浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



浅草・並木藪蕎麦

9月27日(火)夜

例によって栃木からスペーシアで浅草まて戻ってきた。

19時15分着。

道々、なにを食べようかずっと考えてきた。

今日の結論は、久しぶりに並木の[藪]蕎麦。

やはり、少し涼しくなるとのぞいてみたくなる。

19時半閉店なので急がねばならない。

急ぎ足で改札を抜け、エスカレーターを降り、
外に出る。
東武浅草駅の正面、右手、雷門方向の信号は運よく青。
掛け渡り、神谷バーの角を右に折れる。
車道に出て、車が来ないのを確認し、斜め横断してしまう。

雷門の交差点、ここも青。
よし、渡る。

並木通り、右側の歩道を急ぐ。

あれ?[藪]蕎麦のあたりが、暗い。
看板の灯りが消えているか。

休み?、早仕舞い?。
いや、ここは閉店近くなるといつもこうであったはず。

店前に到着。

ん!。
よかった。
暖簾は出ている。

暖簾を分けて、硝子戸を開けて入る。

一人、と指を出し、大丈夫ですか?と聞く。

7時半までですが、と、お姐さん。

はいはい。

よかった。

入れ込みの座敷もあいていたが、時間もないので、右側のテーブル席。
一番奥の、菊正の樽の前。

お姐さんに、冷(ひや)で一合、と、頼む。

涼しくなったので、鴨なん、あるいは、鴨ぬき、とも思ったのだが、
鴨なんはもっと秋が深まった、11月から。

そうだったよなぁ〜、と思いつつ、壁に貼られた品書きを確認。
やっぱりないよなぁ。
なければ、天ぬき、と、決めてきた。

お姐さんが、忙しげに、えっと、なんにされますか?と聞く。

天ぬきとざる一枚。

はい。

注文を調理場へ通す。

ヌキ一丁〜。

天ぬきというのは、天ぷらそばの、そばヌキ。
かき揚げが温かいつゆに浮いているもの。
これで、酒を呑む、のである。

お姐さんの発する、ヌキは、ヌにアクセントがくる。
ちょっといいではないか。
(今度使おうかしら。)

鴨なんも、鴨ヌキになるので、ただヌキだと
どちらかわからぬということもあるが、
そういうわけで、鴨なんは今はないので、
ヌキといえば、天ぬき、ということでよい、
のであろう。

お酒がきた。



樽の香りがする、お馴染みの菊正。

ヌキもきた。



出汁のよい香りかただよう。
食べ慣れない田舎の人などは味が濃くて出汁が薄い、などと
ここのつゆに文句をいうが、そんなことは決してない。
(つけ汁であっても、そば湯で割れば、出汁はきちんと
感じられるはずである。)
だがまあ、どちらにしてもこれが東京浅草、並木藪のつゆなのである。

レンゲでつゆとかき揚げをちょっと崩して、
口に入れる。

うひゃ。
舌が火傷するほどの熱さ。

いつもはここまで熱くはなかったようには思われる。
お仕舞いで、出来上がり次第出してきた、という
タイミングであろうか。

藪蕎麦の天ぷらは基本、芝海老のかき揚げである。
この衣をふやかせて、すする、のである。
決して上品なものではないのであろうが、
これがうまい。

そしてこの濃いつゆの天ぬきには、辛口の菊正が
なくてはならない。

食べ終わり、呑み終り頃、いわずとも時間差で
ざるを持ってきてくれる。



やはり、さすがに仕舞い際(きわ)で、既に作ってあったようで
ちょっと、くっつき気味。

そば湯もきた。
これもやっぱり、どんなに急いでいても、
同時には出さないのが、流儀であり、配慮であろう。

さっ、さっ、とたぐる。

最後の客になってしまった。

お姐さんの代わりに、にこやかな笑みを浮かべたガタイのいい
若旦那が立っていて、お勘定を、というと、小さなざるにのせて
勘定書きを持ってきてくれた。

すみません、仕舞い際で、、、と。

3,000円也。

いえいえ、こちらこそ、こんな時刻にすみません。

ご馳走様でした。

ありがとうございます。

かなり慌ただしかったが、充実の並木藪、で、あった。


03-3841-1340
台東区雷門2丁目11−9