浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



鯵 その2

dancyotei2013-07-17

7月15日(月)海の日

引き続き、鯵。

まだまだある。

一本が大きいので食べでがある。

鯵といって忘れてはいけないのは、煮びたし
これは、池波レシピ。
鬼平に登場する。

 ************


おまさが、本所・相生町の家へ帰ったのは夕暮れになってからである。
大滝の五郎蔵は、夜になってから帰って来た。
今日も五郎蔵は、暑熱の日中を変装して江戸中を歩きまわり、
「怪しい奴・・・・・・」
に目をつけていたのであろう。
おまさは、五郎蔵が好物の紫蘇の葉をきざみこんだ瓜揉みと、白焼きにした
鯵を煮びたしにしたものを膳に乗せ、これも五郎蔵の好みで、冷酒を茶わんに
酌(く)んで出した。
池波正太郎鬼平犯科帳(十)「むかしなじみ」文春文庫)


鬼平犯科帳(十)



 ************

大滝の五郎蔵とおまさは共に元盗賊だが、鬼平密偵
二人は夫婦。

江戸の地図



(竪川以北)

(竪川以南)

地図二枚。竪川を境に北と南である。
本所相生町というのは、上の地図でおわかりになろうか。

一番下に堀があり、一ツ目之橋、二ツ目之橋とあるが、これが
竪川(たてかわ)。
今は、幅は広いが、上を京葉道路が走っている日陰の堀になっている。

相生町はその北河岸の町。
五丁まであるが、二人の長屋がなん丁目かはわからない。

鬼平通の方ならピンとくるかもしれぬ。
このあたりは、作品上、清水門外の役宅同様、
最も作品によく登場するところである。

二ツ目の橋。

橋の袂にはなにがあったか。
そう。

本所二つ目といえば、軍鶏鍋や[五鉄]。
ここは火付盗賊改方の前線基地ともいえる場所。
相模の彦十とっつぁんが居候をしている。

そういう意味では[五鉄]も、作品上は、
本所二つ目、という書かれ方なのだが、相生町四丁目にあたっている。

さらに、下の地図になるが、二ツ目橋から南へ下りたところにあるのが
大きな弥勒寺。
池波先生は凧の骨ような、という形容をしていたが、
弥勒寺門前の茶店には、お熊という、鬼平の昔馴染みの
婆さんがいる。

まあそんなところに住んでいる密偵夫婦の夏の食卓に並んでいる、
鯵の煮びたし

私が鯵の煮びたしを作り始めたのはむろん、鬼平のこの部分を
読んでから。

作ってみたら、これがうまい。
それ以来、鯵を買えば、必ず煮びたしは作っている。

二匹。

腹を裂いて、はらわたを取り、きれいに洗う。
素焼き、つまり、塩をしないでそのまま焼く。

焼いたら、大きな鍋に、酒しょうゆ、水を入れ、煮立てて
あとは、置いておくだけ。

まったく簡単。

午前中作って、冷蔵庫に入れて、食べたのは夜。



煮汁の濃さは好み。ただ、あまりに濃いと置いておく間に
どんどんと染み込むので、加減は必要だが、
江戸っ子好みとすれば、濃いめがよい。

鯵は脂がのっていれば塩焼がむろんうまいのであろうが、
今回の子持ちなどでは、塩焼だと、パサパサになる。
そんなものには、煮びたしが絶好。

さて。
あと三本。

いろいろ考えたのだが、結局、開いて干物。



これはベランダに干しているところ。

三枚あるが、それぞれ、頭があるものないもの。
中骨を取ってあるもの、ないものと、違っている。

当初は、フライにしようかと思い、頭を落とし、開いて
中骨まで取った。これが一番左。

次を開いている間に、フライにするにはデカすぎるか、と、
干物に方針転換をし、中骨を取らずにやめた。

三本目は最初から干物用の開き。

とまあ、そんな過程でこういう三枚が出来上がった。

開いたら、本当は塩水に漬けて天日で干す、
のであるが、面倒になり、塩だけして夜干した。
まあ、一夜干し。

焼いてみた。(火曜日)



見た目には、それらしい、のであるが、実はだめ。
鯵の干物(ひらき)も馬鹿にしてはいけない。
ちゃんと作るべきであった。

塩加減と、水の抜け具合が、まだら。

まあ、食べられぬことはないが。

残ったあと二本は、冷凍庫へ。