浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



浅草観音裏・京料理・江森

dancyotei2009-12-02

11月30日(日)夜



最近、ミシュラン東京の2010年版


ミシュランガイド東京 2010 日本語版 (MICHELIN GUIDE TOKYO 2010 Japanese)



が発売された。
どんな店が加わったのか、これにはやはり、
私も興味がある。


で、さっそく入手してみたわけである。
麻布、六本木、なんというところは、私には、
縁もないのだが、気になるのは、台東区のもの。
昨年までは、台東区では、観音裏の鮨や、一新、のみであった。


届いた2010年版をみてみると、台東区の店が
一軒増えている。


私の知らなかった店。
観音裏の、京料理、江森というところ。


なんでも、銀座の有名な京料理の店で修業され、同じく
銀座で独立、2007年に浅草観音裏へ移転された、とのこと。


最近も京料理づいているが、
これは、いってみずばなるまい。


日曜もやっている。
昼前、TELをしてみる。


夜二人、取れた。
ラッキー。
18時半から。
10000円のおまかせ、を、頼んでおく。


18時15分、例によって、春日通りでタクシーを拾い
内儀さんと出かける。


場所は、なんと、鮨や、久いちと、同じ路地。


言問通りから、入って、久いちより手前。
一本目の路地の角。


あー、そういえば、隣が中華や、で、
京料理の暖簾が下がっているのを覚えていた。


あった。


ガラスの大きなドアで、京料理、割烹というよりは、
もっとカジュアルな感じである。


入り、名前をいう。


店の中は、こじまりとし、カウンターと、
テーブル席二つ。


先客はなく、テーブルでもカウンターでも、お好きなところへ、
というので、カウンターに座る。


店は、ご主人と、女将さんのお二人でやっている。
ご主人は、白髪の七三分け、四角く柔和な顔が、
谷啓氏を彷彿とさせる。
お年は、五十半ば、か。


女将さんは恰幅がいい。
話を聞くと、根岸の生まれで、我々と同世代。
(だから、ここに店を開いたのか。)


女将さんが、電話番号から、もしかして、
お近くですか?というので、元浅草です、と、
説明する。
女将さんも、やっぱり、下町のノリ、で、ある。


ビールではなく、寒いので、お酒、お燗。
冷蔵庫に並んでいるのから選んでください、というので、
剣菱、に、した。


(料理写真の撮影可否を聞くと、
ネットに載せるなら、お断り、とのこと。
以前は、OKしていたのだが、
ちょっと嫌な思いをしたので、と、ご主人。
と、いうことで、写真はなし。)


最初に出てきたのは、茶碗蒸し。
最初に、というのは、いささか珍しいのでは。
匙を入れると、具はなし、で、さっぱりとしており、
うまい。
寒くなってきたので、前菜前に、温かいものというのは、
うれしい。


次、前菜、四点盛り。


からすみ、いか塩辛、秋刀魚巻き寿司、もう一品、
内儀さんと二人で記憶を掘り起こしたのだが、思い出せない。
からすみは、自家製だそうな。
秋刀魚巻き寿司は、西浅草の468で出てくるような、
巻き簾で巻いた、関西鮨で、多くは鯖(棒すし)だが、
それを秋刀魚にしたもの。


どれも、うまい。


次は、汁物。


かぶら汁、といって出された。
聖護院かぶらをおろして、汁に入れ、葛でとじてある、
のか。
先日、京都の祇園では、正真正銘のかぶら蒸し、を食べたが、
京都の聖護院かぶら、は、こういうふうに汁にするのも
あるんですよ、と、ご主人。


そして、出される前に、ジュッと、音がしていたが、
揚げたての魚の竜田揚げが入っている。
魚は、ほうぼう、と、いう。
ほうぼう、を食べたのは、初めて、かも知れぬ。
白身で、歯応えがあり、揚げ出し、ということに
なるのだろうが、汁に入って、また、飛び切りうまい。


蒸しもの。


白皮(しらかわ)蒸し、辛子餡かけ、といわれて出された。


白皮、とは、白甘鯛のこと、だそうな。
切り身の下に昆布が引かれ、うっすらと黄味がかった
餡がかけまわされている。


甘鯛というのは、以前に散々調べたことがあった。
甘鯛は実は、、早口言葉のようだが、赤甘鯛、白甘鯛、黄甘鯛
と三種類ある。


で、最もうまく、値も張るのは、白甘鯛。


ご主人が、甘鯛って、うまいですよね〜、と、仰る。
その通り。
べら棒に、うまい。
辛子餡は、ほんの香りがする程度。
あっさりと上品。


お造り。


すみいか、まぐろ赤身 赤貝、ほたて、きす昆布〆、うに、
の、六種。


京料理では、いかは、どうも、細かく包丁目を入れる、
というのが定番のようである。
468、のご主人がいっていたと思うが、包丁目を
入れれば入れるほど、あまくなる、んだそうな。


