浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



池の端藪蕎麦

6月15日(土)夕

さて。

土曜日。

晴れているが、蒸し暑い。

夕方、内儀(かみ)さんとともに、久しぶりに
池の端藪へ行ってみようということになった。

本当に真夏だと、蕎麦でもない、ということになるが
蒸し暑いことは蒸し暑いのだが、風通しのよい座敷では
そこそこしのげる気候ではある。

4時すぎ、短パンに上はアロハ、下駄履きで、出る。
徒歩。

白鴎高校の前の道を真っ直ぐに西へいく。
この通りは、細い通りだが、昔からある。

以前はこの脇に、忍川といって、不忍池から流れた堀があった。

昭和通りに出る手前で右に曲がり、コレアンタウンを
抜けて、先程の一本北側の通りから、昭和通りを渡る。

この通りは丸井裏の通り。

[上野藪]があるが、今は改装中。
しばらくかかるのか、な。

右に肉の[大山]があって、JRのガードをくぐる。
このガードは餃子の[昇龍]や呑みやの[大統領]がある。

そのまま細い路地を抜けて、中央通り。
ABAB前、三橋(みはし)の交差点。
先ほどの忍川はここを流れていた。
その橋の名前が三橋。(三本あったので。)

渡って、池之端仲町の通りに入る。
この時間はまだこの通りは人通りも少ない。

毎度書いているが、江戸の頃は、春日通りはなかったので
湯島方面へ行く本道であった。

組紐の[道明]やら、落語にも出てくる寶丹(ほうたん)という
薬で有名になった[守田治兵衛商店]やらが今でもある。

仲町通りに入って少し行くと、左側に藪よりも古い江戸からある
蕎麦や[蓮玉庵]がある。
[蓮玉庵]はもとはこの通り沿いではなく、不忍池に面した側にあった。

池之端の藪蕎麦は通りのずっと奥。

おでんの[多古久]が右手にあって、池の端藪蕎麦はその手前左側。

と!。

きてみると、店前に4〜5人列。
あれま。

半端な時間に列とはおかしいと、思ったら、営業が16時半から
ということのようだ。

ついこの間までは、通しでやっていたはずなのだが、
休みを取るようになったのか。

4時半までは5〜6分。

ちょいと、待つ。

見上げると、店上の看板。



この界隈、ビルが立て込んでいるので、見上げたことは
なかったかもしれない。

『池の端藪蕎麦』。

ここの正式な店名は池之端ではなく、池の端と、
なぜだか漢字の『之』ではなく、カナ文字なのである。
(理由はわからない。)

この看板の左側の署名。
見えるであろうか。

『橘右近』としてある。

この人は、故人だが、今、寄席文字と呼んでいる、東京の寄席などで
使われている文字を復興した、家元的な方。
今の東京の寄席などで噺家などの名前を書いた紙、めくり、というが、
が舞台袖に出されているが、これなども皆、この橘右近氏のお弟子さん達が
書いている。

この店との関係でいえば、近所に寄席の[鈴本]があり、よく
落語家が出入りしていたからであろう。
店内には昭和の大名人達の絵入りの珍しい寄せ書きがある。
(この絵、昭和の落語好きにとっては、国宝級である。)

閑話休題

若い衆が出てきて、店前の坪庭に水を撒く。



これ、小さいが、錦鯉が泳いでいる池もある。

4時半、店が開いて、待っている数人がどやどやと、
店の中に入る。

口開けなので、むろん、どこへでも座れる。

私達は、私が気に入っている、先の緑が見える表側のお膳に座る。

さて。
ヱビスの瓶をもらい、肴はなにがよかろう。

品書きを見ると、定番の柱わさびがない。
獲れないのか?!。

板わさに、とろろそばのそばなし、すいとろ。
それから、季節の泉州水茄子でももらおうか。

板わさと、水茄子。



すいとろ。



水茄子は、この季節のものだが、名前の通りみずみずしく、
口の中で皮をかみ切る時の食感がなんともいえず、よい。

ビールをもう一本。

よく、蕎麦やで、居酒屋のように肴を広げて、
酔っぱらうほど呑んでいるグループなどを見かけるが、
これはどうなのであろうか。

やはり、蕎麦やというのは、あたり前だが、
蕎麦を食うところで、居酒屋ではない。
肴の種類もそう多くはなかろう。
今は逆に、肴や酒を売りにしている新しい蕎麦やもある。
しかし、ここのような老舗では、仕上げに蕎麦、ではなく、
あくまで主役が蕎麦で、肴も酒も軽く、に、すべきではなかろうか。
物足りなければ、河岸を替えるのがよかろう。

ということで、わたしは、ざる。



内儀さんは、おろし。



シャッキリと、うまいそば。

気のせいか、今日のつゆは、少しからいような、、。
こちらの体調のせいであろうか。
ここも下町らしく、基本からいが、兄弟店の浅草並木藪ほどでは
なかったと思われるが、、。

勘定をして、ご馳走様でした。

まだまだ、明るい。

やっと少し、涼しくなってきたか。