浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



雪駄・踵の張り替え

dancyotei2013-09-25



9月23日(月)



さて。



連休三日目。
秋分の日。


秋彼岸(あきひがん)なんという言葉もある。



今日は、思い立って、雪駄の裏、踵(かかと)の張り替えに行く。
行先はいつもの浅草ひさご通り[まつもと]という履物店。


雪駄に下駄、もう何年もここで買って、
ここで修理をしてもらっている。


今履いているのはこんなもの。





竹皮表というのであろうか。
鼻緒は皮である。


今どき、男で雪駄なぞ履いているのは、
相撲取りか、あまりガラのよくない方面の人々
くらいであろうか。


いつ頃から履き始めたかといえば、
落語を始めた頃であるから、20年くらい前からであろうか。


ただその頃は落語をするだけで、着物を着ても、
外を出歩くのはほんのわずかで安物が一足あればよかった。


そういえば、余談だが、今、プロの落語家も、
街では着物では歩かない。


着物は持って行って、楽屋で着替え、終わればまた
洋服に着替える。なぜであろうか。


むろん、以前は普段着から高座、寄席の行き返り、
すべて着物であったわけである。
少なくとも志ん生師の世代、明治生まれぐらいまで
噺家は常に着物であったと思われる。


普段に洋服を着るようになったのは、
やはりそれ以降の世代であろう。


考えてみれば、伝統芸能の演者、例えば、
歌舞伎役者なぞも今はすべての人が
舞台や稽古以外は着物は着ていない。
落語家だけが特別なわけではない。


では、着物を着て街を歩いているのはどんな人であろうか。
(この場合、男性で、という限定をつけよう。
女性の場合は歌舞伎見物などにも着物を着ることが
今でも少なくはないので。)


坊さん。
今日などもお彼岸で多く見かけたが、むろん普通の着物ではないが、
檀家まわりには着物を着ている。


しかし、坊さんだって、普段は着物だけでは
ないであろう。ただ、やはり、檀家へ洋服でいって
着替えさせてもらう、ということはしにくかろう。


他にはどんな人があろうか。
お茶の師匠。
あるいは「いい仕事してますね〜」の
骨董やさん?。


落語家や歌舞伎役者の着る着物は、
舞台用の扮装としての衣装である。


お茶の師匠や骨董やさんも、お弟子さんや
骨董を買いにきたお客さんへ見せるための
扮装といえなくもない。


茶席以外の場面でもお茶の師匠はスーツにネクタイ姿では
やはり、ちょっと違和感があろう。
いわば、商売上必要なので着ている、ともいえるかもしれない。


ただ、骨董やさんの方は、必ずしも皆がいつも着物かといえば、
「いい仕事してますね〜」の方だけのような気もする。


と、すると、あの方の趣味か。


ともあれ。


私の場合はどうかというと着物で街を歩くようになったのは、
少し前にやっていたNHK文化センターの講座『池波正太郎
下町歩き』からであった。
(それまでは落語をする場合も、皆と同じように、
行き返りは洋服で、楽屋で着替えていた。)


『講座』では2年半、街歩きのすべて30回を着物で通した。


着物で通した理由の一つは、先のお茶の師匠や
骨董やさんに多少近いかもしれぬ。
下町を語ろうのなら、着物の方が“それらしい”であろう
という、やはり、商売上の演出(=扮装)といってよかった。


が、実際に着物を着て街を歩くと、慣れてくると
気持ちがよくなってくる。
道行く人も、避ける。
やはり、へんな人?こいつなに者?と思われる
のであろう。


まあ、一種のコスプレといってもよいかもしれぬ。


日常ではなく着物を着た別のキャラクター
(まあ、それが断腸亭ということか。)になる、
のかもしれない。


『講座』は終わったが、その後も機会があれば、
着物を着るようになった。


例えば、歌舞伎見物。あるいは、鮨や、蕎麦やなど
和食を食べに行くとき。
あるいは、先日の母校の文化祭へ落語をしにいくのも
行き帰りは着物であった。


長い余談であった。


ただ、落語をするだけでは雪駄は減らない、
ということの説明であった。


まあ、雪駄はサンダルがわりにも履くので
それなりに普段も減っているのも事実だが。


なかなか、ご存知ではないと思うが、
雪駄というのは、薄い。





基本は硬い皮。



雪駄を履いて歩くと、チャラチャラと音がする。


皮だけでもある程度音がするのだが、
もっと大きな音がするように、
踵に鋲(びょう)のようなものを打つ。


昔、突っ張り学生が革靴に金属の板を打っていたようなものである。


で、この鋲の部分が減ってくるので
定期的に張り替えてもらいにいくのである。





古い踵を取って新しいのを張って、
鋲も新しいのを打ち直す。





手があいていれば見てみる前でやってくれるが、
今日の浅草も大混雑で、この履物やさんも取り込んでいた。
30〜40分見計らって受け取りに戻った。


早速、突っ掛けて歩くと、新鮮なチャリン、チャリンという音。


気持ちよい。