浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



資生堂パーラー銀座本店

4258号

1月15日(日)夜

日曜日。
夕方、有楽町に用があった。

夕飯を銀座でと考えた。
銀座で夜飯を食うとなるとなんであろうか。
日曜の夜というのは、銀座のそこそこ多くの店が休み。
まあ、あまりあてもないのだが。

それで、思い付いたのがここ。
資生堂パーラー銀座本店。かなり久しぶり。

むろん、池波レシピ。

「散歩のとき何か食べたくなって」(新潮文庫)

その冒頭が、ここ「資生堂パーラー銀座本店」である。

先生が小学校を卒業し、株やの小僧になり
海軍へ行くまでのティーンの頃の思い出がすべて
ここに凝縮されている。
時代は太平洋戦争直前である。

戦争直前で、この頃の十代の若者など、今の我々など
軍国少年に育てられ、時代も暗いと思ってしまうが、
暗い部分も皆無ではないのであろうが、ほぼそんなことはない。
東京で2・26事件が起きても。
前にも書いたが株で儲けたお金をたっぷり持って
吉原へも行くが「物資がありあまっていた当時の日本の
モダン風俗で充満していた」銀座の資生堂パーラーなどへ
行っていた。

資生堂パーラーの洋食を、先生は、先生の地元である
上野浅草、下町の洋食と比べてモダンで、新鮮で清潔、
と評している。
また「全盛期の名手・美空ひばりが唄ったジャズ・
ボーカル」で「私の小説も願わくば、かくありたい」と。
定食は一か月毎夕通っても飽きさせない、と。
当時のパーラーのチーフ(料理長)の言葉として
「味は日本人の舌に合ったものを・・・そして、盛りつけは、
私の料理の根本は日本風の清らかさ…」と書いている。
清潔で清らかな飽きさせない上質なプロの仕事。

さて。
前日予約をして、予約より30分早い17時になりそう。
直前にTELは入れて置いた。
レストランは4、5階だが、階下にも案内がある。
そこで名乗る。
お待ちいたしておりました。どうぞ、4階へ。
エレベーターであがる。

また受付があって、コートを預け、テーブルに。

奥の窓際のテーブル。
ビールを頼み、私は決まっている。
もちろん、カニコロッケ(クラブクロケット)と
チキンライス。資生堂パーラーすべてが、池波レシピ、
といってよいだろうが、特に先生が好きだったのは
この二品。私も好物。

内儀(かみ)さんは「マンスリーシェフのお薦め」
福岡県糸島市産“みるくかき”のフライ。
どちらもサラダ、スープの付いたセットにしてもらおう
と頼んでみた。
すると、クロケットとカキフライをメインにした
セットでパンを付け、チキンライスは二人でシェア
なさったら、と。
なるほど。そういうことですね。
じゃ、それでお願いします。
行き届いている。

こういうことは、店の方が仕組みをよく知っているので、
あたり前のことだと思うが、木で鼻をくくったような
対応をするところのなんと多いことか。
これが、サービスということであろう。

ビールがくる。
ここは小瓶で、ウェイター氏がグラスに注いでくれる。
頼んだのはキリンラガー。
一本が一杯にぴったり注げるようになっているのだが、
一気に注ぎ切り、ちょうどよく泡を立ててピタッととめる。
瓶にまったく残さない。もの凄い技、なのである。

今日も、ぴったりととめた。
見よ、このこんもりとした堅そうな泡。

以前、ウェイター氏に凄いですね、とほめたことがあるが
いえ、たいしたことないです、と謙遜されていた。
だが、どの方でも百発百中。あふれることはむろんないし、
足らなかったりしたことも、見たことがない。
まあ、あまり褒めると、緊張されてしまう、のかもしれぬ。

パンがきた。

むろん、温かい。

スープがきた。

かぼちゃのポタージュ。
濃厚。

この皿。下に飾り皿があって、金の縁取り、上、中央に
同じく金の資生堂ロゴマーク
今は、化粧品などではこのマークはもう使っていないが
パーラーでは依然使っている。クラシックでよい。
また、清潔というキーワードがあったが、清潔かつ
ゴージャスであろう。

真打、クラブクロケット登場。

勾玉型。下に敷かれているのはトマトのソース。
クロケットは、クリームに蟹の身。
クリームは濃厚。上の緑は、揚げたパセリ。

内儀さんのカキフライ。

一つもらって、食べてみる。
小ぶりだが、なるほどクリーミー
タルタルソースは梅が香る。

食べ終わるころ、チキンライスの薬味がくる。

これ、名物といってよいだろう。他で見たことがない。
福神漬け、右らっきょ、左下が玉ねぎのしょうゆ漬け、
みかん(お馴染みのあれ)。
玉ねぎが珍しかろう。これうまい。

サラダ。

ドレッシングは和風かフレンチだが、フレンチ。
酸っぱすぎないのが、よろしい。

そして、チキンライス。

目の前で、銀の器から取り分けてくれた。

このレシピ、前に聞いた記憶があるが、鶏肉を
別にトマトソースで煮ていたか。
日本一高いチキンライスかもしれぬが、
手間はかかっているのである。

以上。

ご馳走様でした。席で会計。
二人でビールも入れて18,590円也。会計も流石。
だが味も、サービスすべて稀有なレストラン。
いつもでも続けいてほしい。

 


資生堂パーラー

 

 

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