浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



高座扇〜入谷朝顔市〜「子規の音」〜

dancyotei2018-07-11



7月7日(土)昼


午後、浅草にちょいとした買い物があって、自転車で出る。


買うのは扇子。


もう梅雨も明けて、しばらくたつので、既に使い始めてもいるし
既に買ったばかりのものをなくしてもいる。


以前にも書いているが落語を演ずるということもあって
日常使う扇子にも多少の気を使っている。


扇子というのは百円ショップやらコンビニでも売っているが
普通に売られている扇子と私が普段使っている扇子は
根本的に違ったものである。



これは落語家が高座で常用する扇子。
高座扇と呼ばれているもの。


一般に使われているものと根本的に違っているのは
骨の数と形。


まず骨の数が少ない。
普通の扇子は隙間なくびっしりとあると思うが、
随分と隙間があるのに気が付かれよう。


もう一つは閉じたもので見るとよくわかると思うが
先へ行って、広がっていること。
普通の扇子は先へ行って細くなっている。


おまけだが、ピロピロとした野暮な紐はついていない。


この形は、江戸扇子などと呼ばれることもあるが、
明治以前から使われていた形。
今の一般的な形は、明治になって細くして洋装に合わそうと
京都の扇子やさんが作り始めたものだそうである。
従って、江戸扇子といっても、京都でも今も作られているし、
江戸・東京の専売特許ということもないはずである。


落語家が使う、上の高座扇もこの形であるし、
囲碁、将棋の棋士が対局中にパチパチさせている扇子も
落語家の高座扇よりも少し長いが、同じこの形である。


私は、基本、この昔の形のものしか使わない。
形がよいし、ものにもよるが、開け閉めの時に和紙がすれる音と、
竹が発するパチパチとする音がよい。
普通の形の扇子では基本よい音はしなかろう。


真っ白な高座扇も普段に持ち歩きもするし、この形で
柄や絵、色無地などなども売られているので、買って
使ってもいる。
今年既に失くしたのもその“江戸扇子”の形で日本橋高島屋で買った、
伊場扇の富士山柄のものであった。(といってもたいして高価なもの
ではないが。)


最初に書いたように、私の場合扇子はよく失くすし
毎日持ち歩いていると、汚れてもくるので、
基本消耗品と思っており、高価なものは買わない。


それでシーズンの初めには、そのシーズン分として
高座扇をまとめて買っておく。


今日は、それでその買い出し。
高座扇はいろいろなところで売られているが、
私は、浅草の[文扇堂]のものが最も音がよくて
決めて買っている。


[文扇堂]は仲見世の西の脇。
三本調達。
以前は高座扇は1000円であったと思うが、今は2000円ほど。


さて、ここから入谷にまわる。


今日は、七夕。


この界隈では、入谷の朝顔祭である。
(ついでに、合羽橋本通りの七夕祭りでもあるが。)


浅草から入谷まで、言問通りを真っすぐに西。


鬼子母神門前の言問通り朝顔を売る屋台店が
ている。

なかなかの人出。

もちろん朝顔なので、朝こないと、
このように、もはやほとんどの花はしぼんでいる。


鉢植えは昔は買ったこともあるが、むろん咲くのはきれいだが
草花であるし、どんどん育ち、世話がたいへんなので
今は買わないことにしている。
鬼子母神さまだけ、お参り。


入谷の朝顔市は毎年、七夕に決まっており、
ウイークデーだとまずいけない。
(多くは梅雨真っ盛りでもあるし。)
元浅草の拙亭近所の家の玄関先などに朝顔の鉢植えが
置かれているのを見て、あ〜、七夕だったんだ、
と気が付くのである。


銭湯で聞く 朝顔のうわさかな 子規


毎度この話になると引用している、この句、
まさに、実感なのである。


俳人正岡子規はこのすぐそばの根岸に住んでいたし、
同じところに復元された子規庵は今もある。
結核明治35年34歳で亡くなっているが、亡くなったのも
この子規庵。


ちょっと余談になるが、ついでに今読んでいる
「子規の音」という本のことを少し書いてみたい。


子規の音


著者は森まゆみ氏。


あの「谷根千」の方。


なん年か前から、正岡子規のことがとても気になっている。
きっかけはNHKのドラマ「坂の上の雲」であったか。


子規の俳句は、この根岸に住んでいた関係で
根岸はもちろん、上野、浅草を詠んだものが数多い。
なん回か引用しているが、豆腐料理の[笹乃雪]。


蕣に朝商ひす笹の雪 子規


「蕣」で朝顔である。


子規といえば、松山の人と思って、それまであまり
意識になかったが、まあ、地元の俳人といってもよいわけである。


そして著者の森まゆみ氏。
もちろん「谷根千」を出されていた方で著名な方
ではあるが、個人的には「谷根千」には距離を感じていたのが
正直なところであった。




つづく





文扇堂
台東区浅草1丁目20-2
03-3841-0088