浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



白魚と豆腐の小鍋だて その2


さて。

引き続き、白魚。

小鍋だて、で、ある。

しかし、小鍋だて、という言葉はどうも魅力的な響きである。

池波先生が作った言葉ではなかろうが、人口に膾炙させたのは

先生の作品からではなかろうか。

小さな鍋で一人前の量。

旅館の料理で出てくる、固形燃料で食卓で料理する鍋は

実際には皆、これにあたるように思うが、小鍋だて、と

表現した場合もっと違った乙なニュアンスがあるのが

不思議である。

つゆで豆腐と白魚を煮て、玉子でとじる。

基本こういう料理だが、ポイントはつゆの味であろう。

淡泊な白魚なので、つゆは出汁も別に取り、味も比較的

濃いめにしておいた方がよさそうである。

出汁を取る。

鍋に水を張り、昆布を入れ火にかける。

温まったら弱火にし、鰹削り節を入れ、煮立てずに数分加熱。

火を止めそのまま置く。

白魚は、小鍋だてにするだけでは、少し量がある。

少しだけ天ぷらにしようか。

芝海老も買ってきたので、これはから揚げにするとして、

どうせ油を用意するのであるからちょうどよい。

揚げ鍋に油を用意し、予熱。

お椀に玉子を割りほぐし、氷を入れておく。

同時進行で小鍋用のつゆ。

昆布と削り節を濾し、出汁のみの鍋に、しょうゆ。

これはやはり薄口がよろしかろう。

それから酒少々、塩。

隠し味で東南アジアの魚醤ニョクマム

少量であれば、匂いは煮立てれば飛ぶし、旨みと塩味が

加えられる。

煮立てて、味見。

色は薄いが、味はしっかり。

よし、よいかな。

再び、天ぷら。

天ぷら粉は篩(ふるい)をかけ、ボールに用意。

白魚を洗って、別のお椀に取り、篩った天ぷら粉をまぶす。

ここに玉子冷水を加え、天ぷら粉を加え、混ぜる。

OK。

油温をみる。

もう少し。

OK。

小さな塊で二個ほど、揚げる。

白魚が揚がったら、続けて芝海老。

これは片栗粉もなにもなしでそのまま素揚げ。

あげて、塩をしておく。

なまこは洗って、器に移し、ぽん酢しょうゆをかけておく。

これでほぼ準備完了。

あとは、小鍋だけ。

カセットコンロを食卓に用意。

ステンレスの小鍋に一口に切った豆腐と

白魚を入れ三つ葉を散らす。

この上から、作っておいたつゆを注ぎ、コンロへ。

(昨日、三つ葉を買ったのを書き忘れた。)

玉子とじ用の溶き玉子も用意。

OK。

白魚天ぷら、芝海老から揚げを白い紙を敷いた

皿に盛りつけ、食卓に運ぶ。

芝海老。



白魚天。



天つゆ(桃屋のつゆ)も用意。





なまこ。



鍋。



煮立てて、溶き玉子をまわし入れる。

白魚はあっという間に火が通る。







平蔵の台詞ではないが、

まさに「春のにおいが湯気にたちのぼっている」。

こういうものを、乙(おつ)というのであろう。

見栄えとしてはあまりパッとしないようではあるが、

柔らかい白魚の身を口に入れると、春を食べているという実感が

わいてくるのが不思議である。

つゆの塩梅はやはり、濃いめにしてよかった。

天ぷらは、ちょいと冷めてしまったが、まあこれも縁起物。

芝海老も、うまい。

そういえば、芝海老の芝は、港区の芝。

芝の浦、芝浦でよく獲れたので、芝海老。

ちょうど、佃の前、あるいは鉄砲洲の前の隅田川でも

芝海老はよく獲れたという。

おそらく浅い砂地で、白魚が獲れたところと

同じであったと思われる。

ともあれ。

なまこも合わせて、充実の夕餉といえよう。