速記はないようで、成り立ちは明確にはわからない。
だがやはり、小噺から、明治から大正あたりか、発展したのであろう。

過去、この人以外に演った人はあまり聞かない。
録音もないようである。

圧倒的で有無を言わさぬ、三代目金馬師の説得力があって
成立している噺のように思う。

小三治師が演っている。台詞のアレンジは少ないが、小三治師の
ふわっとしたリズム。私には、もう一つのように思う。
談志家元も、完コピ以外では演っていなかった。

やはり、不世出。三代目金馬師の後には誰もいなかろう。

次は「居酒屋」。

 

つづく