浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



練塀町のこと その1~上等カレー・秋葉原店

4327号

4月24日(月)第一食

さて、秋葉原にある[上等カレー]。

好きで、時たま食べにくる。
大阪が本拠。食べるのはカツカレー、で、ある。

場所は、秋葉原の中央通り沿い。
ドンキホーテの一つ北側の通りの角。

今回は少し、この東側界隈について書いてみたい。

現代の地図

場所はお分かりになろうか。
秋葉原駅の北側。
私などは、毎日とはいわないが、一週間に
2、3回はうろうろしている、お馴染みの場所。

秋葉原、この界隈も大きく変わった。

電気街でもあったが、以前は青果の神田市場
ここにあった。今の大田市場に移転したのが、1989年
(平成元年)で、もう30年以上前になる。
こんなところに青果市場があったことを憶えている人も
もうそう多くはないかもしれない。
(青果市場はさらに前がある。
ここへは関東大震災後に移転してきている。
その前は、江戸期から今の神田駅西北側の
神田多町にあった。 詳しくはこちらをご参照。

移転した後は、線路の両側にオフィスビル
なん本も建ち、JR高架下はショッピングモール
のようなものができたり。
電気街は、オタクの皆さんの街に変貌している。
外国人観光客もたくさん訪れている。

が、今回書きたいのは、表題の練塀町のこと。
練塀は、ネリベイと読む。
あまり知っている人も少ないのではなかろうか。
それで書いてみたい。

上の地図にマークを入れたが、今、千代田区
神田練塀町という町名になっている。

練塀町、なかなか趣きのある町名ではないか。

線路の東側、いや、正確には線路まで練塀町か。
東側はやはり大きなオフィスビルがなん本も建つ、
南北に長い町である。

ここで、昔の地図を出してみよう。

江戸

西に下谷御成街道とあるのが、今の中央通り。
そして、北に今の蔵前橋通りにあたる通りが同じ場所を
通っている。
一番東が、今の昭和通りにあたる通りで、地図には
この通り御徒町と云(い)う、とある。
このあたりまで御徒町といっていたのがわかる。

そして、その一本西に。下谷練塀小路、というのが
見える。これが、今の神田練塀町の由来。
ただ、ここで「下谷」と頭に付いていることを
憶えていていただきたい。ここ、下谷であった
のである。
練塀小路は、比較的小さな幕臣の屋敷が並んでいる。

そもそも練塀というのはなにか。
武家屋敷などの塀でよく使われたもの。
練った土と黒い瓦を交互に積み重ねたもの。
今でも古いお寺などに残っているのを見る
ことができる。この界隈、武家屋敷街で
きれいな練塀の屋敷があったのが由来とも。

練塀町というとひょっとすると、歌舞伎好きには
思い当たられる方もあるのではなかろうか。

「天衣紛上野初花(くもにまごううえののはつはな)」
河竹黙阿弥翁作、初演は明治14年1881年)。
俗に「河内山と直侍」。

半分は、御数寄屋坊主、河内山宗春(こうちやま
そうしゅん)の強請(ゆすり)の話。
御数寄屋坊主というのは、江戸城に勤めるいわゆる
茶坊主。城に出仕している大名らの身の回りの世話など
雑用を務める幕臣

もう半分が私が毎度書いている、雪の入谷のそばや
が登場する直次郎・直侍が主人公の話。

この河内山宗春の住まいがこの下谷練塀小路、
という設定であった。
私も、作品中でも河内山自身が、練塀小路に住んでいると
名乗るので、妙に印象に残っていた。

この御数寄屋坊主河内山宗春の話は、元来は歌舞伎
以前に、講談の「天保六花撰(てんぽうろっかせん)」
という続き物の話で人気のものであった。
河内山は実在の人物で、不良幕臣といってよいだろう。
捕まり獄死している。

悪人の話ではあるが痛快で、時に弱者を
助けてしまったり、、。

河内山宗春は歌舞伎以後も芝居、映画にもなん回も
なり、さらにTVドラマにもなり、まあ、誰もが
知っている物語であった。当然、下谷練塀小路と
いう地名も皆に知られていたといってよろしかろう。

私が知っているのは、子供の頃、NHKでこの
河内山も登場する「天保六花撰」をネタもとにした
コメディー時代劇「天下御免(堂々)」 (ウィキ
というのをやっていた。かなりハチャメチャな作り
であったと思うが、おもしろかった。
同世代の方でも覚えておられる方は少ないかもしれぬ。

このあたりが最後かもしれぬが、戦後も
河内山の登場する話は作られていたのである。

さて、そんなお数寄屋坊主河内山宗春とともに
人口に膾炙した、江戸期に下谷練塀小路と
呼ばれたところは明治以降どうなったのか。

 

つづく

 

 

 

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