すみいかは、江戸前定番のいか、で、あるが、
こうするとまた、あまみが増す。


きす昆布〆は、細かく切ってある。
うにも、うまい。
ご主人が、自慢をされていたが、
みょうばんを使わないで流通しているもの、とのこと。


実は、このあたりまでで、1時間半程度は、
かかっていたと思われる。


ご主人一人の料理と、サポートの女将さん。
お客は、私達のすぐ後に入った、二人の計四人。
これは、なかなか、時間がかかるのである。


だが、我々はなぜだか、まったく気にならない。
はっきりいうと、時間を忘れていたくらい、で、ある。
なにか、友達の家にきて、喋りながら、呑みながら、
食べている。そんな感じ、なのか。


座った、カウンターの目の前に、圓歌師の本が置いてあり、
落語、お好きなんですか?なんて、聞いてみると、
うちは、割に、芸人さんがいらっしゃるんですよ、とのこと。
先のこぶちゃん、正蔵師もそうらしいが、特に、圓歌一門は
よくくる、という。


出てくる料理は、むろん、ちゃんとした、京料理
であろうが、ノリは、下町。
女将さんは、喋り始めると、とまらない。


次は、メインか。
鍋。


目の前に、カセットコンロが置かれ、土鍋。
出汁が張られ、蜆(しじみ)が、入れられる。
蜆は、宍道湖、と、ご主人。
粒が大きい。


どうするのか、見ていると、煮えてきて、
蜆が開いてくると、これは引き上げる。


ほ〜、出汁、ですか?


むろん、口を開けた蜆は、食べるのだが、
最初に張った出汁に、さらに蜆の出汁をプラスする、
ということ。


そこに、野菜。
水菜、肉厚の椎茸、そして、4〜5cmと長めに切った
九条ねぎ


で、野菜を煮ながら、霜降りの和牛をこの出汁で
しゃぶしゃぶ、に、する。


またまた、ほ〜。
これはご主人のアイデアらしい。


これは、京都祇園の黒七味を振って、食べる。
むろん、うまい。


牛肉を食べ終わると、ここに、なんと、下茹でしてある、
蕎麦を投入。
基本は澄んだ出汁に、蜆と、しゃぶしゃぶをした牛肉の味も
加わり、うまみのたっぷり出たつゆで、食べる。


先日の、祇園南座角の松葉屋のにしんそば同様、
澄んだ出汁で食べるそばは、京都風であろう。


東京の濃い出汁のそばとは、やはり、別の食い物。
うまい。


そして、蕎麦は食ったが、鍋とくれば
やっぱり、仕上げは雑炊。


飯を入れ、煮立て、軽く割りほぐした玉子を入れ、
ふたをし、火を止め、しばらく、待つ。


女将さんの合図で、食べる。


そのままでも、むろんうまいが、
ぽん酢でも食べてみてください、
また、違った味ですよ、とご主人。


玉子の雑炊を、ぽん酢で食う、というのは、
むろん初めて。なるほど、の、味である。


最後は、これも、ご主人自慢の、わらび餅。
練り立て。
きな粉と、黒蜜。


できたてのほかほかで、ふにゅふにゅ、やわらかい。


わらび餅、というのは、東日本の人間には、
馴染みがない。私も、一、二度は、食べたことがあるが、
氏素性など、まったく知らない。


ご主人の話によれば、山菜の、わらびの、根っこから
取る、と、いう。
大量のわらびから、ほんの少ししか取れないらしい。
で、きっと貴重なのであろう、ご主人は、その
本当の、わらびから取った粉を使って作っているとのこと。
へ〜。


最後は、ご主人が点ててくれた薄茶。
お上品。


6時半に入って、気が付いたら、10時前。
(例のボクシングも、既に終わっていた。)
3時間以上である。


遠くからきた人であれば、あるいは、呑まない人であれば、
間が持たぬ、かもしれぬ。


しかし、私達には、ご近所だからか、まったく、長いとは、感じなかった。


しかし、これだけ、寛いで、ゆっくり、うまいものを
たっぷり食えれば、なんの文句もない。
いや、ゆっくり、このくらいの長い時間をかけて、
話をしながら、飯を食い、呑むのが、
ほんとの贅沢かも知れぬ、と、思えてくる。


なん人まで、予約を取るのであろうか、
ミシュランに載って、大量にお客がくると
どうなるのか、心配になってしまうが、、。


お勘定をして、出ると、いつの間にやら、
雨であった。


捨ててください、どうせ古いビニガサ、ですから、
と、女将さんが、にこにこ笑いながら、
ビニール傘を二本渡してくれる。



ミシュラン一つ星、浅草観音裏、京料理、江森。
ご近所の我々には、日曜夜、狙い目、かもしれない。






台東区浅草3-9-10 キャピタルプラザ浅草
TEL:03-3875-5785




P.S.

一品忘れていた。

松葉がにのメス、で、あったか。

祇園阪川で食べた、コッペガニといっていたもの。

むろん、うまかった。