浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



『あまちゃん』のこと

dancyotei2013-10-10

さて。

やっぱり、なんらか触れて触れておいた方がよいだろう。
あまちゃん』のこと。
(視ていない方はまったく意味がなさそうなので、読み飛ばして
いただきたい。)


あまちゃん 完全版 Blu-rayBOX1


先々週に終わって丸2週間経っている。

放送中からも、有名無名問わず、さまざまな人が、ネット
リアル問わず、色々なことをいっており、出演者、作の宮藤官九郎
含めたスタッフからも様々な裏話の類もたくさん出てきいる。

あまりにも多いのでフォローがしきれないのがほんとのところ。

私はやはり、なんといってもクドカン氏が気になるので、
主にネット(動画やラジオの録音なども含めて)で氏の発言など、
それから、音楽の大友良英氏の発言等、なにかキーになりそうなので拾ってみたり。

そんな程度なのだが感想らしきものを書いてみたい。

小ネタの数々、様々なものへのオマージュその他、突っ込みどころ満載なのだが、
最も印象に残っているのはなにか、というと、やはりどうしても、
震災関連の部分になる。

地震津波直後と、そのしばらく後の
“アキとGMTとの『地元に帰ろう』でのTV出演”の場面。
(9月上旬のオンエアであったろうか。)


you tubeやっぱり削除されましたね。)


(消される可能性が高そうですが、この場面の動画が上がっていたので
引いておきます。)


甲斐さん(松尾スズキ)が「熱いよね〜、永久保存版だよね〜」
と、いっている。

熱いかどうかはわからぬが、よい。
今見ても、泣ける。
まったく、永久保存版である。

私は「あまちゃん」全編を通しても、No.1に挙げたい。

ミズタク(水口琢磨松田龍平)の
「アキちゃん、メチャメチャ帰りたがってるよ。」の発言、
その後のフトマキの「水口。泣くんなら外で泣け」もよい。

そして、最後のキョンキョンの「岩手〜」があって、
アキの「岩手〜〜」。

このドラマの震災から、震災直後、を視ながら、
実際の被災地ではなかった東京を含めた東日本に住んでいる方は、
その当時を生々しく思い出したのではなかろうか。

3月一杯は被害の大きさに慄(おのの)き
余震もあり(加えて原発)不安な毎日。
コンビニの店頭から物がなくなり、右往左往する人々。

鉄道もよく止まった。

自粛でCMなしの民放。

節電でオフィスの空調も止めた酷暑。

ある程度、落ち着いてきたのは夏すぎだったか。

どうも、こうした自分自身の震災の記憶を
呼び起こし、重ねた。

そしてアキは『地元に帰る』ことを決意し、
三陸の人けのない駅のホームに降り立つ。
線路にはキツネがいて、アキはキツネ相手に、
『暦の上ではディステンバー』を歌う。
(この場面も私には印象的であった。)

目線とすれば、被災地に関わりはあるが、東京からのものとして
描かれていたので、等身大というのか、より視聴者に近いものとして
感じられたように思う。

もう一つ。
この物語の重要な要素、音楽のこと。

クドカン氏本人もいっていたが、このドラマは
朝の連ドラにしては珍しい、大友良英氏の音楽ドラマ
といってもよいのであった。
(余談だが、私自身はまったく知らなかったが、大友氏はジャズの
世界では名の知れた人で、かつ福島県福島高校の卒業。
また、さらに余談だが、GMTの小野寺ちゃんは、かの原発の隣、南相馬市
出身で真相はわからぬが、震災後、地元を盛り上げようとホリプロ
スカウトキャラバンに応募したというリアルアキとの情報もある。)

(音楽ドラマという意味ではメインの2曲+1曲だけでなく、
サントラも出てきているようだが、各登場人物や、場面にあてて
作られたテーマも数々あり、これが意識して聞いてみると
作品に欠かせない厚みを与えていたことに気が付く。)

先の『地元へ帰ろう』、『暦の上ではディステンバー』に加え、
お話しとしては最初に登場している『潮騒のメロディー』の
3曲がキーの曲としてあったわけだが『潮騒のメロディー』は
ドラマストーリー全体の中心に存在していた曲であった。

そして、冒頭の“アキとGMTとの『地元に帰ろう』でのTV出演場面”は
震災後のアキをはじめ、登場人物達の様々な葛藤や万感の思いが凝縮した、
場面であり、曲であった。思いが音楽を通してまさに昇華していた
といってよかろう。

クドカン氏は『潮騒のメロディー』は5分で書いた、
『暦の上では・・』は2分で書いたなどといっていた。
(シャイな氏のこと、真偽のほどは別にして。)
しかし、『地元へ帰ろう』は「さすがにそんなことはなくて、ちゃんと考えて
書きましたよ」と語っていた。

東京にいた被災地東北出身の人々にとっては『地元に帰ろう』は
やはり、当時の心からの思いであったのであろう。
そんな風に思えてくる。
(また、『地元に帰ろう』を東北被災地だけのものではなく、
埼玉や熊本や沖縄、ブラジル(?)と、普遍化して見せていたのも
クドカン氏一流の表現であったのであろう。)

このドラマの構想は、震災前から既にできていた、という話も聞いた。

わからないが、このドラマは、『潮騒のメロディー』を柱とする、
アキの芸能界デビュー物語と『地元に帰ろう』をテーマとする
震災+震災後物語とに分けられるのかもしれない。

震災が入らなければ『地元に帰ろう』があったのか、
なかったのか。アキのデビューはご当地アイドルから始まっているので
コンセプトは震災前からあったのかもしれないが。

ともあれ。

やはり私には、震災というものが、当たり前だが、
このドラマからは外せないものであり、
最大のクライマックスであったように思われる。
そしてそれが冒頭の“アキとGMTとの『地元に帰ろう』でのTV出演”場面に
凝縮しているように思えるのである。
(むろん、ユイちゃんや駅長が乗っていた奇跡の車両や、
トンネルの先に見えた風景が生の姿の震災なのであろうが、
フィクションとしての“深さ”という意味で。)

さて、ここまでは思い入れのある感想。
まとめのようなものを続ける。

宮藤官九郎という作者は、確かにおそろしいほどの
力量を持った人なのであろう。
ただ、今回の「あまちゃん」は宮藤官九郎氏だけの力では
ここまでのヒットにはならなかったのではなかろうか、と
思われる。

クドカン氏本人の言葉でも、NHKだから、といっている。

クドカン氏本人の、例えば映画監督作品は「木更津キャッツアイ
真夜中の弥次さん喜多さん」「舞妓Haaaan!!!
「中学生丸山」最新作「謝罪の王様」等々、むろんおもしろいし
ヒットもあるが、どうしてもマニアックという側面が捨てきれない。

また、例えばTVでも、民放では逆にできないことが
NHKではできた、とも語っていた。

とにかく、お金も手間もNHK側では最大限掛けていたのではなかろうか。
あの、小ネタの数々、で、ある。(レディーガガの衣装三人分とか。)
クドカンのアイデアを実現させるために、知恵をそうとうに絞ったスタッフが
付いていたということのようである。

あまちゃん」というドラマはNHK朝ドラとしてはもちろん、おそらく、
宮藤官九郎作品としても二度とこのレベルのものが作れるかどうか
というくらいの、稀有な作品だったのではなかろうか。