浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



浅草・並木 藪蕎麦

4月11日(金)夜

今日は例によって、栃木からスペーシア
浅草まで戻ってきた。

7時すぎ。
なにを食べようか。

並木の[藪蕎麦]へ寄ってみようか。

今日も冷たい雨がぱらついているが
寒く、はっきりしない天気が続いている。

この雷門の界隈も、ここ数年スカイツりーの開業に
合わせてか、少し変わってきた。

特に雷門前の並木の通りと隅田川沿いの蔵前通り
江戸通り)の間の三角形の区画。

雷門前で客引きをしているご存知の人力車やだの、
舟和のカフェ、資料館風の江戸風でちょっと洒落た
ショップのようなものができたり。
建っているマンションもエントランスなど
きれいで落ち着いた和モダン。

(江戸の地図)




この三角地帯は江戸の頃から、変わっていない。

前にも書いていると思うが、以前は雷門の門前である
この並木の通りは、観音様へのお参りの正面玄関で
料理やや寄席などが立ち並びにぎわっていた。
東武や地下鉄の駅が吾妻橋側にできてあちらが
浅草の玄関になったことで、こちらは正面であるが、
正面らしからぬ通りの佇まいになっていた。

これで並木の通りをはさんで反対側の[藪蕎麦]側も
観光客を含め多く人が流れているはずである。もう少し店が
できてもよいかもしれぬ、

浅草も新仲見世などはまだ旧態依然であるが、
六区の再開発も進んでおり、スカイツリー以降、
少しずつ変わってきている。
浅草の本質、なにやら多少のいかがわしさのようなものを
含んだ活気のある盛り場であることはおそらく変わらぬように
思うのだが、なんにしても浅草が元気になってくれるのは
よいことである。

さて。

[藪蕎麦]の格子を開けて入る。

座敷もテーブルもあいている。

どちらにしようか。

いつもなぜか、テーブルが一杯で、座敷に上がっている。
たまにはテーブルにしようか。

座ると、例によってお姐さんがスポーツ新聞を置いてくれる。

お酒、お燗。

眺めるともなく、新聞を眺める。

お、そうだ、板わさももらおう。

奥にいる、お姐さんに、

すみませぇ〜ん、板わさ!。

はぁぁ〜い。

板わさ付きで、お酒がきた。



香りのよい、菊正の樽酒。
温められて、樽の香りは心持強くなる。
熱くもなく、ぬるくもない、いわゆる上燗というやつ
である。

ただお燗といえば、これを出すものであろう。

お燗というと、なんでもかんでも、熱燗ですか?
と聞く店がほとんどの今の世の中、まったく希少である。

しょうゆを入れてある、この小さな器。
これがまた、乙ではないか。

わさびの小皿にしょうゆをたらし、
蒲鉾を箸でつまみ、小皿へ。
わさびを蒲鉾につけて、口に運ぶ。

わさびの香りが、鼻へ抜ける。

蕎麦やというの、むろんのこと、本わさびがある。
この本わさびだけをなめながらでも酒が呑めるというもの。




ゆっくりと一合を呑んで、蕎麦。

おっと。
7時半だ。暖簾を仕舞いはじめた。

早く頼まねば。寒いし、鴨南蛮がよろしかろう。

お姐さんに、またまた、遠くから、

すみませぇ〜ん、鴨なん〜!。

あぁ〜、すみませぇ〜ん、鴨なんは三月一杯でお仕舞いなんですぅ〜。

げっ、、、そうかぁ〜。

こう寒いと、まだまだ冬のものをやってほしかった。

仕方ない。
じゃ、かけ、で。

きた。



いさぎよいくらい、なんにもない、かけそば。

だがまた、わさびが添えられているのが、よい。

箸の先につけ、蕎麦をつまみ、たぐる。

蕎麦の香りと、出汁、わさびと、三位一体となって
堪えられぬ、うまさ、で、ある。

うまい、うまい。うまいし、温まる。

ここはかけでも、蕎麦湯を出すが、私は薄めずにそのまま、
つゆも全部飲み干す。

ご馳走様でした。

席で勘定をして、出る。




二階は使っていないと思うのだが、灯りがともっているのは
なぜであろうか。

03-3841-1340
台東区雷門2丁目11−9