浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)
断腸亭料理日記本店
 

断腸亭落語案内 その53 三遊亭金馬 居酒屋

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8月になりました。
梅雨もあけて、いきなりの猛暑。
暑中お見舞い申し上げます。
しばらくは、この暑さが続くよう。
皆様、お身体、ご自愛いただきますよう、
お願いいたします。
断腸亭

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三代目三遊亭金馬師。

「居酒屋」。
やはり、師の持ちネタとして忘れてはいけなかろう。

酒に関する小噺をいくつか、比較的長めに振って、噺に入る。

縄暖簾。

中は十二、三になります、ひびだらけの小僧さんが一人。
隅に居眠りをしているという。

入口に一匹、犬が寝そべっている、というのがバックです。
飛び込んでくるお客様も決まってます。

盲縞(めくらじま、紺無地のこと)の長半纏かなんか。
濡れっ手ぬぐいを肩にピシッと引っ掛けますと、
拳固で一つ、水っ洟(ぱな)をこじ上げますと
頭で暖簾を分けて入ってきます。

小僧さんをからかいながら呑んでます。
気の置けない者に、からかいながら呑むくらい
酔いが発散することはないそうです。

酔っ払いますと、子供みたいに愚にも付かないことを
真面目(まじ~め)な顔して喋っているところは
酔っ払いのおもしろ味のあるもんでございます。

客「ごめんよ!」
小「へい~~~~。
  宮下へお掛けな(さ)い~~~~~~~。」
客「なんだ?」
小「大神宮様(神棚)の下があいておりますからお宮の下へ
  お掛けない~~~~~~。」
客「どっか破けたような声出すなよ。

(どっか破けたような、と評しているが、この小僧の声がこの噺の肝。
 子供のようではあるが、高く、かなり妙な声なのである。)

  大神宮様の下ぁ?。
  あ~、立派にお宮ぢができてるなぁ~。
  お宮の下で、宮下かぁ。
  は、は。電車の停留所みたいなこといってるなぁ。
  客の座る場所に名前付いてるのか?!。

  おい。酒、持ってきとくれ。」
小「へい~~~~。
  
  お酒は澄んだんですか、濁ったんですか?」
客「おい。
  ヘンな聞き方するんじゃないよぉ。
  不敬だねぇ。
  お前(おめえ)客の柄(ガラ)ぁ見るねぇ。
  頭の先から、足の先まで見下ろしゃがって、
  澄んだんですか、濁ったぁ?
  濁った酒なんか呑めるかよ。澄んだ、んだよ。」
小「へい~~~~。
  上一升ぉ~~~~~。」
客「おい、ちょいと待てよぉ。おい。
  一合でいいんだよ。」
小「え、へ、へ。
  景気でございます。」
客「あ、景気か。
  俺ぁ、びっくりしちゃったよ。
  おどかすなよー。
  酒の一升は驚かねえけど、懐(ふところ)の一升にゃ
  驚くからだよ~。
  景気と聞いたんで、安心したよ。
  景気ならもっと大きくやれやい。
  上一斗ぉ~~~~~、とかなんとか。」
小「お待ちどう様。」
客「ほいきた。
  
  おい、小僧さん。
  猪口はいけねえんだ。小せぇもんで呑んでると、酔わねえんだよ。
  生酔いになっちゃって、あくびばかり出てくんだよ。
  大きなもん貸してくんねえか。ガブガブって呑んで、酔っ払ったら
  小せぇもんでいいんだがな。
  ぐい呑みってなねぇか。湯呑み?あー、いいとも。湯呑み。
  結構だよ。
  おー、ありがと、ありがと。

  お~~~~~!おう!。
  置いて、どんどんそっち行っちまうなよ。
  一杯(いっぺえ)注いでけよ。」
小「まことにあいすみません。
  混み合いますから、お手酌で願います。」
客「なんだ、はっきり断りゃがったな、おい。
  愛想のねえこと言うもんじゃないよ。
  一晩中、ここについててお酌してくれって、いうんじゃねーやな。
  持ってきたついでだから、一杯だけ酌しろってんだよ。
  (あたり見まわし。)
  混み合います、ったって、誰もいやしねえじゃねーかよー。
  ヘンなこといいなよぉ、おい。

  どうせお酌してもらうんなら、女の子がいいよぉ。
  酒は燗、肴は気取り、酌は髱(たぼ、日本髪の後頭部の部分の髪)って、
  だろう。十七、八の子で。白魚五本並べたような真っ白(ちろ)な
  細ぉい指で、いかが?、てなこと言われると、フラフラっと、
  一杯(いっぺえ)余計に呑むよぉ。

  お前のぉ、、、、、?手かい、、?
  汚ねえ手だなぁ~~。
  ベースボールの手袋みてえな手だな。
  でも、本革だなぁ。縫い目なしときてやがる。
  安くねえぜ、そりゃぁ。
  
  どうでもいいけど、お前(おめえ)の指、親指ばっかかぁ?。
  小指があるのかい?。見せろよ。太さも長さもみんなおんなじ
  じぇねーかよ。バナナ五本並べたような指してやがる。
  肉付きはいいなぁ!。実が一杯(いっぺえ)入(へぇ)って
  やがる。月夜に獲れたんじゃねーな?!。」
小「蟹じゃありませんよぉ。」
客「そう言いたくなるじゃねーか。

  ブルブル震えねーで、しっかり注げよ。
  湯呑みの口ぃ、徳利がカチカチっと当たるのはいやな心持だからな。

  もっとケツ持ちゃげなきゃ出ないよ。もっとケツ持ちゃげてご覧よ。
  
  お前のケツじゃないよ。
  徳利のケツ持ちゃげろってんだよ。そそっかしいなぁ。
  ケツ持ちゃげろったら、自分のケツ一所懸命に持ちゃげて。
  お前のケツ持ちゃげたって酒は出るかい。

  (注ぐ)
  あ~~~、っと。
  は、は、は、は。
  ガミガミ言っても、江戸っ子だ。職人だ。
  腹にはなんにもないんだ。勘弁ししてくれよ。

  昼九(し(ひ)るく)、夜八(よるはち)って、ってねぇ。
  夜は八分目に注ぐもんだよ。心得てるんだよ、そのくらいのことは。
  いいかい。憶えておきな。