浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



三筋・てんぷら・みやこし

dancyotei2012-05-21



5月19日(土)夜



引き続き、土曜日。



焼鳥と焼いたアスパラで呑んで、転寝(うたたね)。



夜は、内儀(かみ)さんの希望で、
近所、三筋の天ぷら、みやこしへいくことに。


三筋、というのは、私の住む台東区元浅草の南東の隣町だが、
ご存じでない方も多いと思う。
江戸から続き、今でも存在している町名、で、ある。


歴史のある地名がほとんど変えられてしまっている
台東区では、珍しい存在といえるだろう。





以前に書いているので、そのまま引用してしまおう。


『幕府の大番組与力同心、御書院番与力同心の組屋敷があった。
三筋というのは、文字通り、その屋敷地に
南北に三本の筋(道)が通っていたから、で、ある。
今は、三本以上の路地があるが、以前の三本の路地は
ほぼそのままの位置にあるようである。』


拙亭からは歩いて6〜7分。


こんなに近くで、それもまわりは普通の市街地
といってよいところに、ぽつんとある天ぷらや、で、あるが、
どうしてどうして、あなどれない天ぷらを揚げる。


ご主人は湯島の老舗、天庄で修業された。


ここにくるようになり、有名店でも、わざわざ出掛ける
ことは、まったくなくなった。


内儀さんが18:30に予約し、10分前、
下駄を履いて、二人で出る。


白木の硝子格子を開けて入る。


入ったところはカウンター。
向こう側でご主人が天ぷらを揚げている。


若い衆に名前をいうと、カウンターの
一番奥の席に案内される。


ビールをもらう。
サントリーのプレミアム。


梅の定食。
4725円也を頼む。





ビール。


お通しは、オクラといか。
粘りが出ていて、うまい。


そう。


プレミアムモルツは味がかわったようである。
内儀さんなんぞは、前の方がよかったという。
ホップの香りなのであろうか、より爽やかになったような
気がする。私自身はこれはこれで、うまい。


さて。


すぐに、海老。





塩をつけて、口に運ぶ。


最近、自分でもよく天ぷらは揚げるが、
むろん、プロの揚げあがりは、まるっきり違う。


カラッと、ぷりぷり。


二匹。


頭もから揚げで出る。


次はいか。





今は、あおりいか。


鮨やでもそうだが、江戸前のいかは、すみいかに、
決まっている。


しかし、この時期はすみいかは産卵期前で、
あおりいかになる。


厚めの身で、柔らかさとあまみを兼ね備えている。


次は、きす。





自分で揚げると、きすは、柔らかく揚がってしまいがち。
むろん、カラッとしっかり揚がっている。


次は稚鮎。





時期のもの、で、あろう。


レモンを絞って、塩で。
ほろ苦さが、持ち味。


次は、穴子





ほくほくに揚がっている。



ここから野菜。


アスパラ。





その後、小玉ねぎ、蓮根。
(酔っぱらっていたか、撮るのを忘れていた。)


本来、江戸前の天ぷらでは、野菜は揚げなかった、
と、蔵前伊勢屋のご主人がいっていた。


そういうわけでもないのだが、私もあまり野菜は揚げないが、
むろん野菜天も、うまい。


特に、玉ねぎというのは、これほど
あまいものか、というのが
天ぷらではよくわかる。


一応のところ、定食はここまで。


店に来る前から、内儀さんが、ぎんぽ(銀方)、


が、食べたい、といっていたので、別にもらう。





こうして揚げてしまうと、穴子と見た目も
味もほとんどかわらない。


ぎんぽという魚をご存知の方はどのくらいおられようか。
私は、自分でも揚げてみてはいる


ちょうど、初夏のこの時期、御徒町の吉池にも
稀だが、並ぶことがあるのである。


長さ30cm弱の、やはり、うなぎや穴子の類のよう。
もともと江戸前の天ぷらではよく使われていたものだが、
獲れる量もさほど多くなく、また、穴子のように
目打ちといって、頭にくぎを刺してさばく。


天ぷら職人も面倒なので、あまり使われなくなった魚、
と、いう。


今日のものは、浜名湖産と、ご主人がいっていた。


あとは、ご飯。


私は、かき揚げ丼、内儀さんは、天茶を頼む。


待っている間に。


これ、なんというのであろうか。
店にかかっている“できますもの”が書かれた木札。





今、東京の天ぷらやでも、これが置いてあるところは
そう多くはないかもしれぬ。


鮨やでも、老舗系では同じものが掛かっているので、
やはり、昔からのもの、なのであろう。


鮨やは今はもう、ガラスの冷蔵ケースがあって、
たねが見えるようになっているが、以前は、
すべて仕事をしたものをにぎっていたので、
たねは、仕舞ってある。それで“できますもの”を
書いて出しておく必要があったのであろう。


そういう意味では、たねを並べない天ぷらやは、
今でも、立派に役目を果たしている。


私のかき揚げ丼。



内儀さんの天茶




かき揚げは、小柱。


小柱かき揚げも、江戸前天ぷらでは、定番中の定番。
最高、で、ある。



お勘定をして、帰る。



うまかった。


やはり、この味で、この価格、


間違いなく、安かろう。





みやこし