浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



浅草橋・向柳原・手打ちそば・さかき

4542号

4月9日(火)夜

さて。また、そば。
そばシリーズ?。

先日、南稲荷町の[志づや

というところに行ってみたが、私の分類で“趣味そば”
に入るところ。

[さかき]はご近所ではないが、遠くもない。

某サイトで評価3.65。評判は、まあよさそう。

“趣味そば”といっているのは、藪や砂場といった在来、
老舗系でもなく、その暖簾分けの町のそばや、でもない。
手打ち、そば粉にこだわり、等々。
そば前などといって、つまみ、酒も店主の趣味が
色濃く反映されている。

どこかの名のある“趣味そば”、あるいはちゃんとした
和食の修行をされて、開店されているところもあるが、
正直、脱サラ?なのか、そばだけはどこかで習った
のであろうが、それ以外のつまみは素人料理、なんと
いうところもあり、玉石混交、というのも事実であろう。
(まあ、そういうところは淘汰されるのだが。)
そして、有名店といわれるところは、店主がなにか
教祖のようなカリスマになり、お客は信者、なんと
いうところも、、。これでは信者以外のお客にとっては
とても客商売とはいえない。

まあ、そこまでわるく言うこともなく、もちろん、
ミュシュラン掲載店もあり、味もサービスもちゃんと
しているところも多数ある。だが、あまり私とは相性が
よくはない。

なぜか。
まず、そば、というのは、江戸東京の伝統的食文化
である、ということ。
毎度書いているが、歌舞伎 「雪暮夜入谷畦道」。

直侍(なおざむらい)という不良御家人が主人公。
その入谷そばやの場。
河竹黙阿弥作、五代目尾上菊五郎が直侍。
初演は明治初めだが、五代目菊五郎と黙阿弥が、江戸人の
美学を詰め込んだ作品。そばやでどう振る舞えば粋なのか
を見せていた。
台詞だけだが、天ぬき、などの“ぬき”も登場する。
これには、もちろん、店は客にどう対応するのか、
というのも決まっていた。
直侍が店に入ると、店の爺さんに「天(ぷらそば)で
一本つけてくんな」と声を掛ける。
燗酒とそばを同時に頼んでいるのである。
同時に頼むと、店は酒を先に出し、客の酒を呑む
タイミングをみて、そばを出す。
酒にはちょいとしたものだが、そば味噌を出す。

江戸東京でそばを喰うことは江戸東京の大人の男の
スタイルであり文化であった。

私が社会人になって一人でそばやに入るようになった頃、
今から35年、40年前の東京の町のそばやにもまだ、その
雰囲気は残っていた。
それで私は、これは勉強しなければ、と東京の大人の
男の作法が書かれている、池波正太郎作品を一生懸命読む
ことになったのである。江戸落語も然りである。

そばやに限らないが、酒は、常温ではなく、冷(ひや)、
なんというのも、それである。

それが、私が作法を憶えた頃、気が付くと、もはや店からも
客からも、同時進行でなくなっていた。

その最たるところが“趣味そば”ではないかと、私は
思っている。
最初から、老舗系の暖簾でもなく、独自に店を開いたので、
東京のそば食のスタイルを受け継いでいない、と。

まあ、ここに書いているように、今となっては老舗からも
ほぼ消滅しつつあるのを最近とみに感じ、もう諦めざるを
得ないのか、と、考えるようになった。遅まきながら。

ともあれ。

浅草橋[さかき]で、あった。
左衛門橋通りからJRのガードの北側のビルの脇を
西に入ったところ。

今日は夜。7時半頃行ってみた。

意外に狭い店。蕎麦打ちのスペースがあり、奥に
カウンター席とテーブル席。夜だからか、客は三組ほど。
カウンター手前に掛ける。

お酒お燗。燗にお勧めの酒、京丹後市、弥栄鶴、山廃純米。
ぬる燗で。つまみは、三品ののったつまみセットのような
ものを頼む。そばは、後。今は、どこのそばやでも、
こう頼まないと、いけなかろう。

酒がきた。

ここも、酒のみ。お通しはなし。
外のお嬢さんはいるが、調理場はご主人一人のようで、
先の注文があるので遅れます、とのこと。

一杯、二杯呑んでいるとつまみもきた。

酒は、キリっとした辛口。

つまみ三種は、左がちりめんじゃこと山椒の炊き合わせ、
真ん中が穴子煮凝り、右が卯の花

卯の花、煮凝りはうまいのだが、ちりめんじゃこは
山椒の香りがかなり強い。

呑み終りが見えた頃、せいろを頼む。
十割もあるが、ノーマルな二八を。

きた。

薬味はおろしとねぎ。
わさびをつけると、別料金のよう。

お嬢さんは、二八が切れたので、十割です、とのこと。

最初はそばだけで食べてみるが、私にはやっぱり、
どう、というのは、わからない。

そばは、気持ち太目で、白っぽいか。
腰が強く、よい喉ごし。
つゆの濃さはノーマル寄りだが、気持ち薄め?。

そば湯もきた。
ん!?かなり、とろみの強いもの。

これ、もしかすると、両国の[ほそ川]?。
お弟子さんか。

うまかった。

勘定をして、出る。
そばも上々、腰も低く、居心地もよい。
そばやは、もうこういうもの、と、思えばよい、
のであろう。

 

さかき

台東区浅草橋4-10-2 稲垣ビル 1F
03-4285-1192

 

 

 

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