引き続き、志ん生師「三軒長屋」。
ストーリーはわずかなもので10分程度で終わるであろうものを
1時間にも膨らませている。
その枝葉のディテールを追っている。
喧嘩の仲直りに鳶頭の家の二階を姐(あね)さんに借りる。
皆が呼び込まれる。
A「姐さん、こんちはー」
姐「おや、松っぁんかい」
B「えー、こんちはー」
姐「おや、こうさんかい」
C「こんちは」
姐「あ、こんちは」
・・・(中略)・・
姐「大勢きたんだねー!。まー。なんだい?」
男「さーあがった、あがった、あがった。
そこへ、ぶる下がっちゃいけねえ。」
二階へ上がろうとする若い者へ
男「おう!、おう!、手前(てめえ)なんだい!。」
若「えー、わたくしはねえ、、」
男「わたくしだぁ~?この野郎、カタクチみてえなツラしやがって。
なんだい!?」
若「二階に上がって、皆さんと、、」
男「皆さんと仲直りすんで、二階(ニケエ)で一杯(いっぺい)呑もう
ってのか。
なぁ~~~にを、いいやがんでぇ。うぬなんぞ、二階で酒呑むガラか。
縁の下で飯でも食らってろ。馬鹿野郎め。
二階は役付きばかりだ。降りてろぃ。降りねえか!?蹴落とすぞ!。」
姐「まただね。お前は。それがいけないって、いってんだろ。
ふん!、しょうがないね。
おい、おい、兄ぃ。
お前だって、二階上がったってしょうがねえよ。
下にいて少し、用しとくれ。」
若「へー、どうもすいません。
うっかり上がろうとしたら、怒鳴りつけられちゃったんで。」
姐「おーい!。
なんかきたよ。
魚やさんかい?
誂えてきたの?刺身かい?
あー、酒やさん?。酒持ってきたの?。
みんな誂えてきたんだね、、
え?、炭なんぞいいんだぁね、ウチのを使やぁ。
おー、奴(やっこ)、七輪のなかへ火種入れてね、
その人に、熾(おこ)してもらいな。
んで、お前は徳利やなんかの用意してな。」
(奴というのは、鳶頭の家にいる雑用をする若者。)
若「へい。
おー、火種入れたか?よし。俺が心得た。
へい。
どーも、姐さん。
お騒がせ申してすみません。
鳶頭は?え?、お留守。
お宅の鳶頭はいい鳶頭ですねー。
あっしみてえな、こんな三下(さんした)ぁ捕まえても、表で会う
ってえと「おう、兄ぃ儲かるけぇ?」なんて言われるとね。貫禄が
あってそういわれるんだから、こっちゃぁ頭ぁ下がっちゃうよ。
二階の奴ら、威張(えば)る一方なんだから。」
すると、表を、飛び切りいい女が通り、隣へ入っていく。
若い者は目の色を変えて、見る。
姐さんに聞くと、お妾さんで表の質屋[伊勢勘]の親父の持ち物だ、と。
若「え~~~?あんなの?あの爺(じじい)!。あんな若い?!
いい年しやがって。
こちとら、若くって、一人でいて。
歯なんぞありゃねえじゃねえか。」
姐「歯がなくてもいいじゃねえか。歯がなくたって、銭があらぁ。
お前、銭がねえじゃねえか。」
若「銭は、ねえや。なー。
やっぱり銭だね。」
姐「そうだよ。なにごとも金の世の中。
旦那、あれ買って下さい、これ買って下さい。あいよ、あいよ、
という目が出りゃぁ、言うことも聞かぁな。」
姐さんは、ここで湯へ行く。
若「奴ぉ。姐さんの下足(げそ)出して。
はい。留守は引き受けました。ゆっくり行ってらっしゃい。
姐さんもいい女だけど、ちょいっと、もう、とうがたっているなぁ~
さっきの女ぁ、いい女だったねー。もういっぺん出てこねえかなぁ。
あすこんち、行ってみりゃ、出てくるかしら。
「ちょいと、お尋ねします。隣の鳶頭んところはどちらでしょうか?」
二階の奴らぁ、見られやしねえ。
ん!?出てきた。
なんだいありゃ!。
おーう、二階のぉ~!下ぁ見てみな、へんなものが通るから!」
「なんだ、なんだ」
「なんだへんなものって」
「あ、あれだ、あれだ」
若「あー、たいへんな女が通りゃがんなー
なーんだ、駆け出しゃがった。
太ってやがんなー。
駆け出すより、転がった方が速えぞ!、オメエは。
やい!
こっちみて、泣いてやがる」
「化け物ぉ~~~~」
妾「どうしたの?
なんで泣くんですよ。
隣の若い人が、お前のこと化け物だって、言ったってぇ?。
だからわたしが、そ、いってるでしょ。
今日は若い人がたいへん寄ってっから、表、出ちゃいけないって
言ってるのに。お前さんが勝手に出てそんなこと言われてきて。
あたしゃ知りゃぁしないよ。
泣いてちゃいけませんよ。旦那がおいでなすったよ。」
伊「はい、こんちは。
あー、なんだい?。」
妾「いーえ。これが表へ出て、隣の若い人にね、化け物、化け物って
いわれてね、悔しくって泣いてるんですよ。」
伊「そーか。うっちゃっとけ、うっちゃっとけ。
どうせあんなやつらだ。
俺が今、この裏通ってくるとな、「ヤカンが通る、ヤカンが通る」って
いいやがんだ。俺、ヘンだと思って、上ぇ見たら、俺の頭指差しゃがって、
ゲラゲラ笑って。
癪に触ったけど、なんたって相手が相手だからな。仕方がねえから
ま、我慢をしてるんだ。」
つづく