浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)
断腸亭料理日記本店
 

断腸亭落語案内 その54 三遊亭金馬 居酒屋

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引き続き、三代目金馬師「居酒屋」。

~~~~~
  (ぐいっと呑む。)
  なんだこの酒、酸っぺぇなぁ。
  相手が居酒屋だぁ。飛び切り上等の酒ぁありっこねえと覚悟はしてた
  けど、今まで、甘口だの辛口だの、随分呑んだがなぁ。
  酸(す)ぱ口ってなぁ初めてだ。
  これ一口っかねぇのか?じゃ、しゃねーよ、我慢するよ。

  替(か)わり持っといで。
小「ご酒(ごしゅ)替わり、一(いち)ぃぇぃ~~~~~。
  
  お肴なんにします?」
客「誰が肴食うって言った!。」
小「へ、へ。
  いらないんすか?。」
客「いらねえ、って言やぁしねえじゃねーか。
  ガツガツするなよ。
  落ち着かせてくれよー。
  
  酒ぇ呑んでる前に棒立ちん突っ立ってやがんの。
  お肴なんに、って、
  押し売りされるようだよ。
  指(いび)ぃしゃぶったって一升くらい呑むんだよ。」
小「いらないんすか?」
客「いらねぇ、ってゃしないよ。
  小僧さん、肴持ってきておくれ、ったら、
  その肴はなんにします?、って、そいから聞くんだ。
  わかったか?。
  なにができんだ?。」
小「へい~~~~。
  
  できますものは、つゆはしらたらこぶあんこうのようなもの
  ぶりにおいもにすだこでございます。
  
  へェい~~~~。」
客「おっそろしい、早えな~。
  もうみんなやっちゃったのかい?。
  さーたいへんだ。
  まるっきり、わからねえ。

  一番おしまいの
  ふぃ~~~~~、ってのはわかるんだけどなぁ。
  真ん中ちっともわからねぇ。
  お前(めえ)だけ承知しりゃあいい、ってもんじゃねえ。
  こっちぃわからなきゃしょうがねえじゃねーか。
  もっとゆっくりやってみろ。長ぁ~く伸ばして。
小「できますものは。
客「うん。」
小「つゆはしらたらこぶあんこうのようなもの
客「うん。」
小「ぶりにおいもにすだこでございます。
  へェい~~~~。」
客「その、お仕舞の、ピー、っての取れないかな~。
  それが気になるんで、前がちっともわからねえんだよ。
  ピー、っての抜きでも一遍やれよ。」
小「只今申しましたのは、なんでもできます。
  なんに致しますか?。」
客「今言ったのは、なんでもできんのか?。」
小「さよ(う)でございます。」
客「じゃ、ようなもん、っての一人前持ってきてくれよ。」
小「へ?」
客「ようなもん、っての。」
小「んなもん、できませんよ。」
客「お前(めえ)言ったじゃねえか。」
小「いいえ。」
客「じゃ、も一遍やってみろ。」
小「できますものは、つゆはしらたらこぶあんこうのようなもの

  え、へ、へ、へ、、。」
客「なにが、え、へ、へ、へ、、だよ。
  今頃気が付きゃがって、え、へ、へ、へ、ときやがる。
  その、ようなもん、だよ。」
小「こりゃ、口癖でございます。」
客「あー、口癖かぁ。
  口癖でもいいから、一人前持ってこい。」
小「そーんなもんできませんよー。」
客「口癖は料理にできねえのか?。

  酒の替わりだよ。」
小「ご酒替わりいちぃ~~~~~~~~~~。」
客「いい声だな。
  居酒屋に二年、三年奉公しなけりゃ、そういう破けたような声
  出ねえや。
  今の肴、もう一遍やってくれよ。
  ゴニョゴニョゴニョピー、っての。
  あれやれよ。」
小「あーたの上の小壁に紙ぃ書いて貼ってありますから
  それをご覧なすって下さい。
  そこに書いてあるのはお肴で、なんでもできます。」
客「どこだい?。」
小「あーたの上の小壁。」
客「上の、こかべ、、?。
  
  あー、は、は、書いてある、書いてある。
  書いてあんのは、肴でなんでもできんのか。」
小「さいでございます。」
客「んなら、端(はな)っからこれ見せりゃ、ピーもスーも
  ねーじゃねーか。
  おもしろいもの書いてあるなー。
  まだ食ったことないもの随分あるぞ。

  おい。いちばーん、初めに書いてあるこの口上(くちうえ)ってなんだ
  こら?。」
小「へ?。」
客「口の上って、なあなんだよ?。」
小「へ、へっ。口上です!。」
客「あ、口上かぁ。
  俺ぁ、口の上ってから、鼻かなんかこしらえるのかと思って
  心配(しんぺい)しちゃった。
  じゃ、口上、一人前(いちにんめい)持ってこい。」
小「そんなもん、できませんよー。」
客「お前(めえ)なんでもできますって、いった。」
小「その次からできます。」
客「そんならそう断れよー!。
  次?
  あーこれも食ったことねえや。
  なんだい、ドセウケってのは?。」
小「へ?。」
客「とせうけ、って。」
小「は、とせうけじゃありません。
  泥鰌(どじょう)汁です。」
客「泥鰌汁~?。
  あー、一番最後のおつけのけの字は汁っても読むのか?
  とせうって書いて泥鰌か。」
小「との字に濁りが打ってあるから、ど、です。
  せの字に濁りが打ってぜ、です。」

(どぜう汁である。本当は、どじょうを旧かな使いで書くと、
 どじやう、が正しいのだが、かの駒形「どぜう」が“どぜう”と
 書くようになり、一般にも“どぜう”が定着した。)

客「なんだ濁りって?。」
小「肩へポチポチと点が打ってあります。」
客「あらー、墨こぼしたんだろー。」
小「そーじゃないんですよ。
  点、ですよー。」
客「点って、なんだよー。」
小「いろは四十八文字、点打つとみんな音(おん)が違います。」
客「お前(めえ)学者だなー。
  初めて聞いたよー。
  いろはのいの字に濁り打つと、なんてんだ?。」
小「いの字に濁り打ちますと、、、、

  (いを濁らせて発音しようとする。)

客「おい、食い付きゃしねえかー?。
  歯ぁむき出して向かってくるなよ~。」 

 

つづく