浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



断腸亭、長火鉢を入手する。1.

dancyotei2008-12-17

12月13日(土)


さて、さて、さ〜て。


『長火鉢』、で、ある。


読者の皆様は、長火鉢、というものをご存じであろうか。
次の7つのなかから、お選びください、というアンケートをすれば、
皆様はどれを選ばれるであろうか。



1.なんと読むのか、わからない。


2.漢字は読めるが、見たこともなければ、
  どんなものかもわからない。


3.長い火鉢?


4.どこかで、見たことはある。
  (あ〜、銭形平次の前にあるやつ?)


5.子供の頃は、家にあった。
  (祖父母の家にあった。)


6.今でも家にある。


7.現役で使っている。




2、もしくは、3、あるいは、4あたりの方が、多いのか。
5の方は、どのくらいおられるのだろうか。
6、7、の方は、まあ、いないのかもしれない。


な・が・ひ・ば・ち、と読む。


前から書いているが、拙亭には火鉢はある。
普通の陶器のもの、で、ある。


現役で使ってもいる。
むろん、冬。
暖房やちょっとした調理用途として。


むろん他の暖房器具がないわけではない。


ではなぜ、火鉢があるのか。


これを説明すると、少し前のことから書き起こさねばならない。


15年程度前であろうか、
葛飾の四つ木のマンションに住んでいた頃。


この頃、落語をするようになり、
着物を着慣れなくてはならない、と考え
修業のつもりで、毎日、会社から戻ると、
夏は浴衣、冬は着物や丹前を着るような生活をしていた。


その部屋には、エアコンはあったのだが、
冬、着物を着て下(床はカーペットであったが)に座ると、
寒かったのである。


エアコンというものは、まあ、ご存じのように、
上の方ばかり温まり、床近くは寒い。
そこで、思い付いたのが火鉢、で、あった。
着物を着て、座るのであれば、日本人なら、
火鉢であろう、と。
(ここで、こたつ、という選択肢もあったのだが、
だらしなくなりそうなので、火鉢を選んだ。)


古道具屋で骨董価値もなにもない、安い火鉢、
2000円ぐらいであったと思うが、
を、探して、炭も探し、部屋に火鉢を入れてみた。


しかし、当時、内儀(かみ)さんの抵抗というものは、
並大抵なものではなかった。


やれ、壁やらなにやら、煤で部屋が汚れる。
裸の火を部屋の中に持ち込むのは、防火上危ない、、。


それもあるが、本当は、当時、かなり真面目に、
仕事を辞めて、落語家に入門しようとまで、考えていた頃で、
私の落語と火鉢が結び付き、とても受け入れられなかった。
と、まあ、そういうことであった。


今の部屋には、床暖房まであり、特段、火鉢が必要では
なくなったのだが、寒くなれば、炭を買いにいき、
その頃から使っている、陶器の火鉢に火を入れてもいるし、
鉄瓶を掛けて、徳利を突っ込んで、お燗も付けてもいる。
正月には、雑煮用の餅も焼く。


しかし、実は長火鉢、と、いうのは、その頃、
火鉢を使い始めた、30代前半からの、夢であった。


私の年代では、先ほどの、選択肢の4番あたりが、
実際の感覚ではあるまいか。


長火鉢の縁に、煙管(きせる)をポーン、と、あてて、
灰を落とす、そんな動作がしてみたい。
(誰かが言っていたのだが、稲荷町の師匠、といわれた、
先代の正蔵師匠は長屋住いで、確かに、長火鉢の前に
座っていた、と。そんなものを思い描いたり。
背中に神棚があって、前に長火鉢がある、時代劇の銭形平次
なにか、憧れるではないか。)
まあ、そんなところが、一つ。
(実は、煙管はなん本も持っている。)


もう一つは、陶器の火鉢を使い始めて、かれこれ
10数年にはなるわけだが、その間で、
段々に、火鉢というものがわかってきたということ。
丸い陶器の火鉢には、三本脚の五徳が一つ入る。
ここに、鉄瓶だったり、鍋だったりをかけることもできるし、
餅網を載せて、餅ぐらいは焼くことができる。
しかし、長火鉢には、五徳の代わりに、
銅壺(どうこ)というものを灰の中に埋め込んで、
ここで、なんと、鍋をのせながら、燗も付くということを
知ったのであった。
(ついでだが、小抽斗(こひきだし)などもついており、
耳かきだったり、爪切り、小銭、などなど、身の回りの
こまごまとしたものをしまえる、のである。)


陶器の火鉢に鉄瓶をかけて、燗をつけてはいたが、
同時に鍋はできない。鍋をかけると、酒の燗は、
ガスレンジに鉄瓶をかけなければならない。
つまり、立って、燗をつけに行かなければならない、
のである。


鍋と、酒の燗が立たずにできる、というのは、
なんと夢のようではないか、というのが
数年前からの夢になってきていたのであった。


そして、先日、少し書いたが、鉄瓶の件。
例の山田五郎教授が、鉄瓶のマニアで、ネットオークションで
時代ものの鉄瓶を買い集めた、といっていたのを聞いた。
これが、意外に、安かったということ。
(今は、氏が集め始めたのが人に知られ、
安くセリ落とせなくなったと話していた。)


これを聞いて、私はネットオークションなるものは、
買ったことも、売ったこともなかったのだが、
ひょっとすると、と、思い、どんなものか、見てみたのである。


すると、出ている値段は、意外に、安い、のである。


今、一般に長火鉢の値段はどのくらいなのか。
一般とは、ネットオークションではなく、という意味である。


新品。
むろんわずかではあるが、江戸指物の職人さんや地方の
家具産地の職人さんが作られているものがある。
(ご近所の蔵前にも江戸指物の職人さんがいらっしゃる。)
しかし、これは、高価。作る人も少ないのであろうし、
また、材料になる良質な原木も今は、希少になっているようで、
どうであろうか、数十万ではとても足らず、百万を大幅に超える
ものもある。
そんなものを買う身分では私はない。


古道具。
よく、不忍池の畔などで開かれている、古道具市でも見るし、
街の古道具屋でも、二〜三台は置いてある。
この値段はというと、安くない。
私などには、骨董を見る目はまったくないが、
おそらく骨董価値はほとんどないと思われるものでも、
数万〜十万程度の値段が付けられている。


ほしかったのだが、この値段でも、私は買うことができず。
50歳を越えたら、などと、考えてもいた。


しかし、ネットオークションで、は、そうとうに安い。
最初の値段は、数千円から。
ものも数は出てもいるが、あまり入札する人もいない。


出しているのは、プロの古道具屋さん、
リサイクルショップ、そんな感じである。
古道具屋さんは、先の市価よりは安いが、それでも、3〜4万から。


とりあえず、最初の価格が数千円の江戸(関東)長火鉢。
(関西と関東では形が違うのである。
関西のものは、まわりに板が張り出している。
むろん、銭形平次に出てくるのは江戸のものである。)
銅壺の付いているもので、よさそうなものに入札をしてみた。




*****こんなもの*****


〜欅材の関東火鉢〜
サイズ(cm) :幅75.5×高さ37×奥行41
      (内部)幅49.5×高さ13×奥行34
仕様:木材/欅


***************


結局、12500円、送料を入れて、15000円で
セリ落とせた。


ネットオークションがどれほど信用できるものか、
私には、カンが働かないのだが、
この金額であれば、まあ、届いたものが、粗悪でも
あきらめが付くか、というところであった。


ということで今日、届いた、のである。


梱包を解いてみた。






明日へ続く。