5月19日(火)夜
(先週から引き続いて、名古屋出張。)
今日は一つ、久しぶりに、ひつまぶし、を食べて帰ろうか。
名古屋のひつまぶしというのはうまいものである。
うなぎの蒲焼というのは、日本中にあるようだが、
実際にはある程度決まった地域のものといってよろしかろう。
一つは東京、埼玉。
江戸期、寛政年間(1790年頃)蒸して焼いた蒲焼が
江戸で生まれたといわれている。
下町を中心にうまい店も多く、
にぎり鮨、天ぷらと並んで江戸・東京の名物であろう。
また、江戸にも近く荒川や利根川が近く、奥州街道沿いの
浦和、大宮なども昔からうなぎは名物であった。
蒸して焼く江戸方式は地域としては、西は静岡県浜松まで。
豊橋からが、蒸さない関西式になる。
関西式といっても、大阪ではうなぎ蒲焼は
なぜかあまり食べられておらず、中心は名古屋。
また、うなぎを名物にしているのは、もう一か所、
西に離れて福岡県柳川市であろう。
私は残念ながら食べたことはないが、こちらは
せいろ蒸しと呼んでおり、関西式に蒸さずに焼いた蒲焼を
錦糸玉子とともにご飯にのせて蒸したもの。
名物にうまいものなし、などとはいうが、
名古屋のうな丼やひつまぶしは、
東京の蒲焼に慣れた者が食べても、抜群にうまい。
私は30代の頃、数年名古屋転勤を経験したが、
地元の人々もうなぎは大好き。有名店には長い行列が絶えない。
やはりこういう環境で、味は洗練されてよりうまいものになっていく。
これが食文化というものであろう。
名古屋のうなぎといえば、うな茶も楽しめるひつまぶし、
なのだが、むろん普通にはうな丼も存在している。
ウィキペディアによればひつまぶしが生まれたのは
諸説あるらしいが、そう古いことではなく、
明治、あるいは大正の頃のようである。
名古屋に住んでいた頃は、中心部の納屋橋あたりにあった
古びているが安くてうまい家に通っていたのだが、閉めてしまい、
その後は駅に近く便利な名鉄百貨店上にある
[まるや本店]へ行っている。
時分どきにはここも長い行列になるが
夜には少し早い時刻で、待っているのは二組。
さほど待つこともなく、入れた。
しかしこんな時刻でもほぼ満席とは、すごいものである。
ひつまぶし上、3,065円に瓶ビールを頼む。
ビールがきて、まず一杯。
今日も暑かったので、この一杯がうまい。
呑みながら、待つ。
いよいよ、きた。
木製のお櫃に入り、ふたを開けると
蒲焼は名古屋式にざくざくと切られている。
飯茶碗。
漬物、肝吸い。
漬物は奈良漬けにきゅうり、大根。
店名入りのアルミの袋に入った刻み海苔。
手前の三つの小皿は薬味で、左からねぎ、真ん中は
色が飛んでしまったが、本わさび、右が刻んだ大葉。
最初は蒲焼だけををつまんで
少し残っているビールを呑んでしまう。
蒸していないのでパリッとしているのであるが
むろん硬いわけではない。
そして、次に飯茶碗によそって海苔、大葉を
まぶして食べる。
東京などはせいぜい山椒を振るだけであるが、
こうして、いろいろな薬味を用意しているのは
やはり名古屋式であろう。
目先も、彩りも変わり、うまいうまい。
二杯ほど食べて、メインイベント。
テーブルのボタンを押して、お姐さんを呼んで
出汁を頼む。
ここに限らず、名古屋でひつまぶしを頼むと、
うな茶用の出汁は冷めることを考えて、
後から運ばれる。
こういうサービスも名古屋特有のものかもしれない。
いや、例えば東京でも蕎麦やでは蕎麦湯は、
食べ終わる頃を見計らって出すものであるが、
忘れられつつある配慮かもしれない。
茶わんによそい、出汁を注ぎ、海苔、ねぎ、大葉に
わさびも溶いて、うな茶に。
落語「居残り佐平次」にも出てくるが
東京にも以前はうな茶という食べ方があった
のかと思う。しかし、今の東京の蒲焼に
出汁をかけても食べても、うまいうな茶には
ならない。蒲焼のたれの味が出汁に抜け出し、
蒲焼自身の味が薄まってしまうのである。
名古屋の蒲焼のたれは、たまりしょうゆを
使っており、東京のものよりも断然濃く、
出汁にも負けないのである。
名古屋の、うな茶も含めたうまいひつまぶしは
たまりじょうゆのたれがあってはじめて
成立しているものなのであろう。
出汁をかけても、味が薄まらない蒲焼を
飯とともに、すすり込む。
最高である。
大満足の、ひつまぶし。
ご馳走様でした。
おいしかったです。