浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



断腸亭落語案内 その23 古今亭志ん生 三軒長屋

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引き続き、志ん生師「三軒長屋」。

ストーリーはわずかなもので10分程度で終わるであろうものを
1時間にも膨らませている。
その枝葉のディテールを追っている。

喧嘩の仲直りに鳶頭の家の二階を姐(あね)さんに借りる。
皆が呼び込まれる。

A「姐さん、こんちはー」
姐「おや、松っぁんかい」
B「えー、こんちはー」
姐「おや、こうさんかい」
C「こんちは」
姐「あ、こんちは」

・・・(中略)・・

姐「大勢きたんだねー!。まー。なんだい?」
男「さーあがった、あがった、あがった。
  そこへ、ぶる下がっちゃいけねえ。」

二階へ上がろうとする若い者へ

男「おう!、おう!、手前(てめえ)なんだい!。」
若「えー、わたくしはねえ、、」
男「わたくしだぁ~?この野郎、カタクチみてえなツラしやがって。
  なんだい!?」
若「二階に上がって、皆さんと、、」
男「皆さんと仲直りすんで、二階(ニケエ)で一杯(いっぺい)呑もう
  ってのか。
  なぁ~~~にを、いいやがんでぇ。うぬなんぞ、二階で酒呑むガラか。
  縁の下で飯でも食らってろ。馬鹿野郎め。
  二階は役付きばかりだ。降りてろぃ。降りねえか!?蹴落とすぞ!。」
姐「まただね。お前は。それがいけないって、いってんだろ。
  ふん!、しょうがないね。
  おい、おい、兄ぃ。
  お前だって、二階上がったってしょうがねえよ。
  下にいて少し、用しとくれ。」
若「へー、どうもすいません。
  うっかり上がろうとしたら、怒鳴りつけられちゃったんで。」

姐「おーい!。
  なんかきたよ。
  魚やさんかい?
  誂えてきたの?刺身かい?

  あー、酒やさん?。酒持ってきたの?。
  みんな誂えてきたんだね、、

え?、炭なんぞいいんだぁね、ウチのを使やぁ。

  おー、奴(やっこ)、七輪のなかへ火種入れてね、
  その人に、熾(おこ)してもらいな。
  んで、お前は徳利やなんかの用意してな。」

(奴というのは、鳶頭の家にいる雑用をする若者。)

若「へい。
  おー、火種入れたか?よし。俺が心得た。

  へい。
  どーも、姐さん。
  お騒がせ申してすみません。

  鳶頭は?え?、お留守。
  お宅の鳶頭はいい鳶頭ですねー。
  あっしみてえな、こんな三下(さんした)ぁ捕まえても、表で会う
  ってえと「おう、兄ぃ儲かるけぇ?」なんて言われるとね。貫禄が
  あってそういわれるんだから、こっちゃぁ頭ぁ下がっちゃうよ。
  二階の奴ら、威張(えば)る一方なんだから。」

すると、表を、飛び切りいい女が通り、隣へ入っていく。
若い者は目の色を変えて、見る。
姐さんに聞くと、お妾さんで表の質屋[伊勢勘]の親父の持ち物だ、と。

若「え~~~?あんなの?あの爺(じじい)!。あんな若い?!
  いい年しやがって。
  こちとら、若くって、一人でいて。
  歯なんぞありゃねえじゃねえか。」
姐「歯がなくてもいいじゃねえか。歯がなくたって、銭があらぁ。
  お前、銭がねえじゃねえか。」
若「銭は、ねえや。なー。
  やっぱり銭だね。」
姐「そうだよ。なにごとも金の世の中。
  旦那、あれ買って下さい、これ買って下さい。あいよ、あいよ、
  という目が出りゃぁ、言うことも聞かぁな。」

姐さんは、ここで湯へ行く。

若「奴ぉ。姐さんの下足(げそ)出して。

  はい。留守は引き受けました。ゆっくり行ってらっしゃい。

  姐さんもいい女だけど、ちょいっと、もう、とうがたっているなぁ~
  さっきの女ぁ、いい女だったねー。もういっぺん出てこねえかなぁ。
  あすこんち、行ってみりゃ、出てくるかしら。
  「ちょいと、お尋ねします。隣の鳶頭んところはどちらでしょうか?」

  二階の奴らぁ、見られやしねえ。

  ん!?出てきた。

  なんだいありゃ!。

  おーう、二階のぉ~!下ぁ見てみな、へんなものが通るから!」
 「なんだ、なんだ」
 「なんだへんなものって」
 「あ、あれだ、あれだ」
若「あー、たいへんな女が通りゃがんなー
  なーんだ、駆け出しゃがった。
  太ってやがんなー。
  駆け出すより、転がった方が速えぞ!、オメエは。

  やい!
  こっちみて、泣いてやがる」
 「化け物ぉ~~~~」

妾「どうしたの?
  なんで泣くんですよ。

  隣の若い人が、お前のこと化け物だって、言ったってぇ?。

  だからわたしが、そ、いってるでしょ。
  今日は若い人がたいへん寄ってっから、表、出ちゃいけないって
  言ってるのに。お前さんが勝手に出てそんなこと言われてきて。
  あたしゃ知りゃぁしないよ。

  泣いてちゃいけませんよ。旦那がおいでなすったよ。」

伊「はい、こんちは。
  あー、なんだい?。」
妾「いーえ。これが表へ出て、隣の若い人にね、化け物、化け物って
  いわれてね、悔しくって泣いてるんですよ。」
伊「そーか。うっちゃっとけ、うっちゃっとけ。
  どうせあんなやつらだ。
  俺が今、この裏通ってくるとな、「ヤカンが通る、ヤカンが通る」って
  いいやがんだ。俺、ヘンだと思って、上ぇ見たら、俺の頭指差しゃがって、
  ゲラゲラ笑って。
  癪に触ったけど、なんたって相手が相手だからな。仕方がねえから
  ま、我慢をしてるんだ。」

 

つづく