浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



牛ぬき?

dancyotei2015-04-12



4月8日(水)夜


どうしたことであろうか。
この寒さは。


都心でも朝から霙(みぞれ)交じりの雨で
多摩やら埼玉やら、郊外では雪になった。


東京で4月に雪が降るというのは2010年以来
5年ぶりだそうで、そう珍しくもないということか。


今日は厚いコートにマフラー、手袋までした
格好になった。


この4月の雪は、私などは、井伊大老が暗殺された桜田門外の変
思い出した。当時の浮世絵などを見ても、雪景色の中、
大老の駕籠が襲われている。
あれは、旧の3月3日で、新暦だとこの年は3月24日だそうな。


花嵐(はなあらし)と前号で書いたが、
4月に大荒れの天気になるというのは、
調べてみると、ままあることのようである。


東京など太平洋側で雪が降る原因の低気圧は、
以前は台湾坊主と呼ばれていた。
東シナ海で発生して強力に発達して日本列島の南岸を進む。
今は南岸低気圧といわれているようである。
発達しながら、北から寒気を呼び込む。
これは1月から4月にかけて現れるようで、真冬の雪もコヤツのお蔭だが
4月になっても発生するようで、それが季節外れの雪や、花見時分の
花嵐を生んでいるようである。


さて、もう一つ。


花嵐という言葉のこと。


花嵐なんというのは、あまり今は使わないが、
なにがしかの風情を感じさせる。


私がこの言葉を知ったのは落語「お化け長屋」から。
(マニアの方、どこに出てくるかおわかりであろうか。)
まあ、落語を聞くと、こんな言葉も憶えられる。


ともあれ。


夜。寒いので、なにか温かいものがよい。
この冬も作ったが、鴨肉を買って、
鴨ぬきを作ろうかと思い付いた。


具入りのつゆ、ということなのだが、
これで酒を呑むのはうまいもんである。


と、そこでなにかバリエーションを考え始めた。
鴨肉を鶏に替えて、というのも一度やってみたが、
これでも、十分にうまいものができる。


天ぬきというのもあるが、
ようは、脂のある肉ならばよいのか?、
このことである。


○○ぬきシリーズ?。


豚肉ではどうか?。例えば豚ばら


あるいは、牛では?。


豚でも牛でも、甘辛のつゆにはむろん合う。


どちらも行けそうではないか。


帰り道、牛込神楽坂駅隣のスーパーに寄る。


肉売り場で、牛の霜降りだが、カレー用というのが
比較的安くあった。
これでやってみようか。


あとは三つ葉と、油揚げも。


帰宅。


作る、というほどのことはない。


つゆはいつもの桃屋のつゆ。


ねぎを切って、油揚げも一枚短冊に切る。


三つ葉も洗って切っておく。


おっ。内儀(かみ)さんが買ったしめじがあった。
これも入れようか。
きのこ類もこれには合う。


鍋に桃屋のつゆを入れ、水と酒を入れ伸ばす。
ねぎ、油揚げ、しめじ、それから牛肉。煮立てる。


弱火にして軽く煮込んで、ねぎが柔らかくなれば
OK。


三つ葉を丼に入れてその上からつゆを注ぐ。


出来上がり。





燗酒ではなくて、やっぱりビール。


う〜ん、わるくはないのだが、
脂がもう一つ。


この○○ぬきは、やはりたっぷりと脂が出ていなければ
成立しない。


霜降りの牛肉であったが、軽く煮込んだだけでは
やはり脂が出るほどではなかった。


そば、うどんには、関西では牛肉は入れるが、
東京では牛肉や豚肉は入れない。
これはなぜであろうか。


江戸の頃の獣食をタブーにしていたのが
東京では残っていると見るべきであろう。


甘辛のつゆと牛肉はむろん、すき焼きの
例を引くまでもなく、相性はよい。


牛でやる場合は、鴨ぬきのように、脂身だけを
別に煮出すくらいのことをしなければいけないのか。


また、牛肉というのは、焼けば脂が出るが、
短時間煮るということでは、つゆに脂が
溶け出しにくいのかもしれない。


今度、豚でもやってみようか。