引き続き、三代目金馬師「居酒屋」。
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小「いの字は打てないんです~。」
客「そんなこと言わないで打ってくれよ~。
試しに打ってみろよ~。」
小「打てませんよ~。」
客「じゃ、その次のろの字は?。」
小「ろへ打ちますと、、
〇▽※~~~。」
客「ゴロゴロ~~つったな。」
小「ろは打てません。」
客「じゃ、ま、は?」
小「えー?
・・・、、。
まは打てないんです。」
客「じゃ、ぬ、だ。」
小「※×▽・・・。」
あんた、打てないの選(よ)ってるんですよ~。」
客「あ、は、は、は、はー。
ざま~~みろ。
なんでも打てますったろ。
打てねえもんがあんだろ?!。
一生懸命無理に打とうとツラぁ伸ばして、こんな顔しやがって。
は、は、は、は。
バナの頭へ汗かいてやがんな~。」
小「なんです?、そのバナって?。」
客「お前(めえ)の顔の真ん中のこんもり高いもん、なんだ?。」
小「こりゃ、鼻でございます。」
客「濁りが打ってあんじゃないか。」
小「こりゃ、ほくろですよー、あんた。」
客「あ、は、は、はー。
ほくろかー。
うまく二つあるなー。
俺ぁ、濁り打ったのかと思ったー。」
小「顔へ濁り打つ人ありませんよー。」
客「そーだろー。んなら横っちょにあるのはぼっぺただな?!。
上にあんのは、びたいだ。
お前(めえ)なぁ、顔じぇねーや、がおだ。そりゃ。
濁りだらけだ。
おもしろい、がおだなー。
元方(もとかた)現金に付き貸し売りお断り申し候、と
きたなー。
これ一人前持ってこい。」
小「そーーんなもんできませんよー。」
客「俺の喰いてえもの、みーんなできねえんだなー。
不自由な家飛び込んじゃったよ!。
酒の替わりだよ。」
小「ご酒替わり、いちぃ~~~~~~~~~~。
客「おい。ちょいとここへ来い。
帯ほどいて、裸んなって見せろ。
どっか、パンクしてるぞ。
へそがよく閉まってねーんじゃねーかなー。
空気が漏るよ、お前。
プシュ~~~~って、いうじゃねーか。
さっきの肴も一遍やってくれ。
ゴチョ、ゴチョ、ゴチョ、ピ~~~~~っての。
あれ、なん度聞いてもおもしろいからよ。」
小「突き当りの棚にも肴が並んでますから、ご覧なすって下さい。」
客「どこだい?。」
小「あすこの棚に。」
客「あすこ?
あんなとこまで行くのめんどくせえじゃねーか。
じゃー。あの棚、ここへ持ってこい。」
小「持ってこられやしませんよ。そんなもん。
そっから、ご覧なすって下さい。」
客「おい!。右上の真っ赤になって、ぶる下がってるのはなんだ?。」
小「どれです?」
客「右の隅っこに赤ぁーくなってぶる下がってるの。」
小「ありゃ、たこです。」
客「あのたこ生きてんのか?。」
小「いやー、生きてやしませんよ。」
客「死んじゃったのか。」
小「さよでございます。」
客「んー。気の毒な事したなー。
ちっとも知らなかった。
いつ死んだよ。」
小「わかりませんよー!。
たこの死んだんなんて。」
客「はがきの一本でもくれれば、お通夜に行ってやったのに。
とんだことしちゃったなー。
老少不定(ろうしょうふじょう、老人でも子供でも誰が死ぬか
まったくわからないこと)であきらめるんだなー。
真っ赤だなー。」
小「う(茹)でたんです。」
客「うでると、あーいう風に赤くなんのか?。」
小「海老でも蟹でもたこでも蝦蛄でも赤いものは、なんでも
うでたんです。」
客「赤い物は、なんでも?。
猿のケツはうでたのか?。」
小「あんなもの、うでる人ありませんよ。」
客「赤い物はなんでも、って言うから聞きてえんだよ。
電車の停留所の柱、誰がうでたんだ?。
小「あんなもの茹でられるものですか。」
客「足はなん本だ?。」
小「八本あります。」
客「偉いな~。
流石ぁ、商売人だ。
勘定しないで、すぐに八本ありますって、偉い!。
え(い)ぼはいくつだ?。」
小「えぼなんかわかりませんよ。」
客「なぜ、勘定しとかねーんだ。
そろばんで弾きゃぁわかるだろう。
たこに、えぼ足して、十、とかなんとかよ。
たこは、なんにすんだ?。」
小「酢にいたします。
酢蛸でございます。
桜煮もございます。
持ってまいりますか。?」
客「いらないよ。
聞いた、だけだよ!。
気が早ぇなぁー。
俺ぁ寒気がしてきたよー。そんなら。
酔えやしねーよー。
あの隣に、こんな大きな口の赤い肌の魚、ぶる下がってるの
なんだ?。」
小「どれです?。」
客「あの隣によ。だらしがねーのよ。」
小「あー、あんこうです。」
客「あんこうー?。
なんにすんだ?。」
小「鍋にします。あんこう鍋。」
客「あは、は。
あの隣に、印半纏(しるしばんてん)着て、鉢巻きして、
出刃包丁持って、こう、考(かんげ)えてるのなんだ?。」
小「あれぁ、うちの番頭でございます。」
客「あれ、一人前持ってこい。
バンコウ鍋ってこしらえてくれよ。」
居酒屋というお噺でございました。
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これでお仕舞。
つづく