浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



日本橋・おでん・お多幸

dancyotei2013-09-05


9月2日(月)夜



今日は夕方、仕事で茨城県の鹿島へいって、高速バスで
8時すぎ、東京駅までもどってきた。


バスの車中でなにを食べようか、ずっと考えてきた。


東京駅だが、考えていたのは、日本橋


洋食の[たいめいけん]、鮨で[吉野]、はたまた、蕎麦で[やぶ久]。


今日の気分は?。


[お多幸]のおでん、などどうであろうか。


まだまだ暑いが、今日などはバスのエアコンがガンガンに
効いていたせいもあったからか、日が暮れると、おでんの気分に
なるくらいになってきた。


[お多幸]冬であればヘンな時間にくるととても入れないが、
さすがにこの季節であれば、問題なかろう。


ご存知であろうか。


コンビニのおでんは、今は真夏を通して通年売っているが、
9月の声を聞くと、売れ始めるという。


家庭の鍋なども、9月に入ると登場回数が増えるとも
聞いたことがある。


実際にはまた戻り、やはり本格的な需要期は真冬になるまで
待たねばならによう。


9月のおでんや鍋は、いわば気分的に季節を先取りしたもの、
というようなものであろう。


東京駅日本橋口から呉服橋交差点を渡って、
日本橋交差点方向へ永代橋通りを歩く。
一本目を右。


次の角の手前が、[やぶ久]。


(どうでもよいが、この[やぶ久]の手前に並んで
立ち喰いのそばやが、二軒ある。
やぶ久にはなん度もきているが、他の二軒には入ったことはない。
見たところ、[やぶ久]以外の二軒も、ある程度、
客は入っているようだが、
こんな至近距離で、商売が成り立っているのか?。
まったく不思議、で、ある。)


左に曲がり、中央通り方向に歩き、右側数軒め。
[お多幸]日本橋本店。


前にも書いていると思うが、この店は、以前は銀座の
数寄屋橋交差点、ソニービル裏にあり、狭く、お客同士
肩を寄せるようにして、おでんをつまみ、菊正の
燗酒を呑んでいた。


扉を開けて入ると、こんな時刻だが、テーブルが二組ほど。
カウターは両端に二組のカップル。


一組はアラサーくらい。もう一組は、若く二十代。
どちらも会話から同じ職場のよう。


アラサーで[お多幸]はわかるが、二十代でここにくるとは、
また随分と、乙な趣味である。


ご存知でない方のために、書いておくと
ここのおでんは、東京でもほほ絶滅しつつある、純東京風の、
しょうゆだけで煮込んだ真っ黒なもの。


おでんといえば、透明な薄いつゆしか見たことがない人も
多いと思われるが、そういう人はおそらく仰天するはずである。
東京生まれでも、二十代くらいならば、知らない方が
多いのではなかろうか。知っていれば、親代々下町か。


ともあれ。


カウンターの真ん中に座って、まずはビールか。


置かれていた品書きを見てみると、ビールのついた
おでんのセットもある。これにしようか。


いくつかある内の、見計らい三品のおでんに、とうめし、
がついたのを頼む。


とうめし、というのは昔から東京のおでんやでは
なぜだか定番であった茶飯の上に、味の染みた
この店のおでんの豆腐をのせる、というオリジナルである。


ビールがきて。





見計らいは、がんも、ちくわ、大根。
大根を見ればわかるか、
しょうゆで煮〆られたこの色。
これが東京の伝統的おでん、で、ある。


つゆにはみりんはおろか酒さえも入っていない。
しょうゆのみ。


だか、大根でもそこはかとなく、あまみを感じる。
これはそれぞれの種からでたものという。


むろん、追加。


目の前の鍋でうまそうに見えた、真っ黒な玉子と、
つみれ、すじ。





まだ煮えていないのか、すじは時間差。





お酒、冷やで一合。


すじ。



(一口食べてしまった。)



すじは東京オリジンのおでん種だが、やはり
あまり頼む人もいないのか。


最後に、とうめし。





すこしずつ豆腐を崩しながらつまみ、ある程度豆腐が減ったら
茶飯の混ぜ込んで、かっこむ。


ジャンクだが、これがまたべら棒にうまい。


腹一杯。


誰になんといわれようが(誰もなにもいわないか!?)
品はよくはないが、私にはこのしょうゆだけで煮〆た味が、
故郷東京の味、で、ある